オフィーリアのパパ、メッチャ怖い
「みんな、準備は……って、聞くまでもないよね」
各自準備を整えた後、僕達は今、寄宿舎の門前に集合している。
正直、未知の病気が待ち構えているので、僕達だって命の危険がある。
それでも……うん。みんな、覚悟を決めた表情だ。
「それじゃ、皇宮へ向かおう」
全員乗り込んだ馬車が、皇宮へ向けて出発した。
ゲートは皇宮内と帝都の外務の政庁に設置されているけど、今回は皇宮にあるものを使うことにした。
外務局にゲート使用の申請をしたら、未知の病気を帝都に持ち帰る危険性もあるから、絶対に反対されるのは目に見えているからね。
その点、皇宮なら僕の
ということで。
「さあ、ここが皇室用のゲートだよ」
本来、皇宮のゲートは他国の者が利用することは認められていないけど、この際そんなルールは無視だ。
なお、ゲートの使用方法は、通信魔法により行き先にあるゲートと魔力で接続してもらい、あとはこちら側から転移に必要となる魔力を供給するだけだ。
「ルイ様、魔力供給用の魔石はセットいたしました」
「うん、ありがとう。じゃあイルゼも、こちらにおいで」
「はい」
イルゼの手を取り、僕の
そして。
「さあ、行こう」
僕達は、一瞬で目的地である中継地点、ブリント連合王国へ転移した。
◇
「さて……それで、
こんばんは、ルートヴィヒです。
僕は今、
なんでこんなことになっているかというと、
ゲートによってブリント連合王国に転移した僕達だけど、待ち構えていたのは目の前にいる三人の王子、それに三人の王女だったんだよ。
で、僕を見るなり開口一番、その六人が一斉に叫び出したんだ。
『私達の妹が、どこの馬の骨かも分からない男に
『しかも、女神すらも裸足で逃げ出す美しさのリルのほかにも女を
などと、一目見ただけで言いたい放題された上、こうやって糾弾される羽目になってしまい、今に至っております。
「で、ですから、何度も言っておりますが、オフィーリアとはあくまでも同じクラスの友人で、今回もボルゴニア王国に向かうために……」
「なんだと! 私達のリルが気に入らないとでもいうのか!」
「ああ……リル、なんて可哀想なんだ……」
駄目だ。全然話が通じない。
オフィーリアとの関係を否定したら激怒するし、逆に親密さをアピールすると激怒する。いや、どうしろと。
何とかしろとばかりにジト目でオフィーリアを見やるものの……向こうも向こうで、三人の姫君に全力で慰められていて身動き取れない状況だし。
ならばとクラリスさんを見るけど……あ、逃げた。
「え、ええい! 姉上、離れてください!」
「「「っ!? リルが冷たい!?」」」
とうとう耐えかねたオフィーリアが押し退けると、三人のお姉さまは今にも泣きそうな表情を浮かべた。
「兄上も兄上です! 私達はボルゴニア王国を救うため、すぐに向かわないといけないのですよ! それに、ルートヴィヒはこの私が認めた唯一の男。そのような真似はおやめください!」
「「「っ!?」」」
彼女の言葉に、三人のお兄さまが鬼の形相で僕を睨むんですが。
だからオフィーリア、そういう誤解されそうな言い方はやめてくれないかな? 今さらだけど。
「くう……っ! やはりリルを留学させたのは間違いだったのだ!」
「そうですよ兄上! 父上は何故お認めになってしまわれたのか……!」
そういう内輪の話は、内輪だけの時にしてくれないかなあ。
それと、オフィーリアがメインヒロインでメッチャ美人のイケメンなのは分かるけど、喪男の僕が彼女に手を出すなんてあり得ないですから。僕は人畜無害ですのでご安心ください。
あ、イルゼとジル先輩? 二人も二人でオフィーリアの兄姉をメッチャ睨んでますけど。
というか、ジル先輩はやっぱりチワワが吠えているようにしか見えないです。
この混沌とした状態に、僕は頭を抱えていると。
「よさないか」
「「「「「「「っ!? 父上!」」」」」」」
現れたのは、ブリント連合王国の国王でオフィーリアの父君、“リチャード=オブ=ブリント”その人だった。
だけど……さすがはオフィーリアの父君だなあ。
その黄金の髪と黄金の瞳の持つ力強さや、その威風堂々としたたたずまいはまさしくオフィーリアと同じだ。
というか、七人の王子王女の中で、オフィーリアが一番リチャード国王に似ているかも。
「リルは原因不明の病で窮地に陥っているボルゴニア王国を救うため、我がブリント連合王国の代表としてかの国へ向かうのだ。それを、兄姉であるお主達が邪魔をしてどうする」
「「「「「「…………………………」」」」」」
リチャード国王にたしなめられ、六人の兄姉はうつむいて肩を落とした。
「リルよ……たとえ他国であっても、民のために危険な地に飛び込もうとするそなたの慈悲と勇気、父は誇らしいぞ」
「ありがとうございます。ですが……これは決して私が言い出したのではなく、こちらの彼……バルドベルク帝国の皇太子であるルートヴィヒ=フォン=バルドベルクの進言によるものです」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
オフィーリアが僕を紹介した瞬間、六人の兄姉だけでなく、リチャード国王までメッチャ目を見開いた。
そういえば、僕が“醜いオーク”だって名乗る前に、この六人に糾弾されまくったもんね。
いや、皆さんの言いたいことは分かりますよ?
どうして僕が、こんなに痩せているのか……いや、そうじゃなくて、どうしてオフィーリアが“醜いオーク”と友人なのかってことでしょ?
親兄姉なら、大切な娘・妹を、こんな最低な皇太子になんて絶対に近づけたくないもんね。
「コホン……そ、そうか。いずれにせよ、余はリルを誇らしく思う。必ず……無事に帰ってくるのだぞ」
「はっ! 必ず!」
「うむ……クラリス、お主もリルを頼んだぞ」
「はっ!」
片膝をつき、しっかりと頷く二人を見て、リチャード国王は満足げに頷く。
「さて……リルのご学友である皆も、気をつけるのだ」
「はい。必ず、オフィーリア……さんを、お守りいたします」
呼び捨てにしたら絶対に怒られると思った僕は、つい
だってリチャード国王、メッチャ怖そうなんだもん。
「うむ」
リチャード国王は、ゆっくりと頷く。
「さあ、お前達。勇者達の旅立ちを見送ろうではないか!」
「「「「「「は、はっ!」」」」」」
ようやく解放され、僕達はボルゴニア王国行きのゲートの上に立つ。
あとは魔力供給して転移すれば……って。
「……貴様とは、戻ってきたらゆっくりと話をしようではないか。ゆっくりと、な」
「ヒイイイイ!?」
肩をポン、と叩き、ニタア、と口の端を吊り上げたリチャード国王の不気味な笑みに見送られ、僕達はボルゴニア王国へ転移した。
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