デート?と邪魔者
数年前の事だった。
街に呼び出されたフローラは、そのまま武器屋へと連れてかれた。
基本の武器の選び方から始まる。
「女性で背も高いので、長剣で良さそうですね。目指す人物や、したいことはありますか?」
てっきりすぐに実践の訓練かと思ったが違った。
急に問われ、考える。
「私、冒険者になってみたいです」
「冒険者、ですか」
本当は騎士に憧れていた。
しかしそうなると実家の者と顔を合わせるだろうし、離れられないだろう。
もしも意にそぐわない結婚かをさせられそうになったら、家を出る覚悟をしている。
あの家はフローラを守ってはくれないからだ。
「えぇ、昔見た冒険活劇のように華々しい冒険をしてみたいです。ダンジョンに潜り、魔獣を倒し、英雄になる。そんな風になってみたいです」
フローラの言葉を受け、ライカは少々思案した。
「あれは夢物語ですが、なるべく近づけるように訓練しましょう。冒険者はチームを組むのが前提ですが、ソロという手もあります。フローラ様に合うスタイルで戦いをするといいと思います。チームは協力プレイとなりますが、人間関係や息の合うものでなければ難しい。ソロは気楽ですが誰の助けもない、実力がないと最悪死んでしまいます。とりあえずフローラ様、家ではそのまま素振りと筋トレを続けてください。いい筋肉です」
褒められたのは嬉しいが、物騒な話に怯えてしまう。
「大丈夫。俺が責任もって命をおとさないよう冒険の知識と、腕前を鍛えていきますから」
ライカはそういうと武器の棚に向かう。
「では見繕います、しばしお付き合いを」
「えぇ」
店主から試着の許可を得て、鎧や盾も身につけてみる。
「ここなら女性用の鎧も数着ありますので。装備品の使い心地はどうですか?」
軽めの鎧と片手剣、そしてバックラーの装着を促される。
「慣れないです…盾なんて考えたこともなかったから」
腕に着ける盾なんて初めてだ。
あちこち動かしてみる。
「女性の場合、もとの筋力によりますが、重い鎧よりも軽い鎧の方がいい場合が多いです。そして少しでも生存率を上げるにはこちらを盾を学んだほうが良い。今度ひたすら防ぐ練習をします」
自分から頼んだの事だが、剣の腕を教えてもらえればよかっただけなのに。
予想外の方向で教えられた。
「ティタン様も実践では敵の攻撃を籠手で防ぐ事があります。習っておいて損はないですよ」
「…はい」
フローラは渋々頷いた。
「えっと値段は?」
「それは知らなくていいです。もう払いましたので」
きっぱりとライカに言われた。
「でもこれ私が使うのものですよね?払いますから」
「俺が押し付けたので結構です。色気のないプレゼントですみません」
「プレゼント?」
その言葉には驚いた。
そうなるのか。
婚約解消され、初めての異性からのプレゼントが剣と盾とは。
(そうなると、これはデート?)
なんとも色気のないお出かけだが、異性と二人という事実にフローラは急に気づいて、思わず距離を取る。
「他意はありませんので、ただ受け取ってくださればありがたいです。しっかりとしたプレゼントは、本当に好いている人からもらってください」
ライカは怒ったように更に眉間に皺を寄せていた。
「婚約者に振られた後にその言葉は少しきついですわ」
苦笑いをするフローラに、ライカは首を横に振る。
「フローラ様はとても素敵な方です。すぐに恋人が出来ますよ」
「ありがとうございます」
慰めの言葉だろうが、一応お礼を言っておく。
そんな怒ったような顔で言われても信じられないので。
「こちらはスフォリア家で預かり、鍛錬時に使いましょう。ミューズ様に会いに来たといえばフローラ様のご家族も納得されるでしょう。屋敷内には鍛錬場もありますので、そちらでお相手します」
本格的な話にフローラは心がときめく。
「嬉しいです、楽しみ」
ライカが収納魔法で剣と盾を仕舞ってくれた。
実家の人に見られるわけには行かない。
ルンルンで外へ出ると、見知った人を見かけ、ライカの後ろに隠れる。
「どうかなさいましたか?」
ライカは後ろも見ずに、フローラを少しでも隠すように立ち位置を変えてくれた。
目線は周囲を探って素早く動いている。
「元婚約者達です、会いたくなかったなぁ」
見たくないし、話したくもない。
フローラはライカの背中に張り付き、息を潜める。
言われた人物たちを見つけ、ライカが淡々と言い放つ。
「フローラ様の方が美人ですよ」
謎の慰めを掛けられた。
「ライカ様、ありがとうございます。あぁでもどうしよう、気づかれましたよね?」
近づいてくる人たちをライカ越しにみて、思わずため息が出た。
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