僕には理解できないよ
「ええと……君も知ってのとおり、僕はルートヴィヒ。それで、こちらが従者のイルゼだよ」
「イルゼと申します」
移動して席に着いた男子生徒に、僕は自己紹介とイルゼを紹介すると、オフィーリア達も順番に自己紹介をする。
それにしても、彼……どこかで見たことがあるというか、聞いたことがあるというか……。
オニキスのような黒髪を少し刈り上げたショートボブに、エメラルドの瞳。
幼い顔立ちをしていて、前世だったらまだ中学一年生といっても通用するくらいだ。
既に第二次性徴を終えた男子にしては、まるで声変わりしていないと思えるほどの高音だし、色々と違和感がある。
それと同じ違和感を、どこかで覚えたんだけどなあ……。
「あ……ボ、ボク……」
いよいよ彼が自己紹介をする番となるけど、ものすごく
そんなに素性を知られるのが嫌なんだろうか。
それを言ったら僕なんて、“醜いオーク”で世界中の嫌われ者なのにね。チクショウ。
「ふむ……私達も名乗ったのだ。次はお主が名乗るのが筋だと思うが?」
「う、うう……」
いやいやオフィーリア、そうやって追い込むような言い方はやめようね。
ほらー。彼、ますます萎縮しちゃったし。
「そ、その、自己紹介したくなかったら別に無理しなくてもいいからね?」
「い、いえ……その、自己紹介……します……」
苦しそうにそう呟いた後、彼は意を決したように顔を上げると。
「ボ、ボクは、“ジルベルト=イルムガルト=ガベロット”といいま、す……」
最後のほうは尻すぼみになってしまったけど、彼……ジルベルトはちゃんと自己紹介してくれた…………………………って!?
「あ……モゴ」
驚いて思わず叫びそうになったのを、両手で口を押さえて何とか
だ、だけど、“ガベロット”って言ったら、前世とルートヴィヒの記憶を含め、一つしかない。
西方諸国の南にある
――商業国家、“ガベロット海洋王国”。
な、なるほど……どうりで彼に見覚えがあるはずだよ……。
あの『醜いオークの逆襲』では、バルドベルク帝国は西方諸国の全てを征服しようとしていたが、実はたった一つだけ侵略の対象になっていない国。それが、ガベロット海洋王国だ。
というのも、このガベロット海洋王国はバルドベルク帝国……いや、ルートヴィヒに色んなアイテムを売ってくれる商人なのだ。
あの舞踏会の夜にイルゼが着ていたシースルーのナイトウェアのようなエッチな衣装や、電気が存在しない世界なのに電動マッサージ機とかピンクローターとかのアダルトグッズなどなど。
他にも、戦闘パートを有利に進める強力なモブユニットを作成するための魔物だったり、ヒロインを戦闘不能にする媚薬まで、本当に多岐にわたる。
ちなみに、魔物に関してはユニットとして戦わせるだけでなく、その……この手の同人エロゲでは一般的……と言っていいのか微妙だけど、ヒロインを苗床にして強力なユニットを誕生させたりするための
まあ、これも鬼畜系同人エロゲあるあるなんだけど。
そんな素晴ら……ゲフンゲフン。そんなけしからんアイテムをルードヴィヒに売りつけるモブこそ、ジルベルトだったわけだ。
一応、ゲームでのジルベルトのスチルは、フードを被っていて不気味に輝くエメラルドの瞳が特徴で、モブのくせに高い声のボイスがあてられていたのを覚えている。
だけど、そうか……この彼がなあ……って。
「「「「「…………………………」」」」」
イルゼを除いた五人が、眉根を寄せながらジルベルトを凝視している。
中でも、バティスタの視線は先程の生徒達と同様、彼への嫌悪感を隠さない。
「みんな、どうしたの?」
「む……ルートヴィヒ、彼は
ああー……ひょっとして、
ガベロット海洋王国の前身は、
そして、この国と国交があり、色々な商取引をしている数少ない国というのが、ここバルドベルク帝国と、現在小競り合いを繰り返している二つの小国、“ダルタニア王国”と“スレイム王国”だ。
なお、取引している商品は武器や防具などのほか、毒物や麻薬、奴隷などの非人道的なものばかり。
つまり……ガベロット海洋王国は“死の商人”なんだ。
国の起源が海賊だということもあり、西方諸国のほとんどの国にとっては侮蔑の対象でしかないってことだ。
だからこそ、みんなはこんな微妙な表情を浮かべているんだろうね。
でも。
「ごめん、僕にはオフィーリアが何を言いたいのか理解できないよ」
「ほ、本気で言っているのか? ガベロット海洋王国は海賊で……」
「だから、それと彼……ジルベルト君と何の関係があるんだよ」
オフィーリアの言葉を遮り、僕にしては珍しく少し声を荒げた。
だって……彼女には、そんなこと言ってほしくなかったんだ。
イルゼを除いて、最初にこの僕の『本当の姿』を見てくれた、オフィーリアだからこそ。
「あ……ご、ごめん。ボク、もう行くから……」
「駄目だよ、行く必要なんてない。それだったら、“醜いオーク”の僕こそがここから立ち去るべきだ」
いたたまれなくなって席を立とうとしたジルベルトを引き留め、僕は自分のトレイを手に取る。
イルゼもまた、僕に合わせて自分のトレイを持って立ち上がってくれた。
「ま、待ってくれ!」
「……何?」
呼び止めるオフィーリアを、僕はジッと見つめる。
「その……すまない、確かにルートヴィヒの言うとおりだ。この私としたことが、な……」
「そうですね……ガベロットの名前に囚われ過ぎて、ジルベルトさん自身を見ていませんでした……」
オフィーリアも聖女も、シュン、と肩を落とした。
だけど、僕の言いたかったことを理解してくれたみたいだ。よかった。
「本当だよ。みんながそう言って引き留めてくれなかったら、危うく僕は一人寂しいランチタイムを過ごすところだったじゃないか。ねえ、ジルベルト君」
「あ……あああああ……っ」
場の空気を変えようとわざとおどけながら話を振ったのに、ジルベルトはエメラルドの瞳からぽろぽろと大粒の涙を
しまったー……逆効果だったか……。
何とも言えない雰囲気の中、僕達は彼が泣き止むのを待った……って。
「……ルイ様は、やっぱりルイ様です」
「えー……それってどういうこと?」
「ふふ……そのままの意味、ですよ」
嬉しそうな表情で見つめてくるイルゼに、僕は気恥ずかしくなって頭を掻いた。
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