【第28話】電撃

学期末に、ちょっと生徒会室にあいさつに行くつもりが、とんでもない発表を聞くはめになってしまった。


なんなんだこの展開は……。

生徒会室をあとにした俺とエルミーは、廊下をとぼとぼと歩きながら言葉を探した。

ようやくぽつりと話したのはエルミーだった。


「まさか、となり村まで魔王の手が迫っているなんて……。レオ先輩たち、大丈夫かしら」


「いくらなんでも、こんな片田舎に魔王がいきなり攻めてくることはないと思うから、たぶんイポリ村を襲ったのは下っぱだろ」


「そう思うけど、現に7つの勇者パーティーが全滅させられたって」


「かなりの強敵だな。だけど、今はレオさんや3年A組の人たちを信じるしかないな」


「そうだね……」


「レオさん、このことはクラスリーダーだけの秘密にしてほしいっていってたな。こんな大事なことをみんなにいわなくていいのか?」


「いったら、どうなると思う?」


「……。大パニック、かな」


「でしょうね。だから、いえない」


「そういうことだな」


正門をくぐろうとしたとき、モナが駆け寄ってきた。


「どうしたのよ? 2人とも、やけに暗いわね」


「モナか。べつに、なんでもないよ」


「なんでエルミーと一緒なの? 優等生とアホなんて、珍しい組み合わせね」


「うるさいな。これでも俺はクラスリーダーになったんだぞ」


「ええっ!? ヤッちゃんがクラスリーダー!? 大丈夫なのG組!? 誰が決めたの!? バカなの!? 死ぬの!?」


「エルミーの推薦だ」


「あ……えっ、そうなの? ごごご、ごめんなさい、エルミーさん」


「いいえ。間違いなくヤニック君はG組のエースだから、当然よ」


「いやー、実力があっても、人徳がね……」


「モナさん、知らないの? 人徳がないどころか、ヤニック君は今や、G組の人気者よ。女子にもモテモテなんだから」


「は!?」


「じゃあモナさん、ヤニック君。私はこっちから帰るから。2人とも、よい夏休みを!」


気をきかせたつもりなのか、エルミーは行ってしまった。

モナを見ると、あんのじょう、今にも噴火寸前だった。


「ちょっとヤッちゃん、どーゆーこと?」


「え……」


「モテモテって、誰と誰と誰に? 教えてちょうだい」


「なんでそんなことをおまえに……」


「いわないと怒るよ」


「いったら、よけい怒るだろ!」


「もちろん、怒るっちゃよ!」


こうなったら逃げるしかない。

俺は走り出した。


「あっ、こら! 待つっちゃーっ」


「電撃だけはやめてくれーっ」


追いかけっこをしながら下校した俺とモナは、帰宅するころには疲れてヘトヘトだった。

全力で走って気分がスッキリしたのか、もうモナは怒っていなかった。


「ヤッちゃん、夏休みはどうするの?」


「まだ決めてない。これから考えるよ」


「モナは?」


「ありあえず明日からしばらく、おじいちゃんの家に遊びにいくつもり」


「おじいちゃん? どこに住んでるんだ?」


「けっこう近いわ。イポリ村」


「イポ……! や、やめとけ!」


「急にどうしたの、ヤッちゃん?」


「いいから、おじいちゃんに会うのはしばらくやめとけ!」


イポリ村には、このあたりから歩くと1日半ぐらいで到着する。


村自体が広大なので、おそらく魔王の被害を受けている場所からは離れているとは思うが、今は行かないほうが無難だ。


「なんでよ? おじいちゃんに会うの、楽しみにしてたのに!」


「どうしてもだ!」


「理由をいってよ」


「だから……そう、おまえがいないと、さびしいだろ」


「えっ?」


「夏休みはおまえと一緒にいろいろしようと思って、楽しみにしてたんだ」


「……! ヤッちゃんがそこまでいうなら、わかったわよ」


「そ、そうか」


「じゃあ、明日ね」


「ああ、またな」


何はともあれ、モナのおかげで暗い気分だけは吹き飛んだ。


   *


しばらくすると日没時間となり、コトネが姿を現した。


「コトネ、俺はどうしたらいいと思う? やっぱり生徒会長たちに加勢したほうがいいよな」


「リスクが大きい。私とヤニックのコンビで、どこまでの相手に通用するのか、まだ未知数だ」


「じゃあ、どうすればいいんだよ。歴戦の勇者パーティーを7つも全滅させた相手だぞ。ヘタしたらA組だって、全滅するかもしれないんだぞ」


「今は彼らに託して、ガマンするしかない。それより実力をたくわえる」


「どうやって?」


「一番レベルの高い、草トーナメントに挑戦する」

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