開き直るの、ちょっと早くない?

「ルアーナに僕の毒殺を指示したのは、ジル先輩の従者であるアリーナ。さらにそうするように指示をしたのは、そこにいるアントニオ王子ですよ」


 僕は高らかに宣言し、アントニオ王子を指差した。

 だけど……当の本人も含め、思ったより反応が薄いなあ。これじゃまるで、僕がスベったみたいじゃないか。チクショウ。


「っ! ルートヴィヒ殿下! 話が違うじゃない! アリーナ様は助けてくれるって! そう言って!」

「……ルアーナを静かにさせて」

「むぐっ!? んー! んー!」


 唯一盛大に反応してくれたルアーナだけど、ジル先輩の指示を受けた衛兵によって口を塞がれた。

 でも、怒りが収まらないのか、ルアーナはジタバタ暴れようとする。


 あはは、そんな目で見られても知らないよ。


「ルートヴィヒ殿下……そのようなことを言って、冗談では済まされないですよ?」

「もちろんです。何なら、僕も『ガベロットの掟』にならって、問われたことに対し真実のみを告げると約束します。ルートヴィヒ=フォン=バルドベルクの名にかけて」


 チワワの殺気のこもった視線を受け流し、僕は微笑みさえたたえながら左胸に手を当ててお辞儀をした。

 ジル先輩も身内を救えると思ったら、今度は別の身内が犯人に仕立て上げられたんだから、心中穏やかじゃないよね。


「ふむ……ルートヴィヒ殿下、それは聞き捨てなりませんね。どうしてこの俺が、あなたを殺害する必要が?」

「まあまあ、慌てないでください。これからゆっくり説明しますから」


 芝居がかっているように肩をすくめるアントニオ王子を、僕は笑顔でたしなめる。

 本当によく言うよ。イルゼが全部証拠をつかんでいることくらい、既に承知の上のくせに。


 まあでも……それでも、この場をやりこめる自信があるんだろうな。

 その口で丸め込むのか、衛兵を含め既に買収済みなのか、あるいは別の方法・・・・なのか。


 ガベロットの今後を考えれば、他の者達が既に買収されていることだけは避けたいところだけど。

 そんなことになったら、これから統治するジル先輩が大変な目に遭うからね。


「これを見てください」

「? ルートヴィヒ殿下、それはなんですか?」


 書類の束を高々と掲げる僕に、いぶかしげな表情のジル先輩が尋ねる。


「アントニオ王子の部屋にあった、イスタニア魔導王国との契約書です。ここには、今後『魔導兵器』をはじめとした魔道具の数々を、ガベロット海洋王国が独占して販売することが記されています」

「っ!? 『魔導兵器』って、あの!?」


 他の連中がピンときていない中、ジル先輩は『魔導兵器』のことを当然知っているから、驚きの声を上げた。


「はい。そして、ガベロットが独占的に『魔導兵器』を取り扱う条件の一つに、僕の殺害というものが含まれていました」

「っ!? アントニオ兄様!」

「…………………………」


 ジル先輩は目を見開いてアントニオ王子を問いただすが、当の本人はとぼけた表情を浮かべている。

 まるで、自分には関係ないと言わんばかりに。


 だけど……あはは、僕も恨まれたものだね。

 そもそも、あの実技試験でのことは、イスタニアが『魔導兵器』をベルガ王国に売り込もうとして、それで無能なセルヒオ王子がカレンを無理やり暴走させて失敗し、あんなことになっただけだっていうのに。


 これじゃ、逆恨みもいいとこだよ。


「さらに付け加えると……フランチェスコ陛下」

「む……私か?」


 ここで話を振られるとは思わなかったんだろう。

 フランチェスコ国王は、呆けた表情を浮かべている。


「お身体の具合が悪くなってから、今は薬を欠かさず服用されていますよね?」

「あ、ああ……それはもちろん」

「その薬……どうやって手に入れているんですか?」

「む……」


 ここまでくれば、敏いフランチェスコ国王のことだ。

 薬の出所と、持病の悪化について思い至ったみたい。


 そう……フランチェスコ国王がこれまで服用していた薬は、アントニオ王子が治療薬と称して飲ませていた遅効性のだ。

 これは、薬に精通しているイルゼだから発見できた。


 アントニオ王子の部屋に僕が飲んだ毒とは別の毒を発見したことで不審に思い、イルゼがわざわざ国王の部屋に忍び込んで手に入れた薬を調べたんだ。


 そうしたら、双方の薬が見事に一致した。


「……つまり、フランチェスコ国王の病の正体は、アントニオ王子の毒によるものだったということです」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 父様はボクが帝立学院に入る前……つまり、二年以上も前から病気なんだよ!? そんな頃から、アントニオ兄様が父様を、その……殺そうとしてたの……?」


 あまりのショックからか、ジル先輩がいつものジル先輩に戻り、おずおずとアントニオ王子をうかがう。

 まさか、自分の肉親を手にかけるだなんて、思いもよらないだろうしね……。


 なのに。


「そうだ。俺がこのガベロットの王になるのに邪魔だから、バレないようにゆっくりと父上を殺すつもりだったんだが?」


 アントニオ王子は悪びれもせず、両手を広げてわらってみせた。

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