デートのようで、デートじゃない
「ルイ様……どうか私に、エレオノーラ=トゥ=シュヴァルツェンベルク暗殺の許可を」
「うん、イルゼも落ち着こうね」
部屋に戻るなり、膝をついてそんなことを言い出した彼女を、まずは立ち上がらせた。
「まあ、こんなことになるだろうなー……なんてことは、ある程度想像できたからね」
だって、エレオノーラは民衆のためになんて言っていたけど、それならあの舞踏会でイルゼのことを殊更悪く言うはずがないんだ。
結局、彼女の言葉は薄っぺらで、根っこの部分は
とはいえ、さすがに既に革命に向けて動き出していることには驚いたけど。
まあ、それでも。
「だったら、まずはエレオノーラ会長が暴走して馬鹿なことをしないか、目を光らせておけばいいと思うんだよね」
エレオノーラの『反乱エンド』では、帝都の市民によって構成された“反バルドベルク同盟”と呼ばれる地下組織が暗躍し、民衆が蜂起して皇宮を取り囲む。
それに乗じ、エレオノーラにそそのかされてクーデターを画策した貴族達が皇宮内に押し寄せ、ルートヴィヒはその場で暗殺されてしまうんだ。
なら、その民衆の蜂起や貴族達がクーデターを決行する前に、全て潰してしまえばいい。
そのためには、エレオノーラがいつ、どこで、誰と接触するのかを把握することが重要だ。
「でしたらその役目、どうかこの私にお任せいただけないでしょうか」
胸に手を当て、イルゼが申し出た。
「君は僕と同様ここの生徒なんだよ? なら、エレオノーラを四六時中監視するなんて無理だ」
「もちろん、学院内にいる間を除きます。ですから……」
「それでも駄目だ」
イルゼの申し出を、僕は頑なに断った。
だって……そんなことをしたら、ひょっとしたらイルゼが危険な目に遭うかもしれない。
「とにかく、エレオノーラの動向に関しては帝都の情報ギルドで買うことにするよ」
「はい……」
受け入れられなかったことで、落ち込んだ様子を見せるイルゼ。
僕だってイルゼの実力は誰よりも理解しているけど、それでも何かあったらと思うと、不安で仕方ないんだ。
「そういうことだから、早速街に出ようか」
「今からですか?」
「そうだよ。早いに越したことはないからね」
僕はイルゼを伴って、帝都の街に繰り出した。
◇
「へええええ……!」
初めてやって来た帝都の繁華街に、僕は胸をときめかせる。
転生してきた僕としては、まるで海外旅行にでも来ているような気分だよ。
前世だったら喪男の僕が誰も知らない海外にお一人様で行くなんて考えられないし、ルートヴィヒにも街に外出した記憶がないからね。つくづく寂しい人生だ。
すると。
「あ、いい匂いがする」
「向こうの屋台からですね」
イルゼが指差した屋台では、どうやら肉を焼いているみたいだ。
「行ってみよう!」
「あ、お、お待ちください!」
イルゼの制止も聞かずに飛び出し、僕は屋台の前にやって来ると。
「おじさん、その串を二本頼むよ」
「あいよ!」
威勢のいい声とともに、たれを塗って香ばしく焼かれた肉串が二本差し出された。
「ええと……お金は、と」
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
既に隣にいるイルゼからお金を受け取り、支払いを済ませる。
「はい、イルゼ」
「ありがとうございます」
串を手渡し、僕は早速肉にかじりついた。
「! 美味しい!」
「そうですね」
うわあ……これはいわゆる焼き鳥だね。
でも、すごく香ばしくて、ジューシーで、どこか懐かしいな。
といっても、前世の僕の食べていた焼き鳥と言ったら、コンビニのものだけど。
「ところで、兄ちゃんと嬢ちゃんのその服装……帝立学院の生徒さんかい?」
「そうだよ」
「俺の串を食ってくれたってのにこう言っちゃなんだが……無断外出してデートなんてしたら、叱られるんじゃないのかい?」
「「っ!?」」
屋台のおじさんの言葉に、思わず焼き鳥を喉に詰まらせてしまった。
無断外出はともかく、そ、そ、その……僕とイルゼがデート!?
おそるおそる、僕はイルゼを見やる。
「…………………………」
両手で串を持ち、頬を赤くしながら無言でうつむく彼女。
……僕なんかとデートだなんて思われたりしたら、嫌だよね……。
「あ、あはは、やだなあ。僕と彼女がデートなんて、そんなわけないじゃないですかー」
ちくり、と刺すような胸の痛みに気づかないふりをしながら、僕は精一杯おどけながら笑った。
そのほうが、イルゼだって変に思われたりすることもないし。
僕も……変な勘違いをしないで済むし。
屋台のおじさんと別れ、目的の情報ギルドを目指して通りを歩く……んだけど。
「…………………………」
イルゼは、あの屋台から一度も口をきいてくれない。
表情だって、焼き鳥を受け取った時までは口元を緩めていたのに、今はこんなにも悲しそうにしている。
僕、は……。
一歩下がって歩くイルゼを見ることもできず、
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