第79話 5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと(7)
「これが五芒星と言うものなのですか?」
「そうだ。通常では、このような短期間で得られるものではない。地獄にいる者たちは皆、何年、何十年、何百年掛かっても、得られる焼印は、一つか、二つが良いところだろう。今回の研修を行う上でも、地獄の役人たちは、そなたが得られる焼印の数は、せいぜいそのくらいだろうと踏んでいた筈だ」
僕は言葉もなくただ黙って傷を見つめる。ただの合否スタンプかと思いきや、どうやら重要スタンプだったようだ。
無言の反応でも、事務官には話が僕に伝わっているのがわかるらしく、淡々と話は続いていく。
「そして、そなたは地獄の思惑を遥かに上回る、四つの認証印を得て研修を終わらせたわけだが、四つの傷では意味を為さない。まぁ、何百年かの地獄の苦行の中で、最後の焼印を得られる可能性も無きにしも非ず、ではあるが」
そこまで話すと事務官は、一度言葉を切る。そして、そばにあった椅子を引き寄せると、スッと座り長い足を組む。
そんな一連の動作が、なんだかとても様になっていて思わず視線が釘付けになった。
「古森、聞いておるか?」
またしても、呆けた状態になっていた僕に、辛辣な事務官の声が刺さる。
「ああ、はい。聞いています」
事務官小野は一つ頷くと、話を続けた。
「先程も少し言ったが、四度目の研修を終えた時点で、そなたの処遇は等活地獄行きとほぼ決まっていた。しかしその時、小鬼が進言してきたのだ」
「小鬼が?」
「そう。そなたに、もう一つ認証印を付与してほしいと」
事務官の言葉に、僕の足元にいる小鬼に目を向ければ、手を口に当てお口チャック状態のまま、小鬼は目をキラキラとさせながら、僕を見上げてきた。
「理由は、先ほど述べた通りだ」
「僕が小鬼に『ありがとう』と言ったことがあるから?」
「そうだ。しかし、その時点で小鬼の進言を受け入れたとして、それでも焼印は四つだ。最終研修をクリアすれば大ごとになるが、クリア出来なければ、全く持って無意味な行為に成りかねん」
「……ですね。何百年か後に僕が最後の認証印を得られるかなんて、分かりませんから」
「しかし、小鬼は分かっておったのだ」
「えっ?」
小鬼が分かっていたとは、どう言うことだ。まさか小鬼には、予知の力があるのか。
「何百年か後ではなく、そなたが最終研修をクリアすると小鬼は断言した」
「な、なんで……? 小鬼には、予知の力でもあるのですか?」
僕の質問に事務官は呆れたように鼻を鳴らす。
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