第6話 小説の説明
くそ、こんなことなら投稿しとけば良かった。
いや、そもそもこいつのせいだし。
こいつにばれなかったら、俺はいつも通りに小説を書けたはず。
……いや、そうでもないか。
最近はスランプ気味だったし……。
待て……良く良く考えたら、こいつはそれだけ楽しみにしてたってことか?
俺の作品を読んで、それを面白いと。
……これは、またとないチャンスかもしれない。
目の前で読者に読んでもらえる機会なんて、そうそうない。
俺は覚悟を決めて、葉月に問いかけることにした。
「……そんなに面白かったのか?」
「うん、面白かったよ?」
「どの辺がだ?」
「うんと……君の作品はほとんど読んだし。とりあえず、完結したのは読んだと思う」
「……はい?」
俺の作品をほとんど読んだ?
そうなると最低でも、10時間以上はかかるぞ?
「土日を使って、家で読んだよ」
「ま、まじか……」
「それで、全体を通して読みやすかったかな。私、普段は小説は全然読まなくて。でも、君のはスラクラと読めたかも」
「なるほど……まあ、それがネット小説の売りでもあるからな」
あと、それは読者の方にも言われることはある。
でも、読んだことない人にも読みやすいって言われるのは貴重な意見だ。
「ネット小説? 普通のとは違うの?」
……そうだった。
すっかり忘れてだけど、こいつはカーストトップの陽キャだった。
多分、ライトノベルをあまり知らないだろう。
ましてや、ネット小説など知るわけがない。
「普通の小説は、もっと文章や構成がしっかりしている」
「ふーん、そうなんだ。国語の教科書みたいな?」
「……少し違うが、そういう感じだ。それで、俺が書いているのはライトノベルに近い小説だ」
「ライトノベル?」
「まあ、軽くて読みやすいって意味だ。アニメみたいな挿絵のついた本は知ってるか?」
「……本屋で見たことあるかも」
「多分。それがライトノベルだ。小説が苦手な人にも読みやすくなってる本だな」
「そうなんだ……ただオタクの人が読む物って感じだと思ってた」
「まあ、それも間違ってはいない。えっと、話を戻すが……他に面白い点はあったか?」
「うーん……あとは主人公に嫌味がないというか、好感が持てるというか……よくわかんないけど」
「いや、平気だ」
主人公が嫌われたら、それだけで読者は離れる。
好感が持てるという意見は参考になる。
「ねえ、私も質問していい?」
「ん? ああ、構わない」
「それで、結局続きはないの?」
「いや、あることにはあるが……」
ストックはいくつかある。
でも、それは公開前のものだ。
「見せて! お願い!」
「……一話だけな。明日、公開するやつだ」
「ほんと!? ありがとう!」
ほんと……調子狂うな。
まあ、俺自身も嬉しいのは否定できないが。
何より、参考になるかもしれない。
「じゃあ、俺は飯食ってるから見てていい」
俺は自分の作者ページを開いてから、葉月にスマホを手渡す。
「わぁ……」
すると俺の隣に座り、夢中で読み始める。
その姿は、普段の教室で見る姿とはかけ離れていた。
「本当によくわからん奴」
俺はそれを横目に見つつ、パンを頬張るのだった。
不思議と……いつもより美味しく感じた。
◇
……ようやく読めた。
やっぱり、彼の作品は面白いよね。
まだ、何が面白いかと聞かれると難しいけど。
読みやすいというか、主人公に感情移入しやすい。
金曜の夜から、彼のあらかたの昨日は読んだ。
まずは、完結作品ってやつを読んで……。
そんな中、日曜日には最近更新している作品まできた。
でも、その続きがなかった。
本当は、話しかけるつもりはなかった。
でも、お昼休みにあるはずの更新が無くて……。
思わず、話しかけちゃったし。
思えば……あの日の夜から待ち切れなくて大変だった。
彼と出会った日の夜、私はようやく二人を寝かしつける。
「スゥ……」
「すゃ……」
「……寝たよね?」
仕事で疲れたお母さんは、別の部屋でもう寝ている。
私はこっそりと部屋を抜け出し、リビングのテーブルに座る。
「えっと……続き続きっと」
私はスマホを操作して、野崎君の小説の続きを読む。
……うん、やっぱり面白いかも。
小説って、意外と読み易いんだね。
もっと、お堅いものだと思ってた。
「……あれ? 嘘?」
気がつけば、夜中の二時を過ぎていた。
十時から読み始めたから、ざっと四時間ってことだ。
携帯の充電も切れそうになっている。
「やばっ、寝ないと」
急いで布団へと戻り、寝ようとするけど……。
「……寝れない」
すごいなぁ……あんな面白い作品を書く人が、同じクラスにいるなんて。
私は何だがドキドキして、結局朝方まで寝ることができなかった。
結局、次の日は朝寝坊しちゃったっけ。
まあ、元々お母さんが休みの日だったから良かったけど。
だから私は、眠い目をこすり、マクドナルドに行ってずっと読んでいた。
それが、私にとって……どんなに充実した時間かは、彼にはわからないよね。
ほぼ毎日、妹や弟の世話がある。
たまに空いてる時は、単発のバイトを入れちゃうし。
そんなだからお金もないし、中々自分の時間なんかない。
でも、これだったらいつでもどこでも……無料で読める。
料理を作ってる間にも、家の中で妹や弟の世話を見るときでも。
もちろん、間違ってもスマホ歩きはしないし、使う場所には注意するけどね。
あと、暇をつぶすのはYouTubeなんかあるけど……こっちのが面白い。
なんだろ? 自分はここから動けないから、冒険とかしてるのを見るのが楽しいのかな?
とにかく、これを教えてくれた彼に……面白い作品を書いてくれる彼に感謝しないとね。
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