天使に好かれている

千春

第1話


私は天使に好かれているんだ。白い光で人間のシルエットをしていて私のことを包み込んでくれるんだ。天使に抱き締められると何もかも忘れさせてくれるんだ。そして目を開けると何も無い状態に戻ってるんだ。私を包む光を、私は天使と呼んでいる。


今週は三回も天使に会った。

一回目は月曜日だった。学校が嫌いだから

憂鬱な気分で行ったんだ。学校に着くともう一限が始まっていて、体育だったから誰もいなかった。自分の席に行くと、白い花が一本花瓶に入れて置いてあった。可愛いけど、勉強の邪魔になるから教卓の上に置いてみんなが鑑賞できるようにした。それから席に座って、時間を潰したんだ。一限が終わるとクラスメイトが制服に着替えて戻ってきた。そして二限から四限まで、つまらない授業を受けた。いつもより字が綺麗に書けたからよかった。四限が終わると昼休みで、私は食堂にジュースを買いに行くことにした。色々な学年やクラスが入れ混じって人が多かったが、我慢することにした。階段を下りていると次の一歩踏み出そうとした瞬間、急に体が宙に浮いた。動揺した私は目をつむると、天使に抱き締められたんだ。


二回目は木曜日だった。学校で体操着と内履きが無くなっていたが、それ以外何もないつまらない一日だった。ただ内履きが無いからローファーで校内を歩いていたら、先生に怒られたことが不満だった。学校は汚いから靴を履き替える必要ないのに、と思った。学校が終わって家に帰るとお父さんがいた。私を見るなり、少し横暴だけど胸ぐらを手で掴んで私を引き寄せたんだ。そして私の顔にグーの手で叩いたんだ。私の顔に虫が止まってたから、捕まえようとしたんだろうと思った。その後、私の二の腕に煙草を押しつけたんだ。お父さんは疲れてるから、私の二の腕と灰皿を間違えたんだろう。そのことを謝るために抱き締めようとしてくれたけど、身長差のあるお父さんは私の首に抱きついたんだ。お父さんは力が強いから、私は苦しくなって目を閉じると天使に抱き締められたんだ。


三日目は金曜日だった。学校は一限から五限限まで実力テストで、みんな静かだったからつまらなかった。でも六限から七限は五限までとは違って賑やかだった。私も一緒に遊んで騒いだけど、まだ中学一年生で小学校を卒業したばかりだから力の加減が上手くできてなくて、私は全身に怪我をしたんだ。学校が終わって家に帰るとお母さんと最近よく見かけるお母さんの知り合いの男の人が寝ていた。けれど男の人は、私が帰ったことに気付くとお母さんを起こさないように静かに私に近付いてきたんだ。そしてお風呂に入れようと男の人に私の服を全て脱がしたんだ。でも私が寒くないか心配して抱き締めたんだ。抱き締められた私を男の人はベッドの上に乗せて横に寝かせた後、男の人が私の上に跨ったんだ。男の人は体温を温めようと私の体を触ったんだ。私が声を出してお母さんを起こさないように、男の人は左手で私の口を塞いで、右手は支えになるようにベッドの上に置こうとしたんだろうけど、ベッドの上と私の首を間違えたんだ。私の首に男の人の体重が乗せられて、私は苦しくて目をぎゅっと閉じるとまた天使に抱き締められたんだ。


天使に抱き締められるのは好きだ。けれど目を開けると、抱き締められる前と違って天気が違うし誰も居ないし時間が少しズレているんだ。だから少し困る。


私の人生は小学校四年生から時間の進みが早いんだ。すぐに休みに入るのに、いつの間にか終わってるし、学年もすぐに上がるんだ。私は中高一貫の学校に入学してまだ一ヶ月しか経ってないのに、もう夏休みになるらしい。自分でも一種の記憶障害で覚えてないだけで時間の進みは変わってない、なんて妄想の中の戯れ言を信じる時もある。私は面倒なことが嫌いだから、いつも曜日しか見てないけど、ちゃんと管理すれば原因も見つかる可能性もあったかもしれない。


あ!そういえば、たまに天使の声が聞こえるんだ。「助けて」とか「代わるよ」とか「大丈夫だよ」とか色んなのがあるんだ。囁くような声で言われるけど、何でそんなことを言ってるのか私には分からなかった。天使は別に辛いことも何も無さそうなのに、そんなことを思っていると天使がまた囁いた。


「自覚したら絶望するよ」


私には天使の言う意味が分からなかった。天使が悪戯みたいなことを言うなんて私の頭がおかしくなってるのかな、なんて馬鹿なことを考えながら私はナイフが刺さった痛みに意識を飛ばした。

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天使に好かれている 千春 @Runcga

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