【第45話】戦闘美少女

「とりあえず、手ぶらで行くよりはマシか……」


俺は、なんの魔力もない使い古したラケットを持って、3年C組男子のあとに続いた。

今はコトネが人間に変容しているから、しょうがない。


宮殿の中で、モナ、エミリー、コトネ、アンヌ先生に合流。


「ヤッちゃん、大変よ!」


「わかってる。敵襲だ! ──コトネ、前にいってたよな。夜になると魔王の力が30倍になるっているのは本当なのか!?」


「そう」


エミリーとアンヌ先生がぎょっとしている。


「ウソ!? 30倍!?」


「ヤバすぎるでしょ! どうやったら夜の魔王に勝てるの!?」


「勝つことは、おそらくできない」


「冷静にいってる場合か、コトネ! 何か方法を考えないと、全滅するぞ!」


「冷静になったほうがいい」


「なれるか!」


「敵は魔王とは限らない」


「……あ」


そうだった。


「魔王の手下ではなく、魔王本人かもしれない」というコトネの話があまりにも衝撃的すぎて、魔王が襲ってきたものと思い込んでいた。


「よし、まずは敵を見に行こう!」


俺たちは先輩たちが向かった正門へと走った。


   *


王宮の正門では、今にも敷地内に入ろうとしている敵に向かって、先輩たちが無数の砲弾で迎撃!


──俺はそんな壮絶な光景を想像していたのだが、状況はまったく違っていた。


3年C組の先輩たちは、門の外を見つめたまま、ただ立ちすくんでいた。


「先輩、いったいどうして攻撃しないんだ!?」


さらに近寄ってみると、モナが何かに気づいた。


「ヤッちゃん、見て! 門の外にいるのは……!」


「生徒会長のレオ先輩!? それに、他にもたくさん……あれは3年A組の先輩たち!?」


アンヌ先生は険しい顔になった。


「3年B組もいるわ。いったいどうして……!?


エルミーは、ぞっとした顔でいった。


「みんな生気がないわねェ」


こちらに向かってくるA組とB組の先輩たちは全員、まるでゾンビみたいに白目をむいていている。

動きも、どことなくぎこちない。


そのとき、アンヌ先生が叫んだ。


「大変! B組のうしろにいる人たち、全滅した7つの勇者パーティーよ!」


「なんだって!? どういうことなんだ!?」


すると、コトネがポツリとつぶやいた。


「憑依能力」


「なんだって!?」


「敵は、先輩たちに憑依している」


「A組とB組、そして7つの勇者パーティー……合わせて100人近くいるんだぞ!? 全員がそれぞれ敵に乗り移られているっていうのか!? いったい敵は何人いるんだ!?」


「おそらく敵は1人。強力な憑依能力で、全員の意識を操っている。1人で大人数を操るから、動きにタイムラグが生まれるし、みんな同じような動きしかできない」


「なるほど、だから動きがぎこちないのか! だが、これほどの魔力があるってことは、やはり魔王なんだな!?」


「……違う」


「えっ!?」


「魔王なら、呪術を使って先輩たちを凶暴なバケモノに変えて戦わせるはず」


いつものことながら、コトネの冷静な分析には恐れ入る。


「確かに、そうかもしれないな。だが、どうやって戦えばいいんだ!?」


誰かに操られているといっても、敵はA組とB組、そして7つの勇者パーティー。

ヘタに攻撃して傷つけることはできない。


だからこそ、C組の先輩たちは攻撃できずに立ちすくんでいるのだ。


こうしている間にも、敵に操られた先輩たちは門をよじ登って、王宮の敷地内に侵入し始めている。


せめて、致命傷にならないぐらいの攻撃で侵攻をくいとめたいところだ。

赤いラケットが使えない以上、一か八か、こんな使い古しのラケットで戦うしか……。


そのとき、俺のラケットをコトネが握った。


「私が戦う。砲弾を」


「えっ!? お……おお?」


思わず渡してしまったが、俺はコトネ自身がトゥーネスで戦っているのを見たことがない。


コトネは砲弾を左手で握ると、トントントン、と地面に3回バウンドさせた。

いったい何をしているのだろうか。


コトネの視線の先──そこには生徒会長のレオ先輩の姿があった。


「おい、コトネ。何をするつもりだ?」


「最初に敷地内に侵入してきたレオの動きをトレースするかのように、他のメンバーは動いている──ということは」


「ということは?」


コトネは何かを決断したかのようにウン、とうなずくと、砲弾を投げ上げた。

大きくラケットを振りかぶる。


それは、俺が今までに見た誰のサーブよりも美しいフォームだった。

たとえていうなら、まるで大空を蝶が舞うような。


そうだった!

コトネは魔王を追い詰めた元勇者──つまり、トゥーネスの名手なのだ!

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