女神よりも、悪魔よりも、捧げたい人
■ナタリア=シルベストリ視点
――
教皇
それから、聖女としての主ミネルヴァの教えを受けるとともに、私自身も聖女に相応しい能力を開花させ、十歳を迎える頃には、光属性魔法において私の右に出る者はおりませんでした。
そんな特別な存在である自分を誇らしくありつつも、周囲からは貧しい農家の娘ということで、やはり少なからず誹謗中傷を受けたりもしました。
まだ年齢的にも成熟しておらず、そのようなこともあってか、両親への恋しさを募らせ、私は教皇
『両親に、会わせてください』
と。
最初は困った表情を浮かべた教皇
でも……待っていたのは、悲しい現実。
私は両親に、ミネルヴァ聖教会に大金で身売りされたことを知ったのです。
今となっては真実が何なのかは分かりませんが、両親が教会に対して高額な金銭を要求したとのこと。
教会としても、聖女を保護しなければならないため、両親の要求を全て受け入れたそうです。
それからの私は、ただ主ミネルヴァに傾倒しました。
もう、両親に捨てられた私の唯一の価値は、聖女だということしかありませんから。
だから私は、聖女として何でもしました。
教会の顔としての外交、貧民街の救済、魔物の討伐……枚挙にいとまがありません。
そうすると、聖女であることしか価値のない私の心にぽっかりと穴が空き、それを埋めることもできず、むしろ広がっていくばかり。
気づけば私は、そのつらさから逃れるために、主ミネルヴァに仇なす存在……“ディアボロ”に、不浄を捧げてしまったのです。
といっても、不浄を男に捧げたのではなく、あくまでもディアボロの
とはいえ、聖女であるにもかかわらず主を裏切り、悪魔に身を任せてしまったのです。
主ミネルヴァに対する罪の重さと、ディアボロに身を委ね与えられる快楽……その両方に押し潰されそうになっていた、十三歳の頃。
教皇
聞いたところによると、お相手は“醜いオーク”と呼ばれるバルドベルク帝国の皇太子なのだとか。
身分……ということに関しては、私も農家の娘という出自ではあるものの、今は聖女として確固たる地位におりますので、たとえ皇太子でも見劣りするようなことはないでしょう。
とはいえ、
オークと
当然、教皇
ですが……うふふ、その時の私は、まさしく自分に相応しい御方だと、逆にそう思ってしまいました。
主ミネルヴァを裏切り、悪魔ディアブロに不浄を捧げる、聖女とは名ばかりのこの私にこそお似合いだと思いませんか?
ただ、いずれにせよ“醜いオーク”は排除すべき存在。
そう……彼は、破滅へと続く
「……うふふ、あのような根も葉もない
などと呟いてみますが、そんな真似をするのはルートヴィヒさんと婚約予定だった、ベルガ王国のソフィア王女以外いらっしゃらないのですが。
それにしても、帝立学院に来てからルートヴィヒさんの印象は、裏切りの連続でした。
見た目は“醜いオーク”などとは程遠く、同年代の男性よりも少し幼く見える彼は、とても可愛らしいと思いました。
彼の性格も、皇太子に相応しい……いえ、あの御方の高潔さは、そんなもので表せるようなものではありません。
それに、身分の低い従者でしかないイルゼさんへの優しさや、オフィーリアさんとの彼女の誇りを守るための戦い、貧民街でのあの行動。何より、その内に秘める
それら全て、今まで“醜いオーク”として
「本当なら、
そう……普通なら、そのようなつらい境遇に置かれれば心は壊れ、それこそ自ら死を選ぶか、誰かを壊すようなことになっていても不思議ではありません。
なのにルートヴィヒさんは、それを
「……彼になら、
そんな希望を抱かせるほど、ルートヴィヒさんは輝いていた。
そして……彼になら、ディアボロにも捧げず、主ミネルヴァのためだけに守ってきた純潔を、捧げてもよいとさえ思ってしまうほどに。
「ああ……ルートヴィヒ、さん……!」
彼を思い浮かべ、私は人差し指を舐めながら甘い吐息を漏らす。
窓には、
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