ちょっと池に潜ってみるよ
「ルートヴィヒ、こんな時間にこのような場所へ私達を連れてきて、一体何をするつもりなんだ?」
僕はオフィーリアとクラリスさんを連れ、荷物を持ってポルガの街外れにある池へとやって来た。
調べたところによると、ポルガの街はこの池の水を、飲料用をはじめとした生活用水として利用しているらしい。
なら、当然この池の底に『石竜の魔石』があるはずだ。
「オフィーリア殿下……ひょっとしたら、ルートヴィヒさんはこの池の『石竜の魔石』を回収なさるおつもりでは……」
「クラリスさん、正解」
「っ!?」
おそるおそる話すクラリスさんにおどけてみせると、オフィーリアが目を見開いた。
「な、何を考えているんだ! 『石竜の魔石』を回収するとなったら、この広い池の底を探さないといけないんだぞ! こんなところに入ったら、それこそ石化して……っ!」
「もちろん分かってるよ。でも、これ以上被害を拡げないためにもやるしかないんだ。そのために、こんなに大量の『吸魔石』を用意したんだから」
担いだ袋を地面に置き、『吸魔石』が詰まった中身を二人に見せる。
ゲームと同じ仕様なら『吸魔石』は一度だけの使い捨てアイテムだけど、これだけあれば何十回も潜れるからね。
あとは。
「この『アクアポーション』があれば、水中活動だって可能になる。ただし、効果時間が五分しかないから、水中と地上を何回も行き来しないといけないけど」
「そういうことを言っているのではない! いくら『吸魔石』があるとはいえ、最も石竜の魔力に汚染されているところに入ろうというのだぞ! それこそ自殺行為だ!」
「心配しなくてもいいよ。池に入るのは、この僕だけだから」
「「っ!?」」
もちろん、僕はバッドエンドを回避して平穏な余生を過ごすんだから、こんなことで死ぬつもりなんてない。
何度も言うけど、『吸魔石』があれば石化状態は解除されるわけだし。
「僕は“醜いオーク”。今は見た目こそ痩せたけど、君達も知っているとおり体重は二百キロもある。水に浮かんでしまうこともないし、水の底を探すには適任だよね」
「……軽く言ってくれる……っ」
黄金の瞳で僕を見つめながら、オフィーリアが唇を噛んだ。
いやいや、軽い気持ちだったら、わざわざイルゼがいないタイミングで回収しようなんて思わないよ。
彼女がいたら止められることは絶対に分かってるし、だからこそ聖女へのおつかいの任務を与えたんだから。
「とにかく、僕が死なないで済むかどうかは、二人にかかってるんだから頼んだよ?」
「そ、それは……?」
「ん? もちろん、僕の
脳筋ヒロインのオフィーリアにしては珍しく困惑しているけど、そろそろ覚悟を決めてほしいなあ。
早くしないと、イルゼが任務を終えて戻ってきちゃうし。
「ルートヴィヒ……このオフィーリア=オブ=ブリント、絶対に君を死なせたりはしない! もしそうなったら……この私も、君に殉じるッッッ!」
「いやいやいやいや。そういうこと言うと縁起が悪いからやめようね」
というか、バッドエンドフラグを折ろうとしているんだから、逆に増やしてどうするんだよ。
思わず呆れてしまい、僕は彼女をジト目で睨んだ。
「ハア……それじゃ、さっさと終わらせるとしよう」
「ルートヴィヒ……気をつけるんだぞ」
「ルートヴィヒさん……ご武運を」
悲壮な表情を見せるオフィーリアとクラリスさんに見送られ、僕は『アクアポーション』を一気飲みし、『吸魔石』を口に含んで池の中に入った。
あーもう、あんな顔されちゃったら、絶対に無事に戻らないとね。
ということで、僕は池の底を必死に探す。
かなりの広さがある上に、既に夜を迎えているせいで暗くて手探りになってしまう。
まあ、だけど。
「(石化の進行が早くなる方角に『石竜の魔石』があるはずだから、迷うことはないんだけどね)」
右手をかざし、皮膚が石化するスピードが速くなる方向へ、僕は歩を進める。
まだそれなりに距離が離れているにもかかわらず、加えて『吸魔石』の効果もあるはずなのに、僕の身体の一部が石化してしまっていた。
一番汚染濃度の高いところ……いや、『石竜の魔石』そのものに触れたら、どうなるのかな……って、いやいや、今さらそんなことを心配しても仕方ない。
僕はかぶりを振り、石化が進む身体に不安を覚えつつも、池の中をさらに進んでいく。
途中、『アクアポーション』の効果が切れて陸に上がった時の、オフィーリアの泣き出しそうな表情は
そして。
「(これ……だ……っ)」
全身の七割ほどが石化し、無理やり足を引きずってたどり着いた場所には、禍々しい紫色の淡い光を放つ直径三十センチほどの球体を発見した。
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