復活とレクイエム

第1話 ……大浴場(若干ご注意ください)

 早朝。まだくたびれている体を湯で洗い流した。なにしろ昨日、城を奪還して、掃除をしていたらいつのまにか寝てしまっていたのだ。


 勇者たちのせいで、城の中はぐちゃぐちゃにされてしまったけれど、とりあえず、この広々とした大浴場だけはいいっ!! すっぽりと肩まですもれて体が温まる。


 それにこの入浴剤!! なんなんだ、この温泉の素、とやらは。魔法よりも疲労回復に効果がありそうだ。


 ま、大浴場とトイレぐらいはこのままでもいいよなー、なんて考えながら、頭にタオルを載せていると。


「デルタか? 入ってもよいだろうか?」

「ま、魔王様っ!? どうぞ、どうぞ。っていうよりも、なんでここで?」


 慌てふためいたおれは、あわあわとタオルで腰を巻く。いや、魔王様とはこれまでも何回か一緒に風呂に入ったことはあったけど。あったけれども。これは、お互いの気持ちを確かめ合ってから初めての混浴。そりゃ、湯気増量に決まっているでしょうよ。いでよ、湯気!! ってな。


 カラカラとガラス戸の音を立てて、魔王様が入ってくる。もちろん、腰のタオル以外は裸だ。


 や、それはおれもおなじだけれども。


 魔王城を奪還してすぐに、こんなご褒美をいただいてしまってもよいのだろうか? では、さっそくいっただっきまぁーすっ!!


「これはまた。傷口にしみるが、悪くはないな」


 魔王様はかけ湯をして、髪を洗い始めた。んふっ!! おんなじシャンプーだもんねー。


「なぁ、デルタよ」

「なんでしょう? 魔王様。なんなら、お背中、お流しいたしますけども?」

「それ以上、我に近づかないでくれないか?」

「あ。ごめんなさーい。でもほら、裸の付き合いなんて言葉、人間界にあるみたいですしぃー?」


 ゆうべ、人間界の辞典みたいなものが出てきて、ちょっとだけ読んでみたんだー。なんでだか文字がわかるんだよねー。やっぱりエリート魔族って最強だよなー。


 あー。でも、うれしいねぇ。こうして堂々と想いを告げあった後のお風呂っていやぁ、そりゃあその、なんだよ。ほら、豪華特典てんこ盛りってな。


 魔王様からのご褒美ー。もらえるんだ、ご褒美ー。もっちろん、ご褒美は魔王様ー。


「デルタよ、少し、話がある」

「なんでしょう? 魔王様」


 もう、話なんてややこしーことやめて、さっさと床を共にしちゃう系?


「その、なんだかとても言いにくいことなのだが」

「はいっ。もう、なんなりと。心の準備は満タンですっ!!」


 ザバッと、かけ湯で魔王様がシャンプーを洗い流す。長くて艶やかな黒髪。んー、たまんねーな、こりゃー。


 もうさ、いつでも準備オッケーよ。こうなったらもう十八禁にしちゃおっか? なんなら非公開も上等よ。


「すまないのだが、デルタよ。そのっ。そなたを好きな気持ちに偽りはない」


 うん。知ってるー。


「だが、そのっ。魔界が混乱しているこの時期に、そなたといちゃつくのを控えていたいのだ。その、魔王としてのケジメとして」


 ……は?


 ここは地獄の三丁目ではありませんでしたっけ?


 まだ、突き落とされるんですか?


 ふがー。つづいてやる。こうなったら、つづくしかないもんねっ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る