第10話 正妻VS愛人 のはずが……
アディリアの学院生活は、アーロンによってぶち壊された……。
元々穏やかとは言い難く、楽しいなんて死んでも言えない、どちらかと言わなくても辛い日々ではあった。
だが、ここ最近は冷笑も嘲笑も、ものともしないスルースキルを持って乗り切ろうとしていたのに……。
「王都に美味しいチョコレートを出す店があると聞いたのだが、店の名前は分かるか?」
今日もいつものように、当然と言う顔でアディリアの隣に座るアーロン。もちろん、アディリアの返事もいつも通り冷え切っている。
「さぁ? 私には分かり兼ねます」
「何だ? リアはチョコレートが嫌いか?」
「アーロン様がチョコレート好きとは驚きました」
「俺ではない。ルカが毎日『疲れた。甘いものが食べたい』と言うのだ。以前にサフォーク国のチョコをレートやったら喜んでいたから、この国のチョコレートをプレゼントしてやろうと思ってな」
「……」
(呪われろ!)
勝手に隣に座ってはルカーシュとの幸せな小話を投下してくるアーロンに、アディリアは毎日イライラしっ放しだ。
いつの間にか『リア』と呼ばれていることにだって猛烈と抗議したが、「王族ではない気安い生活を送りたい」と堅苦しい王族生活について長々と語られた。
長い話を聞くのが面倒で、なし崩し的にそのままになってしまった。おまけに『アーロン様』と呼ぶことも、なし崩し的に強要された。
(甘いものが、食べたいか……。会えない時はお菓子を焼いてルカ様に差し入れしたな。もう遠い昔のように思えるよ……)
「次の休み当たり、ルカーシュと一緒に街に出て選ぶのもいいな! リアも連れて行ってやってもいいぞ」
「結構です!」
「いいのか? 俺が来てから、全然会えていないだろう? 以前は出仕前に顔を見せに行っていたそうだが、今は俺が寝かせないからな! 朝にリアと会う時間が作れないんだ。ルカも申し訳ないとは思っているんだぞ。でも、こればっかりは……」
アディリアは無言で席を立った。
新学期が始まって約一カ月、春休みの期間を合わせると約二カ月、ルカーシュとアディリアは顔さえ合わせていない。こんなことは初めてで、以前のアディリアなら発狂して職場に乗り込んでいるだろう。
しかし今は昔のように無邪気にじゃれついて他愛もない話ができる気がしない。
会ったところで何の話をすればいいのか分からないし、自分に会うことでルカーシュに気まずい思いをさせるのも申し訳ない。
何よりアディリアは、ルカーシュに対して暴言を吐いてしまいそうな自分が怖かった。
それに、ルカーシュの日常は、アーロンによって事細かに情報を与えられている。
出仕前に少しの間顔を合わせていた時より、よっぽどルカーシュの動向を把握できている。悔しいことに……。
(でもさぁ、毎日毎日勘弁して欲しいのよ! 「疲れたからマッサージして欲しい」と強請るとか、「癒しが欲しい」と言って離れないとか、「焼き菓子を食べさせてくれ」と口を開けて待ってるとか、聞きたくない! ルカ様は一体いつから、そんな甘えんぼさんになってしまったの? そんな気取らないルカ様が見れるのは、アーロンだから? アーロンだからなの?)
アディリアは気が付いていなかった。
アディリアにとっては、本妻(アディリア)対 愛人(アーロン)の戦いを繰り広げていたに過ぎないが、周りからは仲睦まじく見えていることを……。
そのせいで、とんでもない悲劇が待っていることも……。
◆◆◆◆◆◆
読んでいただき、ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます