今度のヒロインはロリ枠です
「……何事?」
「っ!?」
頭を押さえながら起き上がった女の子を見て、僕は戦慄する。
だって……この子どもと見紛うほど小さな女子生徒は、『醜いオークの逆襲』のメインヒロインの一人で、聖女と並ぶ最強の魔法使い……いや、魔
――イスタニア魔導王国第一王女、“カレン=ロサード=イスタニア”。
まさか彼女までこの帝立学院に留学しているなんて、思いもよらなかった……って、それどころじゃない!
「そ、その、手を……」
「……ん」
まるで仮面を被っているかのように無表情の彼女は、抑揚のない声で返事をして僕の手を取った。
……僕が“醜いオーク”だって、気づいていないのかな。
「本当にすみませんでした! その……怪我はありませんか?」
僕は、立ち上がったカレンの顔色を
綺麗な黒髪を三つ編みおさげにし、六芒星が描かれたアメジストのつぶらな瞳。
黒縁眼鏡をかけたその顔は、美少女ではあるけれど可愛らしい桜色の口から
身長はジル先輩と同じく百四十センチくらいで、見た目も中学生……いや、小学生に間違えられてもおかしくない。
……まあ、一言で言ってしまえば、いわゆるロリ枠というやつだ。
しかも、クールではあるものの一切デレがないタイプの。
そんな彼女とは当然ながら敵対関係になりたくないので、全力でご機嫌取りに走らせてもらおう。
何といってもこのヒロイン、一般常識が通用しないタイプだから。
「……ん、問題ない」
「そ、そうですか……」
何事もなかったかのようにスカートを払う彼女を見て、僕は胸を撫で下ろした。
とにかく、このまま目をつけられないようにして、一切関わらないようにしないと。
「……ウチ、もう行くから」
「あ、は、はい……本当に、すいませんでした……」
「……ん、もういい」
カレンは、そのままこの場を去っていった。
ふう……とりあえず、何とかやり過ごせたぞ……って。
「え、ええと、どうしたの……?」
「…………………………」
遠ざかるカレンの小さな背中に射殺すような視線を向ける、腹黒聖女。
普段はあまり見せない表情に、僕も驚きを隠せない。
「……ルートヴィヒさん、彼女のことはご存知ですか?」
「え? い、いや、僕は……」
もちろん、前世でプレイした『醜いオークの逆襲』のメインヒロインの一人として存じ上げてはいるけど、こっちの世界では初対面なので、この答えは嘘じゃないぞ。
「彼女はカレン=ロサード=イスタニアと言って、その名から分かるようにイスタニア魔導王国の第一王女です」
「そ、そうだったんだ……」
はい、存じ上げております。
何なら、その残念なスリーサイズまでそれはもうバッチリと。
「あのイスタニア魔導王国に関しては、ミネルヴァ聖教会でも注視しております。特に、
聖女の言う『
魔力を増強するための薬物の製造及び投与、自然破壊すらもいとわない大規模魔法の実験、そして……『魔導兵器』の開発。
これらの全てに関して一切明かされておらず、日の目を見るのは“醜いオーク”のルートヴィヒ率いるバルドベルク軍との戦闘においてだ。
一応、『醜いオークの逆襲』ではイスタニア魔導王国はストーリー中盤あたりで登場するので、攻略に関してはそれほど難易度が高くない。
何といっても、『魔導兵器』さえ抑えてしまえばそれ以外のユニットは大したことはないからね。
それに、『魔導兵器』も物理攻撃にはすこぶる弱いし、仮にオフィーリアが自軍にいたら、戦闘パートの攻略は全敵国中最速クリアを狙えるほど簡単だ。
ただし、こちら側に“神官”といった魔法防御が得意なモブユニットがそれなりにいる場合、あるいは商人から『破魔の盾』を購入し、装備している場合だけど。
「……いずれにせよ、ルートヴィヒさんをはじめ、皆さんが関わり合いになるような方ではありません。そのことだけ、頭の隅に置いておいてください」
「む……だが、あくまで国は国、彼女は彼女だろう。色眼鏡でそのように断じるのは、さすがにどうかと思うぞ。それこそ、ジルベルト先輩の時と、同じ過ちを繰り返すつもりか」
オフィーリアの言うことはもっともだ。
あくまでも非人道的な実験を行っているのはイスタニア魔導王国であり、カレン自身が行っているわけじゃない。
……なんて、そんなことが言えたら楽なんだけどね。
「今回はそのような簡単な話ではないのです」
「むむ……」
聖女のあまりの剣幕に、あのオフィーリアが思わずたじろぐ。
彼女がどこまでカレンのことについて知っているのかは分からないけど、今回ばかりは同意見……というわけでもないんだよなあ。色々と難しい。
「僕は、ナタリアさんの言うことにも一理あると思う」
「ルートヴィヒ!?」
「よく考えてごらんよ。さっきオフィーリアが言ったようなジル先輩の時の失敗を踏まえても、それでもナタリアさんは僕達を心配してくれて、あえてここまで忠告してくれたんだと思うよ?」
「む……そ、それは……」
オフィーリアが言い淀む。
「それに……ナタリアさんは、自分の責任で話せるぎりぎりのところまで話してくれたんだと思う。僕達にも話せないような、色々な問題について抱えながら。そうだよね?」
「…………………………」
聖女も、聞かれたからってそう簡単には答えられないよね。
でも、その無言は肯定と受け止めさせてもらうよ。
「だから、彼女のことはこれでおしまい! とにかく僕達は、期末試験に集中しよう!」
「う、うむ……そうだな、それがいい」
「うん」
「「はい」」
僕の言葉に、オフィーリアを含め、頷いてくれた。
うんうん、この場はこれにて一件落着だよ。
「さあ、帰ろう!」
僕達は校舎を出て、寄宿舎へと向かう。
「……まあ、このままただで済むなんてことはないだろうなあ……」
「? ルイ様?」
「あはは、何でもないよ」
不思議そうにこちらを見るイルゼに、僕は誤魔化すように笑った。
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