第9話 再会

「お嬢様、ブルライン様がお見えになりましたが……」

「構わないわ。いつも通りに案内して」


 ついにこの日が来てしまった。


 私は急いで支度を整えて、ブルラインのところへ向かった。


「突然すまない。実は、入籍を今日にでも行いたいんだ」

「急にどうしたのです?」


「そうしないとダメなんだ。勝手ですまないとは思うんだが」

「……そうですか、ではブルライン様。大事なお話ですから続きは王宮へ行って続きをしましょうか」


「そういうものなのか? ……わかった」


 予定通りにお父様もお母様も連れて全員で馬車に乗って王宮へ向かった。

 それにしても、どうして婚約の話を王宮に行って進めるのか、疑問に思わないのだろうか。



 ♢


 王宮にある、法廷の間へやってきた。

 ここは貴族の人間が良からぬことを行った場合や、貴族剥奪やお家潰しになる時に使われる。大臣や法曹、時には国王陛下も交えて話をする場所だ。


 すでに大臣と法曹はこの場にいる。

 流石にブルラインも状況を理解し始めたのだろう。


「アエル? ここはどこだ?」


 分かっていなかった……どこまで勉強不足なのだこの男は。


 すでにストレスで胃が痛くなっている。

 なんとか終わりまでは保ってほしい。


 私は軽くため息を吐いてから本題に入った。


「ここは法廷の間です。ここに連れてきた理由は、ブルライン=ウォード様、あなたとの婚約を破棄したいからです」

「なんだって!?」


「ブルライン様、いえ……ブルライン。あなたは私と婚約した後、何か悪いことをしていませんでしたか?」


 ブルラインの表情が一気に悪くなっていくのが分かった。

 相当焦っているようで、顔が真っ青になっている。


「い……いや、何もしていないし思い当たらないぞ! 勝手な言いがかりはやめてくれ。それでも私の婚約者か?」

「私、パーティーの日に見てしまったんですよ。あなたとキャンベルさんがベッタリくっついて良からぬことをしている状況を」


「──!? いや! それは誤解だ! あの時はキャンベルが目にゴミが入っていたから取ってあげてたんだ。ほら、幼馴染だし!」


 何が幼馴染だしなのかがよくわからない。

 どちらにしても私の発言は証拠がない。

 ここからは任せてしまうことにする。


「証拠はあります。諜報部隊の方々にご協力を得ましたので」

「な!?」


 部屋の奥からキャンベルさんとそのご両親、ブルラインの父親デースペル伯爵、更にバレンさんと諜報部隊の人間数名が揃って出てきた。


 すぐに声をあげたのはデースペル伯爵だった。


「ブルラインよ……聞きたいことが色々とある。こちらのキャンベル嬢と不倫関係というのは本当なのか?」


「だーかーらー、誤解ですよぉデースペル伯爵様。私とブルラインは幼馴染ってだけですって」

「そ……そうです父上! 確かに幼馴染というだけあって……小さい頃からの馴れ合いで多少のスキンシップもありますが」



「諜報部隊の者。このように発言をしているが、証拠はあるのかね?」

「はい、法曹様。映像を流す許可をいただけますか?」

「許可する」


 ブルラインとキャンベルが不倫中の嫌らしい証拠映像が流れる……。


 覚悟はしていたが、見ていて気分が悪くなってきた。同時に、婚約者がいながら平気でこのような行為ができるもんだなと呆れてしまう。


 ブルラインが金庫から札束を抜き取った映像、そしてキャンベルの浮気現場や窃盗をしている映像まで流れた。


 キャンベルと一緒にいた仕掛け人の男が席を離れた隙に、鞄の中から札束を幾つか抜き取っていたのだ。

 わざと大金を置いたまま席を外したこと自体が罠だったことは、キャンベルも知らないのだろうが。


 ブルラインもキャンベルも固まったまま放心状態のようだ。

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