ヒロインの水着姿……最高か? 最高だな

「ふう……イルゼ、どうだった?」


 微妙な空気のまま晩餐会が終わり、部屋に戻るなりイルゼに報告を求めた。


「はい。今夜に・・・関しては・・・・、怪しい動きはありませんでした。ただ……」

「ただ?」

「給仕をしている際、出席していた貴族達は、口々に話をしていました。アントニオ王子とマッシモ王子、どちらにつくか、と」


 なるほど……ジル先輩曰く、フランチェスコ国王は病に臥せっていて、ガベロットも次の後継者を考えないといけない。

 そして今、この国は後継者争いの真っ最中……ってことか。


 うわあ……タイミング的に、嫌な時に遊びに来ちゃったなあ……。


「ルイ様、いかがなさいますか?」

「そうだねえ……」


 少なくともマッシモ王子からはメッチャ嫌われているし、フランチェスコ国王も何故か僕を威嚇してくる。後継者争いによる険悪な雰囲気を含め、正直言ってかなり居心地が悪い。

 じゃあ、予定を切り上げて帝国に帰るかといえば、答えはノーだ。


 ジル先輩につらい思いをさせたくないというのもあるし、僕にだって目的・・もある。


 だから。


「……当初の予定どおり、ここには一週間滞在しよう」

「よろしいのですか……?」

「うん」


 どうやらイルゼとしては、僕を気遣ってここを引き上げたほうがいいと判断したみたいだけど、ちょっと申し訳ないな。


「……また、あのお魚をたくさん食べられる」

「あはは、そうだね」


 カレンは魚料理がよほど気に入ったらしく、このまま滞在できることを喜んでいる。

 まあ……あの兄弟に関しては関わり合いにならないようにして、僕達はジル先輩とだけ付き合って、目的を果たすことにしよう。


「……そう上手くいけばいいんだけど、ねえ」

「……? マスター?」

「いや、何でもないよ」


 僕は苦笑しながらカレンの頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。


 ◇


「お待たせいたしました」

「えへへ……ルー君、どうかな……?」

「…………………………むう」


 次の日、僕達はジル先輩の案内でガベロット王室御用達ごようたしのプライベートビーチへとやって来た。

 そして今、僕はこれでもかというほど三人を凝視している。


 い、いや、だってさあ……こんなの、どうしても見てしまうって。

 イルゼは黒のビキニスタイルで、その巨大なお胸様がこぼれそうになっているし、ジル先輩もジル先輩で、フリルのついたタンキニなんだけど……胸の大きさが、あのイルゼに匹敵するなんて……こんなの、反則(最高)だよ。


 そして、何といっても極めつけはカレン。

 どうしてこの世界にそんなものがあるのかと、製作した同人サークルを丸一日かけて賞賛……ゲフンゲフン。説教したくなるような、クラシックタイプのスク水だなんて……至高か? 至高だな。


「……ウチも、イルゼやジルみたいな胸に改造したい」


 ぺったんこな胸をぐにぐにしながら、不満げに口を尖らせるカレン。

 馬鹿だなあ……ちっぱいだからこそ、そのスク水が最高に映えるのに。


「と、とりあえず、海に入ろうよ!」

「はい」

「うん!」

「……入る」


 僕は思わず自己主張してしまいそうなオークをクールダウンさせるため、大急ぎで海の中に飛び込んだ。

 まあ、僕は二百キロも体重があるので、泳ぐというよりかる、といったほうが正しいけど……って!?


「わぷっ!?」

「あはは! 油断するからだよ!」


 思いきり海水をかけられ、僕は思わず咳き込む。

 悔しいので、お返しとばかりに水をかけると。


「キャッ! あはは、もう!」


 ……そういう可愛い声を出されると、否応なしにジル先輩は女の子なんだと再認識させられるなあ。

 というか僕、明らかに喪男なら絶対にあり得ないような、可愛い女の子三人を独り占めしてプライベートビーチで遊んでいるこの状況……。


 ひょっとしてこれは、バッドエンドに向けたフラグの一つだったりして。

 いやいや、まさかそんなことないよね? ね!


 ◇


「あはは、すごく遊んだね」

「はい!」


 二時間ほど海の中で遊んだ後、僕達は砂浜で寝転がっていた。

 太陽の陽射しが温かくて、心地いい。


「そうだ。実は、ジル先輩にお願いしたいことがあるんです」

「お願い?」

「はい」


 ちょうど良い機会だと思い、僕はここに来た目的・・について話した。


 それは。


「へえ……ガベロットの商船を使って、西方諸国の各国へ品物を流通するのかあ……」

「はい。今、僕が出資している“シン・バルドベルク同盟”では安価で質の良い一般市民向けの服などを作っています。今度、帝国内で事業を拡大するんですが、その流通をガベロットに担っていただきたいんです」


 口元に手を当てながら考え込むジル先輩に、僕は身を乗り出す。

 これは、“シン・バルドベルク同盟”を発展させて、帝国だけでなく多くの国でも貧困をなくしたいという思いもあるけど、もう一つ目的があった。


 それは……西方諸国における、ガベロット海洋王国の評価を改めること。


 品物を通じて“シン・バルドベルク同盟”の認知度とブランド力を高め、それと同時に流通部門でパートナーシップを結ぶガベロット海洋王国を売り込む。

 そうすれば、中央海メディテラの覇権を握るガベロットの価値も高まり、未だに国家として認めない国々も、考えを改めるはずだ。


「……いかがでしょうか?」

「うん……それはガベロットにとってもすごくありがたい話だし、ひょっとしたら今の状況を抜け出すきっかけになると思う」

「! じゃあ!」

「だけど……これは、今のガベロットじゃ無理だよ」

「それは……どうして、ですか……?」


 納得ができず、僕はジル先輩に詰め寄る。


「あはは……父様も、二人の兄様も、そんなこと望んでない……もん……」


 ジル先輩は、一滴ひとしずくの涙をこぼし、力なく笑った。

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