ガベロット海洋王国の歓迎
「んー……イルゼ、おかしくない?」
「完璧です、ルイ様」
ジル先輩が僕達のために開催してくれる晩餐会に参加するため、僕は正装に着替えて感想を尋ねたら、イルゼの鼻息が妙に荒いように感じる。
ま、まあ、悪くない評価みたいだからいいんだけど。
「……マスター、ウチはどう?」
「もちろん、カレンも綺麗だよ」
「……えへへ」
普段のメイド服とは違い、ドレスに着替えたカレンの頭を撫でてやると、嬉しそうに口元を緩めた。
ちょっと同い年の女の子によしよしするのはさすがにどうかと思うけど、何というか、見た目が中学生と小学生の間にいるような感じだからか、ついついそんなことをしてしまうんだよなあ……。
まあでも、本人もまんざらではない様子だし、よしとしよう。
それよりも。
「……イルゼ、ごめんね? 本当なら、君も一緒に晩餐会を楽しんでもらうべきなのに……」
未だにメイド服のままのイルゼに、僕は肩を落としながら謝罪する。
到着直後のマッシモ王子の行動、さらにはアントニオ王子の呟きを踏まえると、ジル先輩の手前さすがに表立って事を構えるようなことはしないと思うけど、その裏では何をしてくるか分からない。
特に、この晩餐会では。
なら、あえてイルゼにはお手伝いの名目で給仕に加わり、裏方の怪しい動きを察知して未然に防いでもらうことにした。
カレンは魔法に関しては最強だけど、それ以外はその……まあ、色々とお察しなので。
一応、彼女の名誉のために言っておくけど、カレンは一生懸命頑張っているからね?
ただ、その度に褒めてほしくて僕のところにやって来るけど……いや、そんなカレンも可愛いんだけどね。
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、これこそが私の本来の仕事。むしろ、このような重要な役割をお与えいただけたこと、本当に嬉しく思います」
胸に手を当て、お辞儀をするイルゼ。
その表情や声、何より僕を見つめる藍色の瞳からも、その言葉が決して嘘じゃないことが分かる。
「それより、そろそろお時間です」
「うん……カレン」
「……えへへ」
カレンの手を取り、僕達は会場へと向かう。
近づくにつれ、タキシードやドレスを着た貴族達の姿もちらほら見受けられるようになった。
最初のあの出迎えのイメージがあるから、もっと荒々しくて野蛮な感じなのかと思ったけど、少なくとも出席者からはそんな雰囲気は感じられない。
結局のところ、この国の本当の素顔はどういったところにあるんだろうか……って。
「……考え事?」
「え? あ、あはは、ごめんごめん。僕もあんまりこういった場所は得意じゃないから、つい緊張しちゃって」
おずおずと顔を
「……ん、マスターの気持ち、よく分かる。ウチもこんなパーティーに参加するのは、生まれて初めて」
「え? そうなの?」
カレンが僕の手をキュ、と握って頷く。
そうか……イスタニアは、本当にカレンのことを……。
「じゃあさ、今日は目一杯楽しもう! ジル先輩のことだから、美味しい魚料理をこれでもかと用意しているはずだし!」
「……ん、マスターと一緒に楽しむ」
カレンはアメジストの瞳を輝かせ、嬉しそうにはにかんだ。
◇
「国王陛下及びアントニオ殿下、マッシモ殿下、ジルベルタ殿下のご入場です」
既に着席をして晩餐会の開始を待つ中、侍従の一人が高らかに告げる。
それと同時にホールの扉が開かれ、白髪の壮年の男性を先頭に、王族の四人が入場した。
あれがガベロット海洋王国の国王、“フランチェスコ=ピエトロ=ガベロット”か……。
その後ろにアントニオ王子、マッシモ王子と続き、その後ろに……っ!?
「ジル、先輩……」
僕は、思わず彼女の名前を漏らす。
帝立学園での、僕の知っているジル先輩とは違う、可愛らしい唇に薄くルージュをひき、その瞳と同じ緑色のドレスをまとった姿に、目を奪われてしまった。
男子の格好をしていた時も、可愛らしい人だとは思っていたけど……本来のジル先輩は、こんなにも綺麗だったんだな……。
そう考えると、男と勘違いしてあんなことやこんなことをした自分を殴ってやりたい。というか、穴があったら入ってその上から埋めてほしい。
「今日は我が娘、ジルベルタの友人であるバルドベルク帝国の皇太子、ルートヴィヒ殿下にお越しいただいた。これは、ガベロット海洋王国の二百年の歴史の中で、初めてのことである」
え? そうなの?
国交があるし、何なら取引先だし、皇族の誰かがこの国に来るくらい、普通にあると思っていたよ。
「これは
……ちょっとしてやられたなあ。
僕としては、ただ大切な仲間のジル先輩のところに遊びに来ただけなんだけど。
ただこれは、こうやって政治利用されることまで思い至らなかった、僕の落ち度だ。
とはいえ、これがきっかけでガベロットの評価が少しずつ変わっていくことになるんだったら、僕自身は大歓迎だけど。
「そして、ガベロット海洋王国とバルドベルク帝国との橋渡しという重責を担った我が娘ジルベルタを、大いに讃えたい」
――パチパチパチパチパチ。
来賓の貴族達が、盛大に拍手を送る。
僕も、少し恥ずかしそうにしているジル先輩に、同じく拍手を送った。
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