第47話 三浦君と話
……その後、俺は佐々木君と店を出る。
「今日はありがとね」
「あん? 礼を言うのは俺の方だろ。今日は散々世話になったぜ」
「い、いや、さっきのやつ」
「ああ、あれか。まあ、気にすんな。何か言われるようなら、俺に言え」
「いや、それなんだけど……今から三浦君と話してこようかなって」
「ほう?」
「なんか、俺が煮え切らないから、ムカついてるのかなとか。俺、以前は誤魔化しちゃってさ」
「なるほど……一理あるかもな。まあ、ムカつくことに変わりはないと思うが」
「はは……そうだよね」
「まあ、いいんじゃねえか。ところで、俺もついていくか?」
「いや、有難いけどやめておくよ。これは自分で言わないとだし、妹さんに早く漫画を見せてあげないと」
「……そうか、頑張れよ」
「うん、何とかやってみる」
佐々木を見送った後、近くのベンチで座って待っていると……。
「あっ、出てきた……よし、方向が違うから一人だ」
別方向に向かう三浦君の後を追っていき……。
「あ、あの!」
震えそうになるのをこらえて、何とか声を張り上げる。
「あん? ……野崎? なんだ? ……一人か?」
「ああ、そうだよ。ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「……ああ」
「じゃあ、ここじゃあれだし……あそこに行こうか」
俺は近くにある公園を指差す。
どうやら、ひと気もなさそうだし、これなら平気そうだ。
公園に移動して、ベンチに座る。
……き、緊張してきた。
隣からは、明らかにイライラした雰囲気が伝わってくる。
「んで、なんだよ?」
「い、いや……」
「はっきり言えよ」
……い、言わないと。
というか、これで好きって言ってどうするんだ?
これで、それを葉月に伝えられたりしたら……。
それで、葉月が気持ち悪い……なんてことは言わない。
でも、俺のことを何でもないと思っていたら……。
俺と葉月の仲が……終わる?
好きでもない男に好かれて、嬉しいことなんかない。
……あの、楽しい時間が終わる?
そんなの……耐えられない。
「おい、聞いてるのか?」
「あ、ああ……」
でも、ここで言わないといけない気がする。
そうしないと、本人になんて言えるわけがない。
「実は俺、葉月が好きなんだ」
「ああ、そうだろうな」
「へっ?」
「そんなん、見ればわかる。そもそも、お前みたいな陰キャが葉月と知り合えば、好きになると決まってる。どうせ、女子なんかと話したことないんだろ?」
……それは確かにそうだ。
俺は女子と話したことないから、そういう面があることは否定的できない。
「そうかもしれない」
「へぇ? 認めるのか」
「まあ、俺が女子と接してこなかったのは事実だし……でも、とりあえず俺としては……今の俺としては、嘘ではないから」
「ふーん……そうかよ。んで、それを俺に言ってどうするんだ?」
別に、三浦君が葉月を好きと決まったわけじゃないし……。
それとは関係なく、俺は嘘をついてたことになるのが嫌なのかも。
「い、いや、どうもしないけど……この間、俺に聞いてきたから。それで、その時はそういうんじゃないって言ったけど、今は違うってことを言おうかと」
「なるほどねぇ……まあ、いいんじゃねえの」
「えっ?」
「そのうち、葉月も飽きるだろうよ。なんか、よくわからんないが……お前が物珍しいだけだろうし」
……それも、否定的できない。
俺が小説を書いているから、それを物珍しくて……付き合ってる可能性はある。
だから、俺としては……その葉月が飽きる前に、俺のことを好きになってもらわないと。
……どうすればいいんだ?
「話は終わりでいいか? んじゃ、俺は帰るぜ」
「えっ、えっと……」
「安心しろ。葉月に告げ口するような真似はしない」
「……そっか」
それだけ行って、三浦君は去っていく。
……不思議と、それを嘘とは思えなかった。
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