第4話 キャンベル視点、ブルライン視点

 ブルラインは扱いやすいし、これ程の優秀な駒を持っている私は幸運です。


 今日も昼間にブルラインとイチャイチャしてきました。

 でも、別れた後は私が何をしているかブルラインは全く知らないから笑えます。


 ブルラインのことは一番好きです。幼馴染だし、婚約が決まった時はどれほど悲しくなったことか……。


 結局、結婚してしまっても私とはこっそりと密会してくれるようになったから良いんですけれど。


 でも、男なんてそこら中にわんさかいるんだもの。なるべく沢山経験しておいて、ついでに貢いでもらえば私の生活がどんどん裕福になっていくのです。


 今日も獲物探しに夜の街へ繰り出しましょう。

 真面目なお父様は私の部屋には絶対に入ってきません。だからいつも窓からロープでこっそりと抜け出しています。帰りは夜中にこっそりと入り口から合鍵を使ってますが。



 最近はハズレが多いですね。平民の存在で容姿が整い、尚且つ貢いでくれそうな人を見つけるのが難しいです。おまけに、夜では更に難易度が高いですから。

 そろそろブルラインからも貢いでもらうべきかもしれませんね。


「ほう、これはこれは可愛らしい……」

 暗くなった街中で後ろからそう声をかけられてびっくりしました。


「まぁぁ!」


 慌てて振り向いたら更に驚いて私の目が大きくなったことは間違いありません。

 顔は整っていて、今までの男どもとはまるで違います。

 しかも、格好が平民というよりもお金持ちの印象が漂っているではありませんか。


「な……なななな、なんでしょうか?」


 普段の強気で声をかける姿勢ができず、つい質問で返してしまいました。

 最初が肝心ですのに!


「いえ、あまりにも美しく可愛らしかったのでつい声をかけてしまいました。おっと、失礼。私はここより遥か東の国出身のライアメンゾと申します」


 国外の人間だったとは驚きです。しかも遥か東の国って、もしかしたら物凄い金持ちが集まった裕福な国の人かもしれません。いえ、どう見ても間違いないでしょう。


「キャンベル=レウジーンですわ」

「キャンベル様というのですね。顔も美しければ名前も美しい……。どうでしょうか、よかったらこの後一緒に食事でも」

「もちろんです!」



 ライアメンゾが気に入ったという店に案内されました。

 でも、ここは会員制で、会員以外の者は会員同伴の下一人のみしか入れません。貴族の人間でもなかなか入ることが出来ない店なのになんでライアメンゾは会員なのでしょうか。

 おそらくこの容姿で特別に会員になれたのですね、きっとそうなんです。


 奥の個室に案内され、ライアメンゾと二人っきりになりました。


「これがメニューです。どうぞお好きなものを注文してください」

 メニューを渡されて私は腰を抜かしそうになりました。


「たかっ!!」


 なんでジュースが一杯で一萬紙幣一枚必要なのでしょう!?

 こんな店で遠慮なく食べたら一萬紙幣百枚は飛んでいきそうです。


「あぁ、気にしないでください。お金だけはありますから」

 そう言って札束を三つほど鞄の中から取り出しました。


 一体何者なのか知りません。ですが、札束を見た瞬間に、意地でもこの男は私の手中に納めなければいけないと誓いました。


 ♢


 彼を落とすために、私はあえて控えめに注文をしました。

 そして、時々必殺の悩殺ポーズを何度か披露しましたが……。


 今までの男とはまるで違います。

 私が胸を強調したり、短いスカートの中を見せて誘惑すれば、すぐに次の段階へ進めました。ですが、ライアメンゾは全くその素振りがありません。

 どうやったらこの金持ちを落とせるのでしょう。


「これは私からのお願いなのだが……」

「な……何かしら?」

「また会いたいのですが。できれば国に滞在している間は毎日」

「も……もちろんですとも!」


 考えすぎでしたね。やはり色気作戦は成功だったようです。所詮は男。私の色気で落とせない男はいません。


 こうして私は、毎日ライアメンゾさんと会うことになり、夜は毎日札束で支払わなければいけないくらいの高い店で食事をさせてもらいました。

 ただ、それ以上の進展がありません。それでも食費で十分に貢いでくれるので満足でした。


 ですが、不思議と料理の味は普段食べているものとあまり変わらなかった気がします……。

 まぁ、あれだけ高いのですから、きっと高級品なのでしょう。

 私の味覚ももっとしっかりしてほしいですわね。


 数日の間で、私は一萬紙幣を大量に消費する食事が当たり前のことだと思うようになりました。

 だからこそ、昼間会っているブルラインからは豪華なことをしてくれるわけではなくて不満がたまっていきます。


 ついにブルラインにも貢いでもらいたくなって強請るようになりました。


ーーーーーーーーーー


「ブルライン~、こっちの店で食べたいんだけど」

「このブローチと、アクセサリー、あ、この服も欲しいわぁ」

「私にも指輪買ってくださらない?」


 ここ最近、キャンベルが変わってきてしまった気がする。

 やたらと強請ってくるようになったのだ。

 本当に愛する幼馴染だからこそ、希望は叶えるようにしたいのだが……。


「キャンベルよ……少々無理がある。父から得ている小遣いでは足りないのだよ」

「そんなぁ……だって、私にはブルラインしかいないのに……そんなに私のこと嫌いになってしまったというの?」

「いや、そんなわけないだろう」

「そうでしょう……やっぱりなんだかんだで婚約を目前にして、あの女の方を意識するようになっちゃったんでしょ」

「いや……違うぞ」


 なぜかは知らないがキャンベルがわがままになってしまった。


「もう……ブルラインに見捨てられたら生きていく気もしないんだから……言っちゃうわよ?」

「おいおい、今日はまだイチャイチャしていないぞ……」

「そうじゃなくて! あの女に言いふらしますよってことよ」


 嫌な予感しかしなかった。キャンベルは都合が悪くなると脅してくる悪い癖があるからだ。


「何を言うつもりだ……」

「私とブルラインが恋仲ってことを」

「ばかな! そんなことすればキャンベルだって未来はないだろう」

「だってどうせ捨てられてしまうのなら私なんてどうなったって良いわよ。ブルラインと豪華で幸せな毎日しか考えられないわ」


 キャンベルの目が本気だということはすぐにわかった。

 このままではまずいし、バレないためになんとかして金を集めるしかない。

 キャンベルが変なことをしないように、なるべく言うことを聞くしか未来はないのかもしれない。

 それでも幼馴染のキャンベルは愛おしく思ってしまう。


 ♢


「今日は、ここのお店でご飯食べましょう」

「ここはやたら高いし……」

「大丈夫よ、この店、後払いもできるし」


 すでに私のお金はない……しかし無ければ不倫がバレてしまう。

 間も無く結婚するわけだし、アエルなら相当な財産を持っているはずだ。


 貸してもらえるように頼んでみるか。

 今までアエルに断られたことなどないから、何とかなるはずだ。

 それにこの店、私だって前々から一度は入ってみたかったし、後のことはなんとかなるだろう。


「わかった……入ろう」


 この日、私は初めて代金の支払いを月末に払う『付け払い』をするのだった。

 一萬紙幣五枚分ならなんとか貸してくれるはずだ……。

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