㈱幽霊社長挨拶アーカイブ — 茅ヶ今千花

筑駒文藝部

㈱幽霊社長挨拶アーカイブ

 録画開始

(説明会の会場が映る。ざわめきが聞こえるが、席には誰も座っていない)

(明かりが消え、プロジェクターの光からかろうじて壇の上が見える程度になる。それと同時に、会場の椅子の上に幽霊が大量に現れる。幽霊は皆人の形をしており、椅子に座っているように見える)

(ドアが勝手に開き、スーツ姿の幽霊が入ってくる。幽霊は壇に上がり、マイクを叩く。それに連動するかのように映像にノイズが走る。会場が静かになる。その後、幽霊はゆっくりと口を開く)

 えー、新入社員の皆さん、こんにちは。社長の佐藤です。今から、えー、君たちがこれから働いていくこの会社について、まぁ紹介というか、ちょっとした説明をしようかなと思います。そんなに固い話はしないので、ぜひリラックスしながら聞いてください。

(咳払い)えー、まずね、分かってるとは思うけど、この株式会社幽霊は、幽霊しか入れない会社です。まさかとは思うけど、今この中に幽霊じゃない人間はいませんよね? もしいたら、すぐに内定を取り消します。あるいは、今ここで幽霊になってもらおうかな?

(まばらな笑い声が聞こえる。会場の室温が1度下がる)

 冗談です。驚かせちゃいましたね。まあ幽霊は驚かすものですから(笑い)。

 はい、話を戻します。えー、じゃあなぜ幽霊だけを雇ってるか、分かりますか? えー、そうですね、じゃあ人間の頃、皆さんは幽霊って聞いてどんなイメージを持っていたでしょうか。多くの方が、怖いとか、あるいは呪われるとか、そういうマイナスなイメージを持ってたんじゃないかなと思います。ですが今皆さんはこうして幽霊になって、そして思う訳です。「なんだ、幽霊って思った程怖くないじゃん」と。恨んだり、呪ったりする幽霊ってのは本当に一握りで、大抵は目的もなく彷徨うだけなんですよね。しかも競争とか、そういった人間だった頃にあったしがらみも、幽霊になったらありません。なにせ死んでるんですから。有名だった歌ありますよね、「おばけにゃ学校も試験もなんにもない」って(笑い)。ちょっと話が脱線しちゃいましたが、何が言いたいかと言いますと、私はそういう幽霊のプラスな面を、もっと現世に周知していきたいんですよ。いい幽霊もいるぞと。その為に人間と同じく会社を作り、人間と同じく働くんです。敵じゃない事を人間にアピールするんですね。私の最終目標は、「人間と幽霊の共存する社会」です。まだまだ課題が山積みですが、必ず私は成し遂げたい。そう思っています。

 はい。ちょっと熱くなってしまいましたね。えー、会社の説明に戻ります。えーそしてこの会社、面接がありません。書類を送るだけです。驚いた方も多いと思います。それがなぜかを少し説明してから、まあちょっと業務内容の説明に移ろうかと思います。

(カメラのレンズに血が飛び散った後、すぐに消える)

 えー、では、(咳払い)人は死んだ後どうなるのでしょうか。まあ勿論幽霊にもなる、なるんですが、実は多くの人間は成仏、要するに消えてなくなるか、あるいは輪廻転生しちゃう。もう一回現世でやり直そうとするかなんですよ。

 で、せっかく幽霊になっても、地縛霊になって死んだ場所から動けなくなったり、あるいはあの世をさまようだけだったりして、君達のように自由に動けて、しかも現世に何らかの影響を及ぼせる幽霊っていうのは、実は稀なんですね。現世の時とか、よく心霊映像とかそういう番組がやってたと思いますが、ああいう番組が視聴率を取れるのって、やっぱりそういう幽霊が珍しいからなんですよ。珍しいから皆見る。でもちょっと話は脱線しますけど、ああいう番組の映像の殆どはやらせなんですよね (笑い)。そうじゃなきゃ1時間も2時間ずっと映像流せませんからね。幽霊ってのは本当に珍しいんです。えー、ともかくそんなわけで、今ここにいる霊達は、そういう壁を乗り越えた、いわば霊界のエリートと言えるわけなんですね。なのでここに来ているという事自体が、現世での学歴のように、十分採用する理由に値するという訳です。だから面接がないんですね。ぜひね、その現世への執着心を生かして、社会に貢献していってほしいなと、そう思います。

 はい、では本題です。我が社が何をしているのか、まあ業務内容ですね。それを今から説明していきたいと思います。まあ我が社は非常に多岐にわたる業務をしてまして、何せ幽霊なんて大きい括りですからね(笑い)。なので今回はその一部を紹介する形にはなってしまいますが。(咳払い)で、えー、まあ幽霊ですから、まあいわゆる、スピリチュアルな事をやるんだろと。そう思っている霊の方もいると思います。

(会場が笑いに包まれる。笑い声はだんだん狂気を含んで大きくなっていくが、ある瞬間を境に止まる)

 まあ確かに、お祓い、といっても現世のように儀式的な事をやるのではなく、そこにいる霊の方々と話し合って、彼らがなぜ部屋だったり人だったりを呪うのか、そういう理由を聞いた上で現実的な落とし所を見つけて、別の部屋に行ってもらったりするとかそういう物ですが、やってます。お祓いも。

 ただ、ただですよ、個人的に私はこの会社、なるべくそういう方向に行って欲しくないなと思っています。どちらかというと、幽霊だから出来る事、お祓いとかは霊能者さんとかがもういますからね。そういう方向を目指していきたいなと思うんですよ。

(人間が一人入ってくる。会場にいたスタッフの幽霊が警備員に扮し、入ってきた人間を退出させる)

 大丈夫かな? 話を戻しますね。(咳払い)じゃあ幽霊だから出来る事ってなんだ、という話なわけですね。具体的に言いますと、じゃあまず幽霊の最大の特徴ってなんでしょう。答えは簡単、死んでる事です。幽霊は死んでるんですよ。だからまあいわゆる労災とかですね、あれの起こりようがない。もう死んでるんだから。はい、という訳で、じゃあそれを生かせる仕事ってなんだろうと考えた時に、例えば建設関係。建設と言えば大変なイメージを持っている方も多いと思いますが、意外と幽霊になると大変じゃないんですよ。重いとか、そういうのを、まあ感じる霊もいますけど、感じない霊の方々は大活躍のチャンスです。しかもですよ、13階段って知ってます? 階段の階数を数えると、なぜか本当の段数より1多い。ああいう事をやれる霊の方々はもう我が社が喉から手が出るほど欲しい人材です。何せ材料費0で階段が1段完成するんです。それに例えば部屋を増やす霊の方が揃ったら、もう完璧です。1階分がもう完成しちゃうんですね。まああの、オンオフが切り替えられない、要するにそこにいないと効果を発揮出来ない霊の方はそこに住み込みみたいな形になっちゃいますけど、もちろん交代も出来ますし、何よりそこにいる間は好きな事をしていていい。寝転がりながら給料が貰えると考えたら安い物でしょう。まあそんな訳で、まず建設関係。そして他にも、幽霊って飛べますよね。それを生かそうじゃないかという事で、えー飛行機、あるじゃないですか。あれの監視役みたいなのもやったりしてます。飛行機に乗り込んで、事故が起こりそうだったらすぐに機長か、あるいは管制塔にすぐに連絡する。普通の人間はそんな事したら自分も事故に遭って死んでしまう可能性があるでしょうが、幽霊なら出来ます。だってもう死んでるんだから。凄いでしょう? 幽霊の中には人を呪い殺すような輩もいますが、我が社は逆です。人の命を助ける。いい仕事だとは思いませんか。まあ後、最近はエンターテインメントの方にも精を出してまして、お化け屋敷の運営とかももちろんというか(笑い)、してたりします。お化け屋敷って暗いんでね、意外と本物の幽霊でもバレなかったりするんですよ (笑い)。それに最近は技術も進歩してまして、本物の幽霊と区別がつかないような事を人間もやれたりするんですよね。なのでやりやすくて助かってます。えー、その他にも本当に色んな事をやってます。高価なセットなんかじゃないと出来ない事を霊能力を使ってやる映像作成の仕事だったり、幽霊向けにですけど霊界の観光案内なんかもしたり。後はまあ、そんな大それた物でもないですし、まだ企画途中なんですが、大気圏を抜けられる幽霊の方を集めて、宇宙開発なんかもしようかなと思ってます。これはまだ夢物語ですが。

 はい、そんなわけで、我が社の業務内容紹介でした。本当に色々やってるので、ぜひ我が社に入ったからには、自分のやりたい事を見つけて頂きたいなと、そう思っています。

 では、長い間でしたが、聞いていただきありがとうございました。

(盛大な拍手が聞こえる。明かりがつく。幽霊達の姿が見えなくなる。窓が割れた音がする。椅子が勝手に畳まれる。ドアがひとりでに開いたり閉まったりを繰り返す。映像に度々ノイズが走る。カメラが倒れる音がする。映像に血で書かれた「お前を見ている」の文字が現れる。何者かの顔が現れる)

 録画終了

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