第13話 ハッピーエンド

私の視線の先を見て、エルは赤面している。

けれど突然、ハッとした様子で眉をひそめた後、悲しそうに表情を歪めてしまった。


「フィオ、その……無理をしていませんか? 貴方が私を望んでくれるまで待ちますので、どうか無理だけはしないで下さいね?」


そうか、エルは私が無理をしていると思っているのね。

本当にどこまでも優しい人なんだから。


エルと婚約をしてから、私は過去を打ち明けた。

彼には全てを知っておいて欲しかったから。


だからだろう。そういう行為をする事で、嫌な記憶を呼び起こして私を傷付けてしまうかもしれないと、危惧されているのだ。


確かに、知らない男達に辱しめを受けた記憶はしっかりと残っている。

あの時はとても怖かった。


けれど、エルになら私の全てを捧げたって構わない。むしろ……


「貴方が欲しいんです。私の嫌な記憶を全て、エルでいっぱいにして欲しいんです。ダメ……ですか?」


「フィオ……分かりました。忘れられない一夜にしてさしあげますね」


エルは私をお姫様抱っこすると、壊れ物を扱うかのように、優しくベッドへ下ろした。


そして、私の嫌な記憶を一つ一つ消し去るかのように、優しく触れてキスの雨を落としていく。


「愛しています、フィオ。貴方の全てを、私に下さい」


「エル、私も、貴方を愛しています。世界中の誰よりも、ずっと……貴方が大好きなんですよ」


だから、私の全てを貴方にあげたい。

言葉で伝えても、全然足りない。

もっともっと、知って欲しい。


絡み合う吐息はどこまでも甘くて。

感じる温もりはとても心地よくて。


恥ずかしいとか、怖いとか、痛いとか。

そんな感情が全て吹き飛ぶくらい、エルは私を優しく包み込んで溶かしてくれた。


愛する人と一つになれる事が、こんなに嬉しくて幸せな事なんだって、初めて知った。


一生忘れられないくらい、幸せで素敵な結婚初夜はこうして幕を閉じた。





翌日──


「すみません、フィオ。貴方が可愛すぎて、つい無理をさせてしまいました」


「幸せの証だから、いいんです。それにエルの色っぽい表情を堪能できて、私も嬉しかったですよ」


腰が痛くて立ち上がれなかったのも、きっといい思い出になるよね!

それにこの痛みはエルがくれたものだから、それさえも愛おしいと思えてしまうから不思議だ。


「それは、フィオの方です……」


昨夜の事を思い出したのか、エルは恥ずかしそうに頬を赤らめている。

こういうところは本当に可愛い。


「エル、もう少しこちらに来ていただけますか?」


「はい。こちらでよろし……」


不意打ちで、唇に触れるだけのキスをした。


「朝起きたら、おはようのキスがしたいんです……ダメ、ですか?」


「ダメじゃ……ないです」


「夜寝る前にも、おやすみのキスがしたいんです……ダメ、ですか?」


「むしろ……歓迎です」


「お出かけする前にも……」


「いつでも……歓迎です」


「ではもう一回しても、いいですか?」


「フィオ……もしかして、私を誘ってますか?」


「はい……少しだけ。だって、エル。私がお願いしないとしてくれないから……」


「ずっと、我慢してたんです。フィオを怖がらせたくなかったので……」


「エルなら、大丈夫です。怖くなんてないですよ。これからは……いつでも、好きな時にしてください」


「分かりました。それなら……」


間髪入れずに、エルは私の唇を塞いだ。次第にそれはエスカレートして──



「すみません、フィオ! また無茶をさせてしまいました……」


「大丈夫ですよ。今日は事前にお休みをもらっていますので。一緒にのんびり過ごしましょう? それに……エルの温もりをいっぱい感じられて嬉しかったです」


「そうやってまた可愛いことを言うから……っ!」


「可愛いのはエルの方ですよ。その照れた顔が、最高に可愛いです」


ああ、とても幸せだな。

これから毎日エルと一緒に居られるなんて、本当に夢みたいだ。





その後、ルクセンブルク王国とローザンヌ帝国では、とある恋物語が有名になって語り継がれるようになった。


『国境を越えた聖女と王子の恋物語』


私とエルをモデルにしてつくられた物語だ。

酒場に行けば吟遊詩人がその物語を語らい、劇場に行けばミュージカルの金字塔として演目を楽しむことができる。


こっそりエルとそのミュージカルを見に行って、お互い恥ずかしすぎてあまり劇に集中出来なかったのも、後から思い返してみればいい思い出になった。


可愛い子供達に囲まれて。

素敵な旦那様がいつも傍で支えてくれて。


私は今、とても幸せです。


こうして平和な日々を送れるのも、全てユグドラシル様のおかげです。

だから私は今日も聖女として、頑張って皆にユグドラシル様の偉大さを伝えていこうと思います。


それで少しでも、恩返しになれば幸いです。



『フィレオニアの民達よ。未来永劫其方達の幸せが続くよう、我はずっと見守っておるぞ!』









Fin.


アズリエル視点の物語を9話ほど追加します。

フィオラサイドでは語られなかった裏側のお話となります。

よろしければ最後までお付き合い頂けると幸いです。

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