第26話 アディリアの告白

「私は『ルカ様の仕打ち』を知ってから五カ月間ずっと、自分の決断について思い悩んでいます。ルカ様が好きなことは変わりませんし、私で役に立てるなら一生支えたい。この気持ちは変わらず、私の心を占めています」


 アディリアにとっては、この気持ちが一番だ。

 でも、「私はルカ様を恨まないか?」「ルカ様は私を重荷に感じないか?」と考えると怖くて、アディリアの心は真っ黒に染まり重しとなって動けなくなってしまう。


「このままルカ様の隣にいることに、私は耐えられるのか? ルカ様にとって罪悪感の象徴である私が隣に立ち続けることは、ルカ様の幸せに影を落とさないか? 答えの出ない問題を前に、私は自分で思っている以上に疲れ切っていました」

 そう言って目を伏せたアディリアの表情は暗い。

 そこまで追い詰められていると気づけなかった父親とエリオットが、苦しそうにアディリアを見つめる。


「『ルカ様の仕打ち』を、ロスリー殿下もご存じでした。この婚約に利害関係のない中立な立場であるロスリー殿下を前にして、私は誰かに聞いて欲しかった辛い気持ちが溢れました。ロスリー殿下は、あの……、幼き時に出会った私に対して、何というか、良い印象を持っていて下さいまして……。決断が定まらない私に、助けの手を伸ばして下さったのだと思います」

 ロスリーが子供の頃から自分を好きだったとは、さすがに言えない。


 アディリアの話を聞いた父は、深く後悔の息を吐いた。

「リアがルカーシュの愚かな行為に気が付いたことは、エリオットから聞いていたんだ。その時にリアがどうしたいのか話し合うべきだった。勉強やマナーに取り組むリアを見て、吹っ切れたのかと勘違いしてしまったのだ……。お前は賢く優しい子だ。我が家やロレドスタ家との関係を考えて、不満を飲み込んでしまうことを私は見落とした。申し訳なかった」


「お父様が謝ることではありません。ルカーシュ様との婚約は私が望んだのです。本来であれば姉様のお相手となるはずだった方に、力の足りない私が無理矢理割り込んだのです。そんな真似をしておいて、今更グズグズ言う私がおかしいのです」

 父親もエリオットも首を横に振り、苦しい表情は変わらない。


「リアの未来を奪い、断つような真似をした愚かな私に罰が下ったのだ」

 父親は苦しそうにそう言葉を絞り出すと、唇が真っ白になるまで噛みしめた。

 ルカーシュとの未来を貰ったアディリアには、奪われた気も断たれた気も一切ない。だが、父の後悔は重い。


「リアの優秀さを周りに知られたくなくて、ルカーシュを止めなかった私に落ち度がある。リアは何一つ悪くない。だから、ルカーシュとの婚約は白紙にしても構わない。リアが幸せになれるのなら、ロスリー殿下に嫁いだっていいんだ。親の我が儘でリアの幸せを歪めるなんて、本来はあってはならないことだったんだ……」

 そう言った父親は、後悔からなのか涙を流していた。


 アディリアは「リアの優秀さを知られたくない」とは? それがアーロンとルカーシュの関係するのか? 両親の我が儘って? と疑問が尽きない。

 しかし、後悔に苦しむ父親を一人にしてあげようとするエリオットによって、部屋から連れ出されてしまった。

 聞きたいことがあるのに、無情にも扉は閉められる……。


 エリオットは妹のそんな気持ちには全く気付いていない。

「リアは家のことや、ロレドスタ家のことは、考えなくていい。もちろんルカーシュのこともだ。自分のことだけ考え。リアが幸せになれる道を選ぶことが、俺達の幸せだよ」

 そう言ったエリオットは、アディリアをギュッと抱きしめた。





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読んでいただき、ありがとうございました。

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