花時計
ねむるこ
第1話 スイートピー
「急がなきゃ!」
灰色の髪が走る度に揺れる。首に掛けた
「いてて……」
膝を
子供が転ぼうと周囲の人達が足を止めることはない。
「あと5分45秒しかない、授業に遅れる!」
そういうグレイも先を急いでいた。自分の怪我のことなど気にせず立ち上がる。
「ちょっと。そこの転んでしまった人。灰色の髪の人」
不意にグレイは声を掛けられて立ち止まる。街で突然話しかけるなんて久しぶりのことだった。
「これぐらい何ともないよ。お婆さん。それじゃあね……」
「待ちなさいったら。怪我したところ手当してあげるから」
お婆さんの申し出にグレイは顔を曇らせた。
「そんなことをしたら授業に遅れてしまいます。時間は
「そう言わないの。本当は痛いんでしょう?ばい菌がはいったら大変よ。授業より身体の方が大事でしょう」
「あーもう。分かったよ!」
お婆さんに向かって歩みを進める。普段通り過ぎて行くだけの道で立ち止まるのは気が引けた。時間を無駄に使っている気がしてしまうのだ。
「花壇?こんなの前からあったっけ?」
グレイの目に美しい花壇が映し出された。ただの花壇ではない。時計の形をしているのだ。時計の針まで花であしらわれている。
白、ピンク、赤……。様々な花の種類が植わっているというのに雑多な感じはない。1つの絵画のようだった。特に時計の針の部分に巻き付いている
壊れてしまっているのか。時計の針が動く様子はなかった。
「ずっと昔からあったわよ。誰も気が付いていないみたいだけどね」
グレイを花壇の縁に座らせるとお婆さんは手際よくポシェットから清潔な布と消毒液を取り出す。
「
グレイがお婆さんの手元を見つめる。
「この花壇の世話をしているからね。よく手を怪我するのよ」
「いてっ」
グレイの声にお婆さんがくすっと笑う。グレイは楽しんでいるお婆さんを見てふくれっ面をした。
「はい。これで大丈夫」
布を当てた上にテープと包帯で傷口を覆ってもらった。足は動かしにくいが先ほどよりも痛みはない。
「ありがとう……ございました」
グレイは照れくさそうに礼を述べた。
「いいのよ。それと急がなくても大丈夫なのよ」
「……?あ!授業!」
グレイは立ち上がると、懐中時計を見る間もなく走り出した。お婆さんの言葉から自分が急いでいた理由を思い出す。
「大変だ。だいぶ時間を使っちゃった!」
時計の花壇から離れると、いつも歩いている道に戻った。
「遅れてすみませんっ!」
教室に入るなり、笑い声が巻き起こる。グレイは何故笑われているのか分からなかった。教室には様々な年齢、国籍の人々が集まっている。その中の、黒髪の少女が口を開いた。
「グレイ、授業までまだ2分34秒あるわよ」
「え?」
グレイは慌てて首に下げた懐中時計を見下ろす。
(どうしてだ?怪我を手当てに10分以上はかかったはずだぞ)
笑い声の中、グレイは一人、顔を
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