第二章 神様がいない国

 手負いの鹿が駆け下りていく。坂道とも呼べぬ斜面に血を流して疾走する。


「もっと速く走れ、お前はロバではないだろう!」

 エヴィスはずんぐりとした山岳馬を急かして追う。あまりにも命知らずな騎乗だった。


 鹿は逃げる。馬よりも速く走っていた。鹿はなおも加速し、このままでは逃げられる。


 まだ少し不安の残る距離だった。それでもエヴィスは手綱を離し、足の力だけでまたがって古めかしいカルカノ・モスケットTSを両手で携える。

 ミゼケ平原のしなやかな脚を持つ馬ならもっと縮められたかもしれないと、言ったところでせんないこと。山で乗る馬は脚が速いだけじゃダメだ。


 ボルトを引き開けて空薬莢を飛ばす。閉じて次弾装填し、構える。揺れる馬の背の上で、角の生えた逃亡者を銃口で追いながらバランスを取る。

 引き金を引いた。銃声と肩への揺さぶりを残して飛び立っていった弾丸が、空気の壁を切り破る。


 鹿がその脚で稼いだ距離を、弾は無慈悲にも一瞬で詰めてしまった。


 かつてアルバニアにやってきた侵略者の置き土産であるこの6.5mm口径の騎兵銃は、大きな鹿の命を奪うにはやや頼りなかった。

 しかしエヴィスの腕がそれを補った。前足の付け根にある心臓を正確に撃ち抜かれた鹿は物悲しくも雄々しい最期の叫びを残して斜面を滑り落ち、やがて泥の中で絶命する。


 あっけないものだった。


 それを見届けたエヴィスは馬の手綱を引いて停まらせ、くらから降りて騎兵銃を追い紐スリングで背中に回した。


「よくやった」

 ベスニクの駆る馬が追いつく。彼もエヴィスが仕損じたときに備えてより大口径の騎兵銃を背負って来ていたが、結局1発も撃つことはなかった。


 馬を降りたベスニクは牡鹿の死骸を軽々と担ぎ上げ、エヴィスの馬の後ろに詰んで縛りつける。






 2人はまた馬の背に乗り、村への道を戻って草が青々と生い茂る高地を下っていった。


 柔らかな太陽の光と、ほどよく涼しい夏の風がエヴィスの黒髪を撫でる。


 夏は好きだ。この山の冬は1年の半分以上を占め、そのてつく寒さは嫌と言うほど知っている。


 だが夏の暑苦しさというものは、山を降りたことがある父の話で聞いたことしかなかった。


 若い頃の故障から来る腰痛に悩まされていた父は時折家を空けてこの閉ざされた山から都会の病院へ通うことがあったが、家族で一緒に行ったことはない。


拳銃ピストレータは持ってきたか?」

 前をくベスニクが不意にそんなことを尋ねてきた。


「え? ああ、うん。持ってきたよ」

 鹿をエヴィスの拳銃で殺すことはまず無理だったが、常に例外なく、肌身離さず持ち歩いていた。それがベスニクの教えだったからだ。


「あれが見えるか?」

 射抜くような眼差しで、ベスニクは少し先の切り株が乱立する地帯を睨み据えていた。村の木こりがった跡だ。


「12発だ。馬の脚を停めずにあの中を駆け抜けながら、切り株に12発当ててみせろ。もしそれが出来たならお前を見たこともないような大きな街へ連れていき、仕事を教えてやろう」


「本当?」エヴィスは驚いて聞き返した。「必ず連れていってくれるって、誓いベーサを立ててくれる?」


 エヴィスは一刻も早く働き始めたいと考えていたが、ベスニクにまだそのときではないと言われ続けてきていた。

 ようやく伯父が考えを変え、仕事を得られるかもしれない。


「ああ、これは俺の誓いベーサだ」

「わかった!」

 エヴィスはジャケットの内側に吊るしたホルスターから、あの日ジョルグの命を奪ったR61を引き抜いた。


 ホルスターに使うようになってからはいつも薬室に弾を入れて持ち歩いており、後は安全装置を外して引き金を引けば撃てる。


 最後に息を少し吸って、吐いて、呼吸を整える。


「走れっ」

 左手1本で手綱を操り、馬の横腹を蹴って切り株の群れへと駆けさせる。


 切り株と切り株の間に飛び込むや否や銃口を向け、親指でスライドの横にある安全装置のレバーを押し上げる。レバーの下に隠れていた小さな赤丸が、すなわち撃発可能な状態であることを示す印が露になった。

 そして引き金を引くと人差し指に伝わる少し固く重い感触と共に寝ていた撃鉄が起き上がり、ある境を越えた瞬間に落ちて叩くと銃口が火を吹き、切り株に穿うがたれた弾痕は粉になった木片を吹く。


 スライドが下がって、落ちた撃鉄を自動的に起こす。薬莢が飛ぶ。反動で跳ねて照門フロントサイト照星リアサイトのバランスが崩れる。


 問題はない。銀灰色シルバーグレイの瞳は既に照門を覗いていない。

 馬を転ばせないよう巧みに誘導しながらもさっさと次の切り株を狙い定め、先行する視線に後から銃を追いつかせてまた引き金を引き絞る。2発目からは既に撃鉄が起こされている分だけ引き金は後ろに下がり間隔はより短くなる。


 3発さんぱつ4発よんぱつはつそしてろっぱつ目を切り株に撃ち込んで弾倉マガジンが空になるとスライドが開いた状態のままロックホールド・オープンし、銃自ら射手に弾切れを訴え出た。


 馬を走らせたまま手綱を離して鐙にかける足だけでバランスを取りながら、親指でマガジンキャッチボタンを押して空になったマガジンが抜け落ちるのを左手で受け止める。


 それをポケットに戻し、6発みっちりと詰め込まれた新しいマガジンを叩き込む。それから後退位置で固まっているスライドを掴み、更に後ろへ引いてから離す。

 ロックが解除され、スライドがフレームの上を進みながら薬室に新しい弾薬を送り込んだ。


 そうしているうち、目の前に切り株が迫ってくる。もう馬を曲がらせる余裕はない。左手で手綱を掴み直し「跳べっ」と叫んで促すと馬が指示を聞いたのか、あるいは自身の本能か、切り株を飛び越える。


 すると今度は切り株の群れを抜けてしまいそうになり、馬首をひるがして縦に突き抜けていたものを横に走らせる。

 そのまま一息に6つの切り株を撃ち抜いた。二度目のホールド・オープン。全てはあっという間だった。


 最後にまた切り株を飛び越えて、手綱を引いて速度を落としていく。


 馬を宥めて完全に脚を停めたのを確認してから、マガジンを抜く。


 それからスライドのロックを解除し、ホールド・オープンを解いた。


 次に安全装置を下げて赤い印を隠す。この安全装置はデコッキングレバーの役割を兼ねていて、起きていた撃鉄が戻る。


 そこまでしたところでようやく緊張をほぐし、息を吐く。


「やった」

 吐息をいくらか漏らした後、小さく歓喜の声を混ぜた。

 12発、全てを切り株に捧げ尽くした。灰色の土には1発たりとも食わせなかった。これで仕事に連れていってもらえる。


 浮かれた心持ちで、R61を太陽に向かって突き出す。


 青みがかった鋼のスライドとアルミ合金のフレームが陽の光に照らされてデュオトーンの輝きを作り出し、手の中で宝飾品のような美しさを放っている。


 思えばこの美しさに気づいてしまったときから、ジョルグの命を奪った処刑具が遠い異国ハンガリーの宝物ほうもつへと塗り替えられ、それにつれてずっと手に粘りついていた罪悪感が落ちて狙い通りの場所へ当てられるようになった気がしてならない。


 それを認めてしまうと自分の中の何かが変わって元には戻せなくなるような気がするから、あまり考えたくはないけれど。


「大したものだ」

 馬を寄せてきたベスニクが、静かにそう呟く。  


「お前、歳はいくつになった?」


「11だよ、伯父さん」


「今のお前は、俺が13のときと同じことをしている。俺が5年かかったところまで、お前は男になってまだ1年も経たないうちによくぞ辿り着いた」

 それは容易なことではなかった。


 R61はとても軽い拳銃で、軽すぎるがゆえに撃つと鋭い反動が生じた。

 狙いは狂い、銃が手にくる。それでも撃ち続けるとやがて掌の皮が破け、グリップが血まみれになった。


 それでも銃を置くことは一度もしなかった。


「大人になった今の伯父さんにはまだまだ全然及ばないけれど、ぼくなりに頑張ったよ」

 ベスニクに射撃の腕を誉められるのは、今日が初めてだった。


 努めて謙遜したが、気持ちが抑えきれずに顔がにやけてしまう。


「今夜のうちに荷物をまとめろ」

 ベスニクが再び馬を進めながら言った。


「それと、挨拶回りを忘れるな。お前がここまで腕を磨けたのはお前自身の努力だけでなく、お前に空き瓶や空き缶をくださった人々のおかげでもある」


 瓶は撃てば割れるし、缶もすぐダメになった。自分と妹と伯父だけの生活でそんなに大量の空き瓶や空き缶は出ない。


 だからエヴィスは毎日木箱を持って村を尋ね歩いていた。


 皆が快く瓶や缶を木箱に入れてくれた。


 エヴィスのために缶詰ばかり食べるようになったおばあさんや、毎日必ず酒を1瓶飲み干すようになったおじさんもいる。


 ありがたいことだ。

 

「まずは一番に、アリ先生のところへ行け。当分教えを拝聴できないことをお伝えし、世話になった礼を言うんだ」






 エヴィスは山人たちからアリ先生と呼ばれ尊敬されている老人に師事し、読み書きや簡単な計算、それにカヌンを教わっていた。


 学校には通っていない。この村から通えるような距離に学校はない。


 かつてアルバニアは、バルカン半島の大半がそうであったように社会主義国だった。その頃に一度学校が建てられたが、90年代の体制崩壊と共に教師たちが都会に逃げて廃墟となった。


 教師たちの多くは中央から派遣されてきたよそ者であり、彼等にしてみれば給料が払われる保証もない学校に残る義理などなかったのだろう。


 だから今では、村の子供たちは最低限のことだけを親から教わるか、もしくは謝礼を払える余裕のある家だけが息子を知恵ある人に師事させている。


「アリ先生、お世話になりました」

 村外れの小屋を尋ねたエヴィスは、丁寧に礼を述べた。


 積み上げられた書物に囲まれて座るアリ先生は、穏やかな顔に丸眼鏡をかけ、民族衣装を身にまとっている。

 保守的なこの村であっても、祭りでも儀式でもない普段のときからこの服だけを着続けるのはもうアリ先生のような老人だけになっていた。


「そうか……お前もとうとう、男として働く日が来たのだな」

 アリ先生の顔が苦くなる。


 彼はあの日集まった12人の古老たちの1人であったが、エヴィスが宣誓処女ブルネシャになるのに最後まで反対し思い止まらせようとしていた。


 アリ先生の長く無意味な説得のとうを飾った、遠い昔に起きた悲劇のお話は今も覚えている。


 昔々ある家で、娘ばかり6人も生まれた。家長である父親は「もはやこの家は呪われているのであろう」と嘆息して、娘の1人に処女の誓いベーサを立てさせた。


 だがほどなくして一家の母は7人目を身籠り、生まれてきたのは男児だった。


 既に宣誓処女ブルネシャとなった娘は女に戻りたいと長老に願い出たが、一度立てた誓約ベーサを取り消すことは認められなかった。


 あの話を結んだときにアリ先生が向けてきた厳しいまなざしを見て、これは覚悟を問われているのだと気づけないほどエヴィスは愚鈍な子供ではない。


 そしてそれをわかった上でなお不退転の決心を伝えたとき、アリ先生が見せた悲しそうな顔を生涯忘れることはないだろう。


「ぼくはもう家長です。ルーレを養っていかなければなりません」


「わかっているよ。誓約ベーサを立ててしまった以上、もうお前さんが男として生きていくことに是非もない……だが、何もベスニクと同じ仕事をする必要はあるまい。この村にだって働き口はあるんだ。考え直してみないかね?」


 ベスニクとアリ先生の関係は、あまり良好とは言えない。共にカヌンを信奉する者でありながら、まるで主義が違っていたからだ。


 アリ先生はカヌンでもっとも尊いのは誓約ベーサを守ることと客人をもてなす心であるとし、血の争いについては相手をゆるし、和解を決意した者の名誉は復讐者ジャクスの名誉に勝ると常々説き続けていた。


 この点で血讐ジャクマリャこそカヌンが定めし至上の名誉と考えるベスニクとは相容れないようで、この前も村の酒宴で討論になったばかりだ。


 あのとき席を立って踊っていたエヴィスには、自身の歌声と弦楽器ラフタの激しい演奏に掻き消されて内容は聞き取れなかった。

 ただ、いつまでも平行線を辿っているのは見て取れた。


 やがて老齢のアリ先生がお疲れになっているのを周囲の人々が察して間に入り、討論の勝敗は有耶無耶うやむやになったようだった。


 しかしかくの如く難しい関係でありながらもエヴィスを師事させたのは、思想こそ違ってもアリ先生が尊敬できる人物であることはベスニクもまた認めているからに他ならない。


 ベスニクは常々、アリ先生の言うことはちゃんと聞けと言っていた。


 エヴィス自身、先生の言葉は一言一句漏らさず胸に刻み込んできたつもりだった。

 だが、それでも。


「ありがとうございます。でもぼくが一番尊敬しているのは、伯父さんなんです」


「で、あろうな」

 アリ先生の顔を、深い諦観ていかんと痛みが通り過ぎていく。


「お前は一度決めたことを決して変えない子だ。それを知っていてこんなことを言っているわしは世界一の愚か者に違いない。だからお前にはせめて、自分が往く道がどんな道か理解した上で歩いてほしい」


 丸眼鏡の奥のまなざしが鋭くなる。


「ベスニクはお前に銃の撃ち方ばかり教えてきた。それしか教えてこなかったと言っていい。何故ならあいつがお前にさせようとしている仕事では、必ず銃を使うことになるからだ。そしてこれは一番大事なことだが、鹿のだ!」


 アリ先生の言ったことには、ただの1つも間違いはなかった。


 ベスニクやダーダンが、何の仕事をしているのかエヴィスは知らない。

 ただ彼等は村を出ていることが多く、そして異様に金回りがよかった。普通の仕事ではないのは間違いなかった。


 伯父の背中を追っていけば、これからもあの灰色の山道であったようなことがたくさんあるのはわかっていた。


 だが、それでも。


 それでもだ。


「わかっています……でもしょうは山人の責務で、武装は名誉の証です。現に先生だって銃を持っているじゃありませんか!」

 エヴィスはアリ先生の腰に視線を落とす。先生はモンテネグリン・ガッサーという旧式の回転式拳銃リボルバーを差している。


 元は19世紀に隣国モンテネグロで作られた銃だが、アルバニアでは戦前までとても普及していたらしくて村の老人たちは例外なくこれを持っていた。彼等はきっと8歳の頃から大事に使ってきたのだろう。


「……いや、これは恥ずかしい。返す言葉もないよ」

 アリ先生は心底恥じ入るように苦笑した。


 この人が銃を抜いて撃ったという話は聞かない。だが山人の社会において武装は名誉であり、礼儀でさえあった。


 アリ先生は高名なカヌンの注釈人だ。


 カヌンは山人の生活のありとあらゆるところまで細かく定めているが、でんによって伝わるそれら全てを覚えている者はあまりにも少なく、またカヌンが保証する互いの権利が矛盾を引き起こすのも珍しくはなかった。


 だからいさかいが起きると注釈人が出向き、双方の落としどころを探っていくことになる。


 注釈人はカヌンの全てを記憶し、過去の事例にも精通し、また平等な裁定を下すと人物であるという信用もなければならない。


 そして何より、誓約ベーサたがえる者あらばその手で撃つというほどの胆力も兼ね備えていなければる仕事ではなかった。


 憎しみ渦巻く争いの間に立って仲を取り持つのは、生易しいことではないのだ。


 そのような場に丸腰で出席したら侮られるどころか、本気で取り組むつもりがないのかと誠意を疑われてしまう。


 山人は武器を手放せない。暴力と流血を嫌うアリ先生でさえ、例外にはなれなかった。


 思わぬ反論にアリ先生も己の身の上をかえりみて余程思うところがあったのか、俯いて黙りこくった。


「アリ先生、こんな失礼なことを言ってごめんなさい」

 エヴィスは謝った。自分がとても師を傷つけることを言ってしまったのに気づいたからだ。


 すると先生は顔を上げ、複雑な感情の全てを飲み込んで優しく微笑み「お前の旅路が幸運な物でありますように」と暖かい声で祈ってくれた。






 すっかり夜のとばりが下りた頃、エヴィスは卓袱台ソフラのある居間でリュックサックに荷物を詰めていた。


 村中を回って挨拶をするのに時間を食った。優しいおばさんやおばあさんたちの誰もがエヴィスとの別れを惜しんでなかなか離してくれず、次の家を回るのがどんどん先送りになった。


 おかげで疲れたけれど、明日の朝一番には村を出る。荷物をまとめる時間は今しかない。


「エヴィス」

 背後からルーレに声をかけられて、作業の手を止める。

 後ろを振り返ると、ルーレの目に涙が浮かんでいるのに気づいた。


「なんで、わたしは連れていってもらえないの?」

 ルーレが抱きついて尋ねた。


「ぼくは遊びに行くんじゃないんだよ。働きに行くんだ」

 そう答えたが、ルーレは納得していないようだった。


「働いてお金を稼いだら、ルーレにたくさんのお菓子を買ってあげる。お人形だって」


「お菓子もお人形もいらない。お願いエヴィス、行かないで。わたしはおばさんたちの子じゃないわ。家族はエヴィスだけなの」


 ぐずぐずした声を上げるルーレに、エヴィスはすぐに答えられなかった。


「ルーレ、お花の写真を見ながら話そう」

 小さな身体を抱き締める。すると彼女は不満そうな顔をしていたものの、次第に聞き入るようになっていた。


 エヴィスはルーレを抱き締めたまま、棚の上に飾ってある2つ並んだ写真立てから片方を手探りで取る。


 取った写真を見ると、迷彩服を着た青年が写っていた。


 彼はエヴィスたちのいとこ――ベスニクの息子で、3年前コソボで起きた酷い戦争に18歳の若さで義勇兵として身を投じていた。


 とても強く勇敢な戦士であったそうだが、残念ながら彼が19歳になる日は来なかった。


 伯母は彼を生むときに産後の肥立ちが悪くて早世しており、ベスニクに他の子供はいない。


「間違えちゃった」

 エヴィスが笑うと、ルーレもほんの少しだけ笑った。


 青年の写真を棚に戻し、もう片方を手に取る。


「ほら、見て。ルーレの好きなお花の写真だよ」


 それは黄色い花が咲き誇る花畑の写真だった。ベスニクにこれはひまわりルーレディエーリという花だと教えてもらった。


 ルーレは自分と名前の似たこの花が好きで、写真立てを手に取って眺めていることがある。

 それで以前ルーレが落とした拍子に写真立てから外れてしまい、戻し方がわからないと泣きつかれたのを思い出す。


「いつかは2人で旅に出よう。ぼくがルーレに、本物のひまわりを見せてあげる。だから今回のところは大人しく待ってて欲しいんだ」


「……わかった。でも、なるべく早く帰ってきてね」

 エヴィスは何も言えず、ただ抱き締める腕を強めた。もしかしたらダーダンや、エヴィスたちと暮らす前までのベスニクのように滅多に帰ってこられなくなるかもしれない。


 正直にそう伝えることが出来なかった。





 

 エヴィスが初めて見る大都会は、至るところが車だらけだった。


 しかもそのほとんどがメルセデス・ベンツばかりで代わり映えがない。


「ねえ、伯父さん。この街は何でこんなに車だらけなの? それも全部同じ車ばっかりで、飽きるよ」

 こちらもやはりメルセデス・ベンツのゲレンデヴァーゲンに揺られていたエヴィスは、終わらない渋滞を後部座席の窓から眺めていた。


「ろくでなしのエンヴェルおじさんが生きていた頃は、どいつもこいつも国鉄に乗っていた。僅かな車は全て国有で、運転手は全員この国に1つしかない自動車学校を出た高給取りだった」

 隣の席に座っているベスニクが語り出す。エンヴェルおじさんとは社会主義時代の独裁者エンヴェル・ホッジャのことで、彼の治世にいい思い出がない大人たちには酷く嫌われていた。


「だが社会主義が崩れると、すぐに国鉄はアテにならなくなった。屑鉄目当てにレールが剥がされ、機関車も整備士に給料を出せなければガタが来て動かなくなる。そうなったら自分の足は自分で確保するしかない」

 ベスニクは煙草をくわえて火をつけ、煙を吐きながら話を続ける。


「誰もが車を欲しがり、ドイツから盗むのが流行った。アルバニアの道路はガタガタで、ドイツ人は頑丈な車を作るからな。あの頃はとにかく盗めば盗むだけ飛ぶように売れたんだ。ところがすぐに別の問題が起きた」


 煙を細く吹き出して外の車列を示す。白い煙が窓ガラスにぶつかってふわっと広がり、薄れて消えていった。


「この国の道路はエンヴェルか、あるいはそれより前の時代に敷かれたものばかりだ。道幅は狭く、信号機もろくにない。そんなところへ皆で一斉に車を出せば、まあ、こうなるのは道理だ」


 ベスニクは前の席でハンドルを握っている厳めしい顔をした運転手の肩を叩いて「任せたぞ」と言うと、ドアを開いて歩道に出た。


「お前も降りろ。歩いた方が早い」

 エヴィスもその言葉に従って車外へ出る。


 外はとてつもなく暑かった。


 この街はアルバニア中部の平野にあって、地中海から高温多湿の熱風が容赦なく吹き込んでくる。


 おまけに道を埋め尽くす車の表面からも、反射した日光かエンジンの熱気かわからないものが放出されている。


 それ以上に耐えがたいのが排気ガスだ。燃料の燃えカスが街そのものに漂う埃と混ざり合って酷い悪臭と化していて、山育ちのエヴィスは吐き気を覚えた。


「伯父さん、ぼくは車泥棒たちを恨むよ。そいつらが考えなしにドイツから車を盗んできたせいで、こんな目に遭わなきゃならないなんて」


「そうだな」伯父は煙草をくわえた唇に皮肉めいた笑みを浮かべた。「車泥棒も後悔しているだろうよ」






 目的地のホテルは、市内でも一際大きな建物だった。


 入り口周辺には、いかにも悪童といった風貌の少年たちが真っ昼間からたむろしている。彼等は宿泊客に声をかけてはポケットから出した商品を売りつけようと、漫談めいた口上をまくし立てていた。 

 こんな大都市であればまだ機能している学校はありそうだが、少年たちにとっては商売の方が大事なのか。


「ねえ君、これ買わないかい? 似合うと思うよ」

 いきなり近寄ってきた丸刈りの少年が、エヴィスの耳にイヤリングを当ててくる。


「ぼくは男だ、こんな物は着けない!」

 エヴィスは丸刈りの手を払い除けて怒鳴った。


 すると丸刈りは目を丸くし、笑い出した。


「お前が男? 嘘だぁ、こんな可愛らしい男がいるもんか! それとも本当に男だってんなら、今すぐここでちんちん出してみろよ!」

「きさまっ!」

 エヴィスは怒り任せに丸刈りの襟首を掴んだ。しかしあっと言う間に力で丸刈りに負け、逆にねじ伏せられてしまう。


「ほおら弱い、やっぱり女だ!」

「この野郎!」

 じたばたと暴れたが敵わない。背中に乗られ、髪の毛を掴まれてひんやりとした地面に顔を押し付けられる。「殺してやる! 殺してやる!」と叫ぶことしか出来なかった。


「その辺にするんだ」


 ベスニクの呆れた声が上から降ってきた。


 丸刈りが引き剥がされ、ようやく拘束が解けたエヴィスは立ち上がる。

 そのまま再び丸刈りに飛びかかろうとしたが、ベスニクに割って入られ、片手で遮られてしまった。


「お前、この商売は始めたばかりか?」ベスニクは丸刈りを見下ろして尋ねる。「こう言うことはまず、金を持ってそうな奴に話しかけるものだ」


「ああ、失礼……旦那のお嬢さんがかわいいからついからかっちゃった。あんたはいい男だから、きっと美人の奥さんをもらったんだろうね」


 少し怯んだ丸刈りはへつらいの笑みを浮かべながらイヤリングをポケットにしまい、代わりに金一色の腕時計を出してみせた。「そんな色男の旦那には、これなんか似合うと思うよ」


「お前みたいなガキが、どうしてこんな物を持っている?」


「死んだおれの父さんが着けていたんだ。手放すには惜しいけど、うちにはパンを買う金もないのさ」


「自分の父親が死んだことを、そんな顔で話す奴には会ったことがないな」


「おれが形見だと言ったら形見になるんだよ。旦那にとっても、そういうことにしておいた方が都合いいんじゃないかな? 四の五の言わず値段の話に入ろうぜ」

 暗に盗品であることをほのめかしながら、丸刈りはヘラヘラと笑っている。


 その表情を見てますます不快な気分になったエヴィスは、膨れっ面でそっぽを向く。


 そして周囲に視線を投げかけているうちに、あることに気づいた。


 ホテル前には丸刈りの他にも、何人もの少年がいる。みんな丸刈りより年上で、顔つきも鋭く見える。その彼らがそわそわと落ち着かない様子だったのだ。


 こちらを横目で伺う者、目を逸らす者、商品をポケットに戻して足早に去っていく者……彼らの取る行動はそれぞれ違っていたが、どれもがエヴィスに言い知れぬ不安を抱かせる。


 その答えはすぐに出た。左から鈍い音がしたかと思うと、丸刈りが目の前に勢いよく転がってきて心臓が跳び跳ねる。

 同時に小石か何かが当たったような振動を足の甲に感じた。視線を落とすと割れて転がった血まみれの前歯が自分が履いている革靴に乗っているのに気づき、慌てて足首を振って地面に落とす。


「これからもこういう商売を続けるのなら、金メッキで騙せる相手かどうか、よく人を見て物を売ることだ」ベスニクは歯を拾い上げて丸刈りのポケットにねじ込むと、襟首を掴んで無理矢理立たせた。「それからもう1つ、トラブルが起きたら走って逃げろ。出来そうか?」


 丸刈りは泣きじゃくって返事をしなかった。


 ベスニクはもう1発殴った。


「出来そうかと聞いているんだ」


「ああ、ああ! やるよ! やれるよ!」

 丸刈りは鼻からも口からも血を流しながら必死で舌を回していた。


「今からその練習をするといい」

 ベスニクが手を離すと、丸刈りはふらふらの足取りで逃げていった。歩いているようにしか見えないが、彼はきっと必死で走っているのだろう。


 その後ろ姿を見送ったのと入れ違いに、ホテルの中から従業員がぞろぞろと出てきた。


「困りますね。こんなところで暴力沙汰は」先陣を切っていた中年の男が、しかめ面でベスニクの前に立つ。「支配人として言います。あなたを当ホテルでお泊めする訳にはいきません」


「俺は電話で予約を入れた。お前のところの電話番は了承し、俺は1ヶ月ぶん先払いするために札束をたっぷりと持ってきた。それでいいじゃないか。どうして今更約束をたがえようとする?」


「ええ。早くもあなたを次の雇い主と見定め、媚を売ろうとしている従業員が既に何人もいるのは知っています。ですがこのホテルは私の物です。あなたのような好ましからざる人物の宿泊はお断りさせて頂いております」


「このホテルがお前の物だって? そんな口を叩くのは土地の問題を綺麗にしてからだ」

 ベスニクは支配人の前に立って見下ろした。相手も決して背は低くなかったが、このフランケンシュタインの怪物じみた大男とは頭1つ分の差があった。


「お前は大した男だよ。俺があの小僧をどやしつけるまで従業員そいつらを押しとどめていたくせに、今は平然と俺を咎める。ここまで恥知らずになれる男を俺は見たことがない」

 端から見ていたエヴィスは、支配人の頬が僅かにひくついたことに気づいた。だがそれさえも刹那の間に抑えられ「お引き取りを」の言葉と共にまた元の鉄面皮へと戻っていく。


「また来る」


 意外にもベスニクはあっさりと引いた。


 エヴィスは黙ってついていく。この大きなホテルに泊まってみたかったという未練はあったが、伯父が引くならば従うしかない。

 どこへ行くのかもわからないまま、ホテルからまた歩いた。






 ベスニクについていった先で到着したのは4階建ての小さなビルだった。あのホテルとは比較にならないほどみすぼらしい。


 埃臭い階段を上がって2階へ行く。


 テーブルのある広間で、10人ばかりの男たちがせわしなく料理を掻き込んでいる。

 その一番奥の中央の席に、見知った太っちょが腰を下ろしていた。


「おうベスニク、災難だったな」ダーダンが袖まくりした腕を上げた。「だが予約が取れただけでも上等だ。俺なんか電話をかけたら、よりにもよって支配人あいつが受話器を取りやがってよ。ありゃ運がなかった!」


 エヴィスは驚きを隠せずにいられなかった。ホテルからここまで真っ直ぐ来たのに、もう知れ渡っているとは。


「その顔は、何で知ってるのかって聞きたい顔だな? 俺にはな、アルバニアで起きたことなら何でも知ることが出来る魔法が使えちゃうのよ。お前の伯父さんも同じ魔法が使える。だから俺たちゃこの国にいる限り、互いに隠し事が出来ねえのさ」






「ほらよ、お前さんの1人部屋だぜ」

 あてがわれた部屋は、階段の下にある物置だった。しかも荷物がぎっちりと詰められ、人が入れそうな空間がない。


 その日はひたすら物置の木箱を指定された別の部屋に運び続けた。ダーダンが若衆に手伝わせようかと提案したが、ベスニクは「自分でやらせろ」と言って断った。


 エヴィスが小さな身体で大荷物を運びきり、ようやく与えられた寝袋に入って足を伸ばせるようになったのはもう深夜のことだった。


 翌日からは、更に大変だった。朝一番に目を覚まし、まず炊事と洗濯。それだけなら山にいた頃と変わらないが、人数が違う。


 入れ替わり立ち替わり、全部でどれだけの人間がこのビルを拠点に生活しているのかわからなかった。特に料理はまずいまずいと文句ばかり言ってくる。

 一番うるさいのは、おそらくエヴィスが来るまでやらされていたと思われる年少の者だった。


 ベスニクとダーダン、それにごく限られた男たちは、最上階の一番奥にある入り口に二重のドアがある部屋で何らかの商売の段取りを決めていた。






 昼食の後は、いつもベスニクと一緒にサイクリングに出かける。

 山にいた頃は自転車に乗ったことはなかったが、ベスニクに乗り方を教わったらすぐに乗れるようになった。


 今は毎日こうして出かけながら、この街の地理を教わっていた。

 一向に進まない車道を横目に、自転車で走り抜けるのは気分がいい。


「じゃあ伯父さんは、大人になってから自転車に乗ったのかい?」


「ああ。街で仕事をするようになった頃に練習を始めて、乗れるようになるまで半年かかった」


 並走しながら、風に搔き消されないよう互いに声を張って言葉を交わす。


「最初に自転車を使おうと考えたのは、ダーダンだ。ロバを街で飼うのは難しいと言ってな。もっとも、今じゃあいつが乗るところを見ることはないが」


「ははっ」

 ダーダンが大きな腹を揺らしながら自転車を漕いでいる姿を想像したら、笑いがこぼれてしまった。


 ベスニクは急に自転車を曲がらせた。エヴィスは後ろについていくのに必死で、何とか曲がることが出来た。

「待ってよ伯父さん!」

 それでも若干のロスで距離が開き、ハイペースでペダルを漕いで追いすがる。


 いつものベスニクは、だいたい楽しい場所に連れていってくれた。

 エヴィスが一番喜んだのは、先程までの道を真っ直ぐに行った場所にあるアイスクリーム屋だった。あの甘くて冷たい食べ物は、村には存在しない。


 だが今日の目的地は違った。


 ベスニクは川沿いの工事現場に、声もかけず乗り入れた。エヴィスは驚きながらも伯父を追いかける。


 作業員たちはこちらを一瞥しただけで、誰からも咎められず、目も合わせようとしなかった。どうやらベスニクを知っているようだが挨拶もない。


 ただ、自転車を降りて手で押すベスニクの行く先にいた者はさりげなく退しりぞいた。


 地面を掘る作業をしていた者は土埃を立てないように手を休め、前を横切りそうになっていた者は、慌てて後ずさる。


 この世には平伏したり仰々しい挨拶を述べたりする以外の、むしろ声をかけないことで敬意を表するやり方が存在することをエヴィスは学んだ。目の前の伯父が、それを一身に浴びている。


 やがて2人は、浅く、小さな川の前で自転車を停めた。 


 エヴィスの故郷にも、川がある。切り立った岩山の間を流れていて、透き通った水が太陽のいたずらでライトブルーに輝く川だった。


 でもこの街の川はそうじゃない。濁ってて臭いドブ川だ。


「伯父さん、もう行こうよ。この川とても臭いよ」


 そう訴えたが、ベスニクは動こうとはしてくれなかった。


「この川が臭いのは、この水が街に住んでいる人間そのものだからだ。俺たちも南の連中もやっていることは同じだが、奴等には俺たちのようなカヌンはない」


 ベスニクは語り出した。かつては南の平野部でも山人に似た部族社会が築かれていたが、今やその伝統的な価値観が消えてしまった顛末を。

 外国の支配や社会主義者の台頭、そしてそれらが遺したものさえもなくなった今のアルバニア。


「伝統も信仰も消え、代わりに居座ったあの馬鹿げた思想も消えたこの国には、芯のない欲望だけが残った」

 ベスニクが石を拾い上げて、川へと投げ込む。


 エヴィスは弧を描いて飛んでいく石が小さな水柱を作り、水面に波紋が浮かんで消えるまで目で追った。


「……近いうちに、お前に頼みたい仕事がある」


「みんながやっているみたいな?」

 若衆たちはよく自転車に乗って出かけている。彼等は何かの伝言、何の配達、何かの集金と、皆よくわからない仕事をしていた。


 自転車の乗り方を教えてくれたのも、やがては自分に彼等がやっているような仕事を与えるつもりなのかと思っていた。


「いずれはそういう仕事を任せることもあるかもしれないが、今は別のことを考えている。だがその話をするのは後にしよう。ちょうど面白いものが見られるところだ」

 ベスニクが川の向こうを顎で示した。


 反対側を、1人の少年が歩いていた。


 見覚えがある。ホテルを門前払いになったあの日、ベスニクが殴った丸刈りだ。


「あいつはこの川沿いの家に住んでいるんだ。あれからまた学校に通うようになってたのは、ああいう生き方が自分には向いていないと悟ったのだろうな」


「へえ、いいことじゃないか」

 エヴィスは微笑んだ。


 丸刈りはホテルの前にいたときのように笑ってはいなかったが、それでもどこか毒気が抜け、むしろ生き生きとしているようにも見えた。


 彼がこのまま大人になって真っ当な職に就き、家庭を持ち父親になるならば、胡散臭い商売に片足を突っ込んでいた時期もただの笑い話となる日が来る。

 あるいは自分の前歯と引き換えに運命を変えてくれた大男に、感謝するかもしれない。


「殺せ」


 聞き間違いかと思ってベスニクを仰ぎ見る。だがその顔を見たら、そうではないとすぐにわかった。


「お、伯父さんはあいつのこと、もう十分懲らしめてやったと思ったんだけど」

「俺はな。だがお前はまだ借りを返していない」

 ベスニクはエヴィスの前にしゃがみこみ、じっと見つめてくる。

 

「男を男たらしめるのは、体でも歳でもない。大切なのは侮辱を受けたら決してそのままにしておかないと言うことだ。そして何よりお前自身が、その口であいつに殺してやると言ってしまったんだ」


 理路整然と、淡々とした声。吸い込まれそうな黒い瞳には、何の感情も見えない。


「俺はあの宣誓の日よりこの方、お前を本物の男だと認めている。だから男らしくない振る舞いはするな」


 この目は以前にも見たことがある。あの山道のときと同じ目だ。

 

 エヴィスは唇を噛みながら空を見上げる。あんなに晴れていた青空が、いつの間にか灰色に曇っていた。


 やがて息をひとつ吐いて、自転車に乗る。


 工事現場から漕ぎ出して、川沿いの道を走らせた。丸刈りの姿が見えてくると速度を落とし、向こうにいる丸刈りを追い越さないように気を付けた。


 前方に小さな橋が見えた。川を渡る。ペダルを漕ぐ足を早める。自転車は加速し、どんどん距離が詰まっていく。そして追い抜きざまに片手をハンドルから離し、丸刈りの後頭部を撃ち抜いた。

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