Tの交差点

芝樹 享

プロローグ



「お父さん!! お父さん!!」


 かたわらにいた母は泣きわめいていた。医師や看護師がせわしく動き回る。

 生命維持装置がかなしく音を立てた。その時、父親が亡くなったことを僕は知った。突然の病に肺炎を起こしこの世を去った。

 5歳の初夏を迎えようとする季節だったと記憶している。

 街のムードは、東京オリンピックが間近にひかえ、興奮が高まろうとする頃だった。だけど、あの恐ろしい病も蔓延が急速に広がりをみせてくる。


 あれから20年以上が経った。恐ろしいウィルスも落ち着き、ワクチンが世界中に広がって10年以上が経つ。




 父の23回忌の法要が終わり僕は、途方に暮れていた。母と祖母の薦めで大学に入り、就職はしたものの、時計の長針になったように同じことの繰り返しが続く毎日だった。

 ふとした噂が世間を騒がしはじめた。どこかの研究所が、極秘裏に進めているプロジェクトがあるという話だった。


 数ヶ月後、動画配信の広告に『謎の臨床試験』という名目の奇妙な募集が掲載されはじめる。

 興味があった僕は、広告の詳細が載っているサイトへいき、内容を読んだ。あまりにも条件が特殊だったのだ。公募数は日に日に増していく。原因は高額の報酬なのだろうと思った。

 国立大学や私立大の4年分の授業料と同等以上の報酬が、保証されるというのだった。応募内容には、特殊すぎる故の文言までがあった。


『非常に危険なため、生死の保証がありません。……ご家族、ご親族にも極秘にする勇気がある方にのみ、応募の参加をお願いいたします』


 僕は思い切ってこの奇妙な臨床試験に応募をした。毎日の歯車生活から抜け出せるのではないか、この応募に参加することで、自分の中にある何かが変わるのでは。そんな脳裏が頭をめぐる。


つづく

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