第1話 陰キャぼっちと陽キャギャル



 ……眠い。


 昨日も遅くまで書いてたし……。


 でも、朝は一話書き上げたい。


 アラームを止め、何とかベッドから降りて机に座る。


 パソコンを起動している間に、ペットボトルの水を飲む。


「さて……やりますか」


 カタカタと音を立てて、今日も執筆を開始する。


 毎朝六時から七時まで執筆をする。


 それが、俺の毎朝の日課である。






 一時間かけて、何とか規定の二千字を描き終える。


「ファンタジー小説は描きやすいが……ラブコメがなぁ」


 一応、異世界ファンタジーではそれなりに人気がある。


 ただ、どうにもラブコメが苦手だ。


 昨今では、シリアスなもの以外のファンタジーにはラブコメ要素が必須な面もある。


 あと、色々な作品を書いた方が作家として幅が広がるとアドバイスを受けた。


 だから、ラブコメ作品を書いて特訓しようと思ったんだが……。


「しらねぇよォォ! イチャイチャする気持ちなんかァァァ! こっちは十六年間彼女なしの陰キャだゾォォ!?」


「朝っぱらからうるさいわねっ! 」


「ご、ごめんなさいぃぃ!」


 ドアを開けて暴君……いや、姉貴がやってくる。


 地味な見た目の俺とは違い、美人で目立つ容姿の姉だ。


 歳が十歳も離れているので、俺は未だに逆らえない……多分、一生。


 何故なら、物心つく前に母親が亡くなっているので、母親に近い立場だ。


 父親は単身赴任でいないし、実質的に姉貴が保護者みたいなものだし。


「全く、相変わらずなのね。ほら、着替えて歯磨きしなさい。そしたら、朝ご飯にするから」


「わ、わかったよ」


 後ろを付いていき、朝の準備を済ませる。


 最後に制服に着替えて、朝ご飯を食べる。


「いただきます」


「いただきます」


 姉貴が作ってくれた和食を、有り難く頂戴する。


「良くもまあ、飽きもせずに書いてるわね? もう、一年くらい?」


「まあ、楽しいし……何より、稼げるから」


「はぁ〜便利な世の中になったわよね。ネット小説を書くだけでお金が貰えるんだから」


「書くだけなんて言うなよ。物凄く大変なんだから」


「はいはい、悪かったわ」


 高校性になって、自分の欲しいものが増えた。


 アレなものそうだし、ラノベの大判文庫やグッズなんかも。


 最初はバイトをしようとしたけど、コミュ症の俺には障害が高すぎた。


 面接に行くだけでも緊張するのに、人に混じってバイトなんか無理ゲーすぎる。


 普通の生活とかは何とかなるが、とにかく人前に出る事が苦手だった。


 人に見られていると体から硬直するし、話しかけられると攻撃的になってしまう。


 そんな時出会ったのが、小説投稿サイトだった。


 簡単な登録をするだけで誰でも気軽に始められて、尚且つお金も貰える。


 まさに、コミュ症の俺にとっては天職だと思った。


 有難いことに、今は小説投稿でお金を稼いでいる。


 ……もちろん、楽しいことばかりじゃないけど。






 その後、食事を終え……。


「じゃあ、後はよろしくね」


「わかった。姉貴も気をつけて」


「生意気言って……平気よ、貴方が一人前になるまではね」


「わかった。心配ないくらいに稼いでみせるから」


「ふふ、楽しみにしてるわ」


 姉貴が出て行った後、俺が洗い物をする。


 二人暮らしなので、料理以外のことは俺がやる。


 姉貴は朝ご飯と夕飯だけ作って、他を俺がする形だ。





 その後、歩いて学校へと向かい……教室入ったら、自分の席に着く。


 俺はぼっちなので、誰にも話しかけられることはない。


 一年の時は仲の良かった人はいたが、二年になってから別々のクラスになったし。


 あっちは気にしないかもしれないけど、俺が勝手に気後れしてしまう。


 そんな中、近くの席から声が聞こえてくる。


 アニメとか漫画が好きなクラスメイト達だ。


「昨日のライトノベル原作のアニメは見たか?」


「見た見た」


「作画凄かったよな!」


「そうだな」


「でもなぁ、あの辺はどうかなって思うよな」


「なぁ〜! もっときちんと……」


 俺に友達が出来辛くなったのは、これも大きい。


 どうも、この手の話は苦手になってきたからだ。


 烏滸がましいと思うけど、小説を書いてる身として……を知っているから。



 




 しばらくすると、それまで話していた彼らが黙る。


 ……来たか、陽キャ軍団。


 廊下の向こうからも聞こえてくる、楽しげな声。


 俺達のような陰キャを萎縮させる存在だ。


 そして、扉が開き……。


 派手な見た目の生徒が、何人か入ってくる。


「あははっ! それウケる!」


「いやいや! ほんとなんだって!」


「えぇ〜? 嘘でしょ?」


「ねえねえ、結衣はどう思う?」


「……うん? ごめんごめん、 聞いてなかった。えっと、昨日の夕飯の話だっけ?」


 そこで、どっと笑いが起きる。


 笑われたのではなく、笑わせた形で。


 その中心にいる女の子の名前は、葉月結衣。


 サラサラの長い髪を、綺麗な金髪に染めている。


 その容姿は整っており、学校一可愛いギャルとも言われる。


 大きな目、少し色気のある口元、シュッとした輪郭。


 身長も女子にしては高く、160を超えている。


 スタイルも良く……特に胸が大きい。


 性格も明るく、言葉遣いはともかく、みんなに優しいと評判だ。


 クラスの中を自分の庭かと思って自然に振る舞う。


 こっちが、どんなに迷惑かも知らずに。


 つまり、俺の一番嫌いなタイプの陽キャだ。


 絶対に、無意識的に俺達を見下しているに違いないからだ。








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