第10話 裁判
「ブルライン殿にキャンベル嬢、この映像に不服があるのなら述べよ」
法曹の言葉にすぐに反応したのがブルラインだった。
また言い訳や誤魔化しならば、聞きたくはないのだが。
「キャンベル、お前……不倫をしていたのか!?」
「違うわ! 私は告白して昨日フラれたの! 急に国に帰ると告げられて……だから不倫でもなんでもないわ」
「なんだと! 私以外の男と関係を深めようとするとは……この不倫女め! 私がどれほどお前に……あ……」
どこまで間抜けでバ……ダメなコンビなのだろうか。
お互いの不満を爆発させて、自ら二人の不倫関係を認めてしまったようなものだし。
それに私への不倫など全くなかったかのような発言だし余計に腹立たしい。
「はぁ、ブルライン=ウォード様……今回の婚約破棄の件は問題はありませんね?」
「ちょっと待ってくれアエル。幼馴染なんだぞ。少々度が過ぎたかもしれんが、お互いに愛し合ってるわけではなかったことはこの映像でも証明されただろう?」
つまり、幼馴染という肩書きがあって愛情がなければ抱き合ったりなんでもしていいということか。
なんというご都合主義なのだろう。
「なんでそうなっちゃうのよブルライン! 私と毎日してたことに愛はなかったの!?」
「あんな不倫している映像を見せられては冷める。だからアエル、私はやはり君を愛したいのだが」
どこまで身勝手なんだろう。黙って聞いているみんなが、今にも殴りかかりそうな表情をしてて怖い。
「普通に考えて、もう無理でしょう。それに私とて、犯罪を犯すような方との結婚はたとえ政略結婚だとしてもお断りしますが」
「ダメだ! 結婚はなんとしてでも行う。今すぐにでも! そうすれば金だって返せるから助かるはずだ」
言い訳と押しつけを聞いていたら、私の胃がどんどん痛くなってきた。
私が両手で胃のあたりを押さえると、バレンさんに心配されて急遽席を外すように促された。
「アエル、一旦医務室で休んでこい」
「え……でも……」
「アエルはこの場で十分頑張った。あとは俺に任せておけ。おい、誰かアエル令嬢を医務室へご案内させろ」
半ば強制的に諜報部隊の方達に連れて行かれてしまった。
バレンさんの判断は正しかったのかもしれない。
極度のストレスで私の胃はどんどん痛くなっていき、急性胃腸炎とストレス性の病気にかかってしまった。
治るまで一週間の間、王宮の医務室で休養を余儀なくされてしまった。
♢
「本当にごめんなさい……大事な時でしたのに」
ようやく退院が認められた。それを知ったようで、真っ先にバレンさんが病室にやってきた。
尚、私が入院している間に、法廷の間で起こっていたことは全て終わっていた。
結局私は何もできなかった。
「アエルが回復してくれてよかった。むしろ今回はすまなかった……。俺に責任がある」
「なんでですか? 大事な時に病気になってしまったのは私ですよ」
「荷が重過ぎたのだろう。婚約破棄に加え、あの二人の本性と悪事をも暴くためにアエルに余計な負担をかけさせてしまった。お前は十分すぎるほど頑張っていたというのに、更に頑張らせてしまったのだから」
普段バレンさんは、冗談の一言からスタートすることが多い。
だが今回は、最初から真面目に話しかけてきたので、余計に申し訳なく思ってしまった。冗談を言えない空気にしてしまったのだから。
「お父様や皆様にも謝罪しにいかなくては……」
「それなら不要だ。何故ならウォード家並びにレウジーン家の両家は貴族剥奪の上、家もお取り潰しの上財産も全て没収されている。すでにこの王都にはもういない」
「そ……そうですか。なんだか罪のないご両親にまで責任を負わせてしまって居た堪れない気持ちがあります」
「アエルは優しいからな。だが、子の責任は親にもある。増してやお前達は貴族だろう? 責務が重くなるのは当然だ。公爵令嬢と婚約していながら不倫が原因で婚約破綻、おまけに窃盗も加われば罰としては軽いくらいだ」
それは分かってはいるけれど、あれだけしっかりしていたデースペル伯爵までというのは……。
「両家の両親は、アエルに会うことがあれば謝罪とお詫びがしたかったと言っていた。まぁ貴族でなくなった以上、まずないだろうが」
「そうですか……もしも会う機会があれば。肝心のブルラインとキャンベルはあの後どうなったのです?」
「あれからずっと言い訳とよくわからん持論を語っててな、流石の諜報部隊も法曹も聴き疲れしてしまったよ」
「無茶苦茶ですね……」
「『金は借りただけだ』とか、『私が貸したお金ですが』とかそんな言い訳が多かったな。全て諜報部隊の調査だったのだと言ったら大人しくなったんだがな」
これ以上状況を聞くのはやめておいた。
聞いているだけでまたストレスが溜まりそうだった。
「婚約破棄は可決。両者からそれぞれ全財産に加え、これからの強制労働の賃金を慰謝料として徴収することになった」
「鉱山行きということですか?」
「ブルラインはな。キャンベルに関しては、あれだけ欲望が強い者だから、奴隷国家に引き渡すことが決まった。毎日あの女は快楽を楽しめるだろう。相手が人間とは限らないがな」
「鉱山行きの方がマシだと思いますが……バレンさんって過激ですね。今回の件でよくわかりました」
「……当たり前だろう。俺が好きな女を悲しませたり泣かせていたのだからな」
「え!? これも冗談ですよね?」
私が少し元気になってきたことを確認してからいつものような冗談を言うようになったんだと思っていた。
だが……。
「いや、本当だが」
平然とした態度で言ってきた!
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