17 文芸部夏合宿

 合宿当日。電車に乗って、快人先輩のお父さんが持っているという別荘へ向かった。一泊二日なので、荷物はそんなに無い。大きめのボストンバッグ一つで足りた。

 女子一人ということで、別室をあててもらったのだが、一人で使うには広すぎる部屋だった。何だか悪いなぁと思いつつも、備え付けてあったノートパソコンを開いた。そう、こんなところまで快人先輩の配慮は行き届いていたのだ。


「優衣ちゃん、入っていい?」


 ノックの音と、祥太先輩の声がした。どうぞと声をかけると、彼が入ってきて言った。


「今から川行くけど、どうする? 小説書きたい?」

「うーん、書きたいのはやまやまなんですけど、実は川遊びも気になってたんですよね」

「だったら行こうよ! その方がおれたちも嬉しいし!」

「でしたら……」


 作家気分に浸りきる前に、高校生らしく遊ぶのもいいかもしれない。あたしはノートパソコンを閉じて部屋を出た。

 川は、別荘から十分ほど歩いたところにあった。タオルなんかの荷物は快人先輩がまとめて持ってくれていた。

 あたしは、ショッピングモールで買った黒いショートパンツをはいていた。なので、服が濡れる心配は少ない。サンダルを脱ぎ、思い切って素足を水に浸した。


「ひゃっ……冷たい!」

「気持ちいいだろ?」


 先に川に入っていた瑠可先輩が、ニカリと笑顔を見せた。


「気をつけてね、優衣ちゃん。去年は快人が滑って転んだから」

「こら、祥太。そういうことは言わないで下さいよ」


 去年の三人は、一体どんな風だったんだろう? あたしなんかが割って入って、果たして本当に良かったのだろうか。そんな思いを打ち消すかのように、瑠可先輩が水を飛ばしてきた。


「きゃー! やめて下さいよー!」

「覚悟してろよ、ずぶ濡れにしてやるから!」

「ちょっと、快人先輩助けて下さい!」

「なんで助けを求める相手がおれじゃないの!?」

「祥太先輩でもいいです! この人何とかして下さい!」

「それは無理な相談ですねぇ。えいっ!」


 なんと、今度は快人先輩からの攻撃だ。八つ当たりのように、あたしは祥太先輩に水をかけた。


「やったな、優衣ちゃん!」

「あっ、ちょっと楽しくなってきました!」


 それから、本当にずぶ濡れになるまで、あたしたちは川遊びを楽しんだ。いいお天気だし、あたしの髪は短いし、すぐに乾いた。

 別荘に帰る頃にはくたくたになってしまい、小説を書くどころではなかった。あたしは夕食まで、ベッドに横になり、少しだけ目を閉じた。 

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