飛び込んできた知らせ

「ねえねえ、ルー君・・・! 期末試験に向けて、一緒に勉強しようよ!」


 放課後になるなり、満面の笑顔で教室に飛び込んできたのは、ジルベルト=イルムガルト=ガベロット。通称ジル先輩・・だ。


 この状況を一言で言ってしまえば、そのー……メッチャ懐かれました。

 しかも、まさか学年も僕達の一つ上で、こんなに小っちゃいのに先輩というんだから二度驚きだ。


 しかも。


「ジルベルト様。ルイ様に勉強を教えてくださるのはありがたいのですが、さすがに毎日というのは……」

「どうして? 入学したばっかりの君達にとって期末試験は初めての経験だし、出題傾向なんかも熟知している先輩の・・・ボクが見てあげたほうが、絶対に成績も良くなるよね?」


 ……懐いているのはあくまでも僕にだけで、イルゼ達とはあんまり仲がよろしくないんだよなあ。

 しかも、知り合ってからもう一か月以上も経つっていうのに、一向に仲良くなる気配もない。


 でも、絶対零度の視線を向けるイルゼに対し、思いっきり背伸びをしながら威嚇するジル先輩……なんだかチワワみたい。


「というか、勉強が嫌ならイルゼちゃんは一緒にいなくてもいいよ? ルー君には、ボクがついてるんだし」

「っ! ……いいえ。ルイ様にはこの私がおりますので、むしろジルベルト様こそ……」


 そんな不毛なやり取りをしている二人を眺めていると。


「むむむ! ルートヴィヒ! 今日こそは私の稽古に付き合ってもらうぞ!」

「わ!? ちょ!?」

「「っ!?」」


 イルゼとジル先輩の間隙かんげきをついて、僕の首根っこを捕まえるオフィーリアにお持ち帰りされてしまった。

 だけどまあ……正直ジル先輩との勉強には飽き飽きしていたので、今回ばかりは助かった。


 それにしても……あははー、連れ出され方にラブコメ要素は一切ないよね。


 オフィーリアに引きずられながら、僕は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


 ◇


「ふむ……しかしルートヴィヒの剣術は、一向に上達しない……なっ!」

「うわっと!? 余計なお世話だよ!」


 オフィーリアの横薙ぎの剣を全力で受け止めながら、悪態を吐いた。

 というか、僕だって剣の才能がないことくらい、誰よりも理解しているよ。


「だから何度も言っているようにっ! 防御に関してはこれまで剣を交えた者の誰よりも優れているのだからっ! それに合わせたスタイルをだなっ!」

「ぬっ!? はっ!? おっと!? それじゃ格好よくないだろ!」


 息を吐かせぬ連撃に、僕は必死にパリィしたりガードしたりかわしたりする。

 一撃一撃が重いから、腕が疲れて大変だよ……。


「ふう……本当に、ルートヴィヒは頑固だな」

「それはどうも」


 苦笑するオフィーリアに、僕はプイと顔を背けた。

 いや、本当は僕だって理解しているんだよ? でも、前世で培った双剣愛と、せっかく大金をかけて作った双刃桜花を無駄にしたくないし。


 刀の柄を握りしめながら、そんなことを考えていると。


「ね、ねえ、ルー君。もし武器を変えたりするんなら、絶対にボクに教えてね。その時は、最高のものをプレゼントするから」

「へ……? い、いやいやジル先輩、それは悪いですよ!」

「えへへ、任せてよ! 何といってもボクは、ガベロット海洋王国の第三王子なんだ! だから、すごい武器が王国にはたくさんあって、それをプレゼントするくらいわけないんだから!」

「そ、そうですねー……」


 鼻息荒く意気込むジル先輩には申し訳ないけど、僕は双剣スタイルを貫くので不要です。


 それに。


「? ルイ様?」

「い、いや、何でもないよ」


 僕に才能がないことを知っていながらも、僕の我儘わがままに付き合ってここまで一生懸命指導してくれたイルゼの想いに応えたいから。


「ふむ……身体も冷えてしまったし、今日の稽古はここまでにしよう」

「そ、そうだね」


 いやあ、やっと終わったよー……。

 というか、もうすっかり暗くなっているし、これじゃ剣筋も見えなくて危ないからね。


 そういうわけで、僕達は訓練場を出て寄宿舎へ帰るんだけど。


「それにしても、ナタリアさん達は大丈夫かなあ……」

「まあ、彼女も聖女である以上、こればかりは仕方あるまい」


 あの腹黒聖女とモブ聖騎士は、ミネルヴァ聖教会からの要請により、西方諸国の最西端の国、“ボルゴニア王国”で突然発生した原因不明の病の調査及び治療のため、二週間前にここを発った。


“ゲート”と呼ばれる転移魔法陣を使って向かったから、もうとっくに現地には着いているとは思うけど……やっぱり、心配だよね。

 そもそも、原因不明の病っていうのも引っかかるし。


「フフ……まあ、心配するのは仕方ないにしても、私達にできることは無事を祈ることと、彼女達が元気に帰ってきた時に、笑顔で迎えてやることだけだ」

「あはは、そうだね」


 こういうことをサラッと言うオフィーリア、やっぱりイケメンかよ。

 少なくとも、僕が言うよりは様になっているよね。


 その事実に肩を落としつつも、僕達は腹黒聖女達の帰りを待つことにした。


 だけど。


「そんな……」


 その二週間後、僕達の元に届いたのは、聖女がその原因不明の病に侵されたとの知らせだった。

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