転生者が趣味で作った狙撃兵大隊が40倍の武田軍団を蹴散らす。「可憐な乙女に何ていうセリフ言わすのよ。もうあたしお嫁にいけない(涙目)」「お姉ぇ、心配するな。ムサい男なら沢山慕ってくれてる」

🅰️天のまにまに

鬼の狙撃兵大隊長にさせられました(ツインテールな14歳なのに。涙目)



 1554年3月上旬

 上野国那和城松の間



「蘭ちゃん。今日から君、龍造寺蘭ね。ちょっとツンデレネームだけど、これからの任務にはピッタリ~♪」


 上座に座る私たちの殿さま、大胡政賢さまが舞うような大げさな身振りで私に告げる。


 この政賢様は私達、龍造寺に引き取られた孤児を救ってくれた方。この方が大胡へ養子に来られなかったならば、今の私たちはない。皆、関東各地で戦のために親を亡くした。戦はもうこりごりなんだけどね。


「去年はご苦労様でした。この大胡の最大の危機に、相模の獅子とかいう北条氏康くんの首取れたのも、蘭ちゃんと詩歌ちゃんが活躍したお蔭。助かったよ僕」


 そんな大したことはしていないわ。

 桃ノ木川決戦の緒戦で北条方の渡河を妨害して、たまに敵方の指揮官を狙撃しただけ。


「その狙撃が効果的だったんだ~。お蔭で敵の左翼の動きが鈍くなり斬り込み隊が活躍できたよ」


 北条の20000の大軍を、たった2200で迎撃。包囲殲滅するとか、日ノ本中が驚愕したに違いない。

 その結果、今では上野国全土を平定。北武蔵と合わせて70万石を超える大大名となった大胡。多くの銭収入と合わせて巨大な軍事力も整備され始めた。


「さっきも言ったように、今度ね。狙撃部隊を作るんだよ。今、全国各地へスカウト……ゲフン。調略に行っている在施符ざいつぇふさん達が鉄砲上手を一本釣りをしてくるから、その人たちを統率してもらいたいんだ」


 まさか!

 こんな14歳の小娘に荒くれ者の統率なんて……


「だいじょ~ぶ。あいつらは鉄砲の腕に誇りを持っている。それをコテンパンにノシてからじゃないということ聞かない」


「では大胡最高の狙撃手、在施符ざいつぇふさんの方が適任……」


「あ~、あの人。一匹オオカミだから。最近やっとみんなと打ち解けて来たけど、元々そういう人。でも蘭ちゃんは違う。華蔵寺で指揮官訓練を受けている」


 華蔵寺とは公園と呼ばれる施設組織。

 科学技術から教育文化、そして軍備まであらゆる研究を行っている所。そこの士官学校で私は第3期卒業生の主席だった。


「詩ぃちゃんが副官。あと数人女の子で優秀なの付けるから。それと合わせて公園育ち1個中隊12名充足。これだけいれば48名の増強大隊を統率できるんじゃない?」


「でも……」


「僕ね。身近な人にしか言わないんだけど、心の中の言葉は「俺」だとかの「ひでぇ言葉」使っているんだよ。こんな子供の言葉使っているのは神連中の……ゲフンゲフン。神様の贈り物。

 皆を引き付けるのに最適だって。人間って、そんなこともできるんだ。蘭ちゃんにはそんな才能があると思う。前、撤退戦の時それ見たよ。ちょっとツンデレだったけど」


 殿さまの内心の事にもびっくりしたけど、私にもその才能が?


「まあ、やってみてよ。結構面白いよ。他人を演じるのって。癖になりそう」


 殿さまはいつもこう。

 今様いまようの『梁塵秘抄』というものの一つ。


 「遊びをせんとや生まれけむ 

 戯れせんとや生まれけん」


 が、座右の銘だとか。

「人間五十年」よりも明るくて好き~、とか、いつものように煙に巻いている。


「それじゃ、頼んだよ。龍造寺蘭大隊長。今度またツインテールの新バージョンを奥さんの楓ちゃんに結わせてもらって~♪」


 私は頭の両脇で錦の布で結わえてある髪の毛が垂れるのを気にしながら、殿さまに頭を下げた。この髪型も殿さまからの大事な贈り。


 こうして私は激戦地に飛び込んでいく狙撃兵隊長になってしまった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 予想通り、荒くれ者ばかりだわ。

 大胡の制服を着ているけど、顔は髭モジャ。

 体臭はこっちまで臭ってくる。二日酔いの臭いも混じる呼気。


 さあこれから殿さまに教えていただいた『はーとまん式』訓示を行う。


「大胡特別狙撃大隊長、龍造寺蘭である。

 話し掛けられた時以外口を開くな。

 口でクソたれる前と後に“サー”と言え。

 分かったか、ウジ虫ども」


 皆がシーンとしている。

 笑いそうになった奴の腹を、詩歌が銃床で凹ませる。


「「「さぁ、いえす、さあ」」」



「ふざけるな!大声出せ!

 タマ落としたか!」


「「「さぁ、いえす、さあ!!!」」」



「貴様ら雌豚が、おれの訓練に生き残れたら、各人が兵器となる。戦争に祈りをささげる死の司祭だ。その日まではウジ虫だ! 地球上で最下等の生命体だ。貴様らは人間ではない。動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」



 な、なんだか、自分で言っていて笑ってしまいそうになるけど、殿さまは褒めてくださった。

 きっとうまくいくはず。



「おう、嬢ちゃんよ。言ってくれるじゃねぇか。俺たちはなぁ。大胡に雇われちゃあいるが、心服したのは政賢の殿さんにだけだ。お前みたいな小娘にじゃあねぇ」


 張り倒そうとする詩歌を片手で抑え、冷血なまなざしを演出して答える。


「では何が必要だ? 聞いてやろう、そこの蛆虫」


「俺と鉄砲での勝負だ、当たり前じゃねぇか」


「良く言った。他にやる奴はいないか!? 貴様らが蛆虫だということを思い知らせてやる!」


 12人が手を挙げた。

 まったく!

 なんでこうも、自信過剰なのかな。自分は人よりも強いとか信念にするのは命取りなのに。殿さまに言わせると、死亡ふらぐ?




 訓練用の鉄板を1町(100m)先の松の木にぶら下げる。


「いいか、蛆虫。松は大胡の象徴! あれに傷をつけて見ろ。反吐を吐いても終わらない駆け足地獄が待っているからな。心してかかれ!」


 みな、1町も遠くにある的を見て、少しおじけづいた。

 普通の火縄銃なら、まずは当たらない距離。1尺四方の的に何人当てられるか見ものだわ。



 ずが~~ん!

 ずが~~~ん!

 ずが~~~~ん!


 12人が撃って、5人が命中。

 その内、中心に2寸(5cm)の近さに当てた者が2名。

 名前はたしか……

 鈴木重秀と杉谷善住坊か。


「どうした。嬢ちゃん。お前の番だぜ」


 鈴木とか言う奴が愛用の火縄銃を肩に担ぎ、ニヤニヤしている。杉谷とか言うお坊さんも唾を吐き捨てた。


 私は愛用の鉄砲に早合を使って二呼吸の間に、装填を済ませる。

 このなら、立射で行けるわね。


 ずがああああああん!


 長銃身フリントロック銃が咆哮をあげる。


「ど真中へ的中!!」


 皆がし~んと静まる。


「まだまだだ。蛆虫ども!」


 詩歌から愛用の特製フリントロックを手渡してもらう。

 丸弾は何処へ行くのかわからない回転をしている。でもこのライフル銃は溝が内部に彫ってある。これで弾にキリを揉むような回転をつけて、遠くまで真っ直ぐに飛ばす鉄砲だ。


 それを片手で振り上げて皆に啖呵たんかを切る。


「あの向こう。2町先にある案山子が見えるか? その案山子の顔が見えぬものはウジ虫以下、それ以下の生き物にも値しない! 即座に母ちゃんの下に帰れ!」


 普通の人には多分見えない。そのくらい遠くにある的だ。


 火皿を確認して詩歌を呼ぶ。

 腰を下ろした詩歌の肩に銃身を置き、左手で革帯を使って右腕をしっかり固定。銃床が肩から生えているくらいにピタリとあてがう。


 尻がむずかゆくなり地面を感じる。耳が風を読む。目に写るのは赤い射線。その赤い線が案山子の顔に重なった時、そろりと引き金を落とした。


 どが~~~~ん!!


 照星と照門も付いているけど、この距離だと全くあてにならない。全ては五感と六感。これが出来るのは、そしてこの感覚についての話が通じるのは在施符ざいつぇふのおじさんだけ。

 殿さまに言わせれば「別次元の才能~。まるでGGOでヘカートⅡ持っている女の子だね」とか。



「どうした、蛆虫ども! 先程の威勢は、はったりか? 自分たちの自慢する腕の未熟さを目に焼き付けて置け! これから半年間。私が貴様らを徹底的に叩きのめし、大胡の狙撃兵にしてやる。それまでは貴様らは蛆虫だ。わかったか!」



「「「さぁ、いえす、さあ!!!」」」




 ◇ ◇ ◇ ◇




「まったくもう! なんて事させるのかしら。殿さまは。

 詩ぃちゃん、私、お嫁に行けるかしら」

「……無理」

「あああああ。もう!」


 詩歌の冷たい視線にも気にせず、私は頭を抱えて駐屯地の隊長室で叫んだ。


「殿さま!! 責任取って私を側室にして~~~!!」

「無理。そのポジ、既に満員」




 ◇ ◇ ◇ ◇



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