【11月30日第1巻発売!】醜いオークの逆襲~同人エロゲの鬼畜皇太子に転生した喪男の受難~

サンボン

醜いオークに転生したんだけど

「どうしてこうなった……」


 僕は今、鏡の前で茫然と立ち尽くしていた。


 何故なら、目が覚めたらラノベよろしく異世界に転生していて、しかも鏡に映った姿はどこからどう見ても、僕が前世で死ぬほどやり込んだ、フォローしている同人サークルの鬼畜系同人エロゲの主人公、だったのだから。


「ええー……よりによってこのゲーム・・・・・って……」


 僕が転生したゲームのタイトルは、『醜いオークの逆襲』。


 まるでオークのような醜い容姿のバルドベルク帝国の皇太子、“ルートヴィヒ=フォン=バルドベルク”が西方諸国を次々と占領し、そこにいる姫や女騎士、魔法使い、果ては村娘やエルフといった異種族まで、全てを凌辱して奴隷にしていくというシミュレーションRPGだ。


 設定としては、主人公のルートヴィヒが婚約者になる予定だった隣国の姫君……だけにとどまらず、舞台となる西方諸国のほとんどの国の婚約者候補からの心無い一言に傷つき、女性不信に陥ってこの世の女性の全てを敵とみなしたことが、全ての始まりとなっている。


 人間として最低だとは思うが、前世の僕はこのルートヴィヒの境遇には共感した。(行為そのものは一切共感できないけど)

 だって、僕もまた喪男と呼ばれるような、女子とは一切縁のない男子大学生だったから。


 小・中・高と女子達からは疎まれ続け、女子に話しかけられたことも一度もなく、大学生になってからも大学とバイト先と自宅をぐるぐるローテするだけの、寂しい人生。

 大学やバイト先で同級生や先輩達が女子とイチャイチャしているのを眺め、家に帰っては同人エロゲでコンプレックスを吐き出すだけの、最低の人生。


 ああ……そうか。

 だから僕は、こんな最低な世界の、最低な主人公に転生したのか。


 あはは、本当に僕にはお似合いだ……って。


「そ、そうじゃないだろ、僕!」


 いやいや、ちょっと待ってよ!?

 ということは、僕は前世で死んで、せっかく転生したのに、この鬼畜ゲーだけは駄目だろ!


 だって。


「このゲーム、破滅からの死亡エンドしかない……」


 顔を覆い、僕はがっくりとうなだれる。

 普通、商業エロゲならなんだかんだで救いのあるエンドを用意したりするものだけど、同人エロゲとなるとサークルの欲望全開で作ったりするので、一切救いのない破滅オンリーのとんでもゲームを作ったりする傾向がある。


 この『醜いオークの逆襲』も、まさにそれ。

 主人公は全ての国を滅ぼしても突如現れる英雄(男)にエンディングであっさり取って代わられ、処刑されるシーンにスタッフロールが流れるという、十五時間も費やしてそれかよと思わずツッコミを入れたくなってしまうトゥルーエンドなのだ。


 それ以外にも、敗北エンド、反乱エンド、自殺エンド……ろくな死に方をしない。


 とにかく、このままだとせっかく転生しても、僕は遅かれ早かれ死ぬ運命でしかない。

 どうする……? ラノベのように破滅エンドを回避するために、物語を改変してみるか……?


 そう考えたけど……駄目だ、どうやっても回避する方法が見つからない。

 何より、バルドベルク帝国は僕がいなくても父である皇帝が世界征服を目論んでいる以上、侵略戦争以外の選択肢なんて存在しない。


 僕も皇太子である以上、その運命からは逃れられない。


「ハア……やっぱり僕、死ぬしかないんだな……」


 絶望しか残されていない未来に、僕は涙をこぼす。

 だけど、見た目がまんまオークのため、ただただ醜い。


 ゲームの展開を知っていても、全体の九割が凌辱シーンで、残り一割の戦闘パートで勝利してもシナリオが変わるわけじゃない。


 ……うん、もう諦めよう。

 所詮僕は、何度生まれ変わってもろくな人生じゃないんだ……って。


「いやいやいやいや! だからちょっと待ってって! 僕、また死んじゃうなんてやだよ!」


 あまりのショックに自暴自棄になりかけたけど、思い直して頭を抱えながら叫んでいると。


 ――コン、コン。


「……失礼します。本日付でルートヴィヒ殿下にお仕えすることになりました、“イルゼ”と申します」


 緊張した面持ちで入ってきたのは、メイド服を着た一人の女性。

 艶やかな藍色の髪とは対照的に、同じ藍色であるにもかかわらず光を失っているかのような、冷たさと闇を感じさせる切れ長の瞳。

 整った鼻筋に桜色の唇。

 そして、同人エロゲにありがちな肉付きの良い蠱惑こわく的なスタイル。


 もちろん僕は、彼女のことをよく知っている。


 ヒロインの一人で、ルートヴィヒの肉奴隷に仕立て上げられた薄幸の子爵令嬢、“イルゼ=ヒルデブラント“だ。


 だけど……ちょっと待てよ?


「あ……あの、尋ねてもいいですか?」

「っ!? な、何でございましょうか……?」


 一瞬目を見開き、おずおずと尋ねる彼女。

 こんな反応からも、僕は違和感を覚えずにはいられない。


「そ、その……僕とあなたは初対面、ですよね……?」

「は、はい。そのとおりですが……」


 質問の意図が分からず、イルゼは困惑の表情を浮かべている。

 だけど、困惑しているのはむしろ僕のほうだ。


 だって、『醜いオークの逆襲』の最初……チュートリアルの段階で、既にイルゼは僕の性奴隷で、恍惚こうこつの表情を浮かべる彼女との行為に及ぶシーンから始まるのだから。


「で、では、今日は何年何月何日なんですか!?」

「え……? 帝国暦二七〇年三月十七日ですが……」

「っ!?」


 それって……ゲーム本編が始まる五年前じゃないか!?

 ということは、今の僕は十四歳ということになる……。


「そ、そうですか……ありがとうございます……」

「い、いえ……」


 だけど……そうか。

 物語が始まる五年前なら、ひょっとしたら……。


 僕は、その事実にわずかな希望を見出す。

 本編が始まるまでに五年も猶予があれば、ひょっとしたらストーリーを改変できるかも。


 死んでしまうラストしかない、そんな最低なストーリーを。


「デュフフフ……僕はまだ……やり直せる・・・・・……っ」


 微かに見えた希望に、僕は拳を握りしめながら口の端を持ち上げる。


 僕の笑い声が、ゲームの中のルートヴィヒと同じ下品なものだと気づかずに。

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