第6話 朝の散歩

 翌日、今日は日曜日。

 僕は今、おじさんと出かけていた。普段からあまり外出できていないため、休日はできるだけ外に出るようにしていた。車椅子で生活する僕は、一人で外出するのは不便だ。そのため、このような外出する日があると気晴らしなり、とても助かっている。


 おじさんについて改めて説明すると、名前は星野ほしの正宗まさむね、32歳の社畜だ。社畜と言っても、知り合いの社長にこき使われていると言っていた。会社自体がブラックではなく、おじさん自体がブラックということらしい。うーん、不憫です。

 おじさんの会社は、IT系の会社でさまざまなシステムを作っているらしい。その中でエンジニア担当らしい。……エンジニアなのに営業してるとか言っていたが。そのおかげで、いろんな人と人脈があるらしい。僕の配信機材もおじさんの人脈から安く仕入れてもらった。


「最近どうだ?」


 近くのベンチに座りながらおじさんが聞いてきた。


「特に変わりないよー。授業もちゃんと受けたし、大丈夫」

「そっか。前言ってた配信とかは?」

「配信はねー、マイペースにやってる。一週間で登録者二桁に行ったよー」

「おー、それは早いな。チャンネル名は、相変わらず教えてくれないよな」

「さすがに観られるのは恥ずかしいよ」

「親としてみてみたいだけだ。まあ、無理していないようならいいか」

「うん、見てくれる人も優しいし。大丈夫」

「そっか」

「うん」

「そういや、学校からいろんな案内来てたけど何かしたいことないか?」

「案内?あー、体験学習とかかな」

「それだった気がする」

「うーん、今のところ受けていないというか、受けれなさそうだからやっていない」


 僕が通っている通信制高校は割と自由にできる。何を学ぼうか、何をしようか、縛られることがなく自由だ。また、その手段も多種多様に用意されている。僕にとって最高な学校環境だ。

 その手段の一つに体験学習がある。字の如く、体験して学ぶものだ。僕も何個か案内が来て面白そうと思っていた。だが、


「やっぱ、行くことが難しいね」

「……。うーん、そうなのか」

「学校側に問い合わせたり、担任の先生に聞いてみたりしたけど難しいらしい。でも、不可能ではないと言ってた」

「そっか。うーん、できれば連れて行きたいが……」

「いや、大丈夫。今やりたいことはないから」

「……有給が取れば年三回ぐらいは多分いける」

「そうなんだ。やりたいもの見つけたら頼もうかな」

「おう」


 なんかおじさんに気を遣わせたみたいだ。相変わらず、人との距離感がよくわからないなと思った。



 僕は思春期に入ってから人間関係についてよく考えていた。

 子供の頃から、特に仲良い友達がいなかった。別にクラスの中で浮いているわけではない。知り合いはいたし、班の人ともしゃべっていた。けど、友達と言える人はいなかった。

 それは学校だけではなく、家庭でもそんな感覚があった。家族といっても血のつながりしかない、ただそれだけだと思ってた。お父さんも、お母さんも、妹も。

 特に悲しいと思わなかった。でも、何か気持ち悪い感じがしていた。心の一部が欠けてるような感じだった。

 そんな感じだったが、実際に家族を亡くすととてつもない虚無感が僕を襲った。本当は大切だったんだ、お父さんも、お母さんも、妹も。


「智樹ー、飲み物買ってくるぞー。なにほしい?」

「あっ。お茶ー」

「はーい」


 いつの間にかしてたみたい。せっかく外に出ているんだから体を少し動かそう。……気晴らしにね。


 __________


(正宗視点)


 智樹がなんだか悩んでいるみたいだった。そっとしておこうと思い、席をたった。

 智樹を引き取りはや半年過ぎた。智樹との生活はうまくできてるかと言われたら微妙だ。俺は、あの子とうまく喋れているのだろうか。元々、俺たちはあまり関わりがなかった。お盆や正月など、親戚が集まる時に少し会うぐらいだ。また、俺が未婚のため、智樹にとっての従兄弟もいない。おじさんと高校生では会話が盛り上がらないだろう。


 ある日、大切なものを失ったことはあるか。俺にはまだない。だから、俺は引き取った甥の気持ちが正確にはわからない。でも、俺たちは家族になったんだ。今の智樹が何を感じ、どう思い、どんなことをしたいと考えているか。僕が考え、寄り添い続けないといけない。……兄さんみたいに。


 俺も少し考えすぎたな。そろそろ戻ろう。


 __________


「……どうしてこうなった」

「君はかわいいね。あ、おかえり。おじさん」


 見知った人がいると思い、離れようとしたがよく見ると智樹もいた。


「あ、こんにちは」


 僕の顔を見て、ニマニマしてる。


「はー。なんでいるの?」

「犬の散歩」

「……?知り合い?」


 飼い犬を撫でながら聞いてくる智樹。


「……俺の会社の社長」

「ええ。そして彼は私の副社長」

「あー、なんとなく察した」

「おい。私をどんな紹介したんだ」

「あははー。よし、智樹帰ろう」

「あーこれは無理だね。わんちゃん、一緒に逃げよう。」

「ワン!」


 智樹は犬のリードを取り、逃げてしまった。俺を置いて。


「なんで素直にリード渡すんですか……」

「いやー、逃げようとした部下を捕まえるにはいたしがないから」

「で、本当になんでいるんですか」

「普通に散歩しに行きただけだよ?そしたらあの子にすれ違った時に、ワンちゃんが寄って行っちゃった」

「はー、そうなんですか。」

「で、あの子に何て説明したの?」

「いや普通に高校からの知り合いで社長って」

「絶対嘘でしょ。それならなんで私、あの子に引かれてたの」


俺はとっさに目を逸らす。


「……まっずいなー」

「よし、減給するか」

「やっぱ鬼畜じゃん」

「鬼畜ね。女性を鬼畜って説明したのね。……ふーん」

「いや……、その……、すみませんでした」

「なんか、喉乾いたなー」

「……このお茶をどうぞ」

「え、くれるのー。ありがたいなー」

「棒読み……。はあ」


 横暴なこの女性は、水野みずのあかり。僕が働く会社の社長。そして、僕を社畜にした張本人。

 高校からの付き合いで、今となっては腐れ縁みたいなもの。大学時代からこの会社の経営に携わり、今では実質副社長の地位にいる。……いるはずなんだけど、社長にこき使われて平社員と変わらない。

 うーん、会社のこと考えてたら、胃が痛くなって気がする。早く帰りたいなと思いながら話を続けていた。

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