僕のヒーロー

千春

第1話

「僕は、彼に救われたんです」


そう。僕は小さい頃からずっと一人だ。年の離れた兄と共働きの両親。兄は受験や大学で忙しく、今も仕事に熱中して夜中に帰ってきたり朝に帰ってきたりと不規則な生活だ。小さい頃からたまに挨拶を交わすくらいだが、仲は悪くないと思っている。両親もだ。母も父も医師で毎日が忙しく不規則な生活なことに変わりないが、仕事が大好きということは本人たちから聞いた。両親も兄も、目の前のことに生き生きとしているのを見ている僕は、邪魔したくないと思ってる。それは今も小さい頃もだ。

自分一人でも大丈夫だと思われてきた時から、家族は安心して目の前のことに熱中した。だから行事もイベントも誕生日も、当日に祝ってもらえることは少ない。けれど僕の誕生日の為に帰って来ようと思っているのを知っているから、例え日が空いても祝ってくれるからそれだけで嬉しいんだ。

そう。小学四年生の頃だった。僕は一人でいることに慣れてきていた。けれど誕生日だけでも家族と居たいと思っていた。だから急な出来事で帰れなくなったと連絡があったり休めなかったりとで、一人でいなければならなかった僕は悲しかった。帰り道、憂鬱な気分で歩いていた僕に彼は声を掛けてくれた。

「なあ、おまえ今日誕生日だったよな?なんでそんな顔してんだよ」

学校で僕の誕生日を祝ってくれたクラスメイトはたくさん居た。彼とは関わりがないけれど、僕のことを知っていてくれるのは嬉しかった。

「今日帰っても一人だから」

そう言うと彼は僕の手を引っ張って彼の家に連れて行ってくれた。古風な彼の家には、彼の両親の他に兄弟が六人いた。僕のことを紹介すると笑顔で話し掛けてくれて、誕生日を祝ってくれた。急だったのにケーキの代わりのパンケーキを作ってくれた。誰かと食事を取るのは久しぶりで、彼の家族の温かさに触れて幸せな気分になれた。少し家族との温もりが恋しくなったけれど、僕の中で一番の誕生日の思い出になった。

それから次の日、彼の家にお礼のお菓子を持っていった。喜んで受け取ってもらえた。彼に話し掛けるようになった僕に、執拗いと冷たく言うが優しい彼は突き放すことはなかった。それが僕と彼のはじまりだ。


ある日、学校でクラスメイトのほとんどが持っているという人気なゲームを、学校に持ち込んだ子がいた。クラスではその話が持ち切りで帰りまで続いていた。彼と一緒に帰っていた僕は、彼に一緒に遊ぼうと言った。けれど彼は「持っていない」と言ったために、僕のを共有することを提案してみた。だが彼は断って言ったんだ。

「もっと楽しいことを知ってるからいい。もし必要なら自分で作る」

僕はすごいと思った。それから僕は彼に楽しいことを聞いた。すると彼は兄弟としている色々な遊びを教えてくれた。聞くだけでも楽しそうだった。だから僕は彼の家に遊びに行って、色んなことをして遊んだ。

今では自分で作るなら材料だけでもお金かかるし大変そうだと思うけど、彼の言葉は今でもカッコいいと思う。忘れないくらいに。


それに彼は兄弟のためによく無茶をする。家族に迷惑かけないように、心配させないように無理をしてる彼を何度も見ている。この間も熱が出てるのに平気なフリして倒れていた。目の前で倒れるのは心臓に悪いよ、なんて彼を茶化した。何度注意されても、隠そうとする彼は家族思いだからだろう。それを知ってるから僕は注意するのをやめたが、なるべくやめてほしいと思っている。彼を心配して僕が知恵熱を出すから。


「沢山の彼との思い出があるんです」

だから僕は彼を救いたいんだ。余命付きの病気。だけど手術をすれば治るんだろう。彼の家族だって助かってほしいと思うけど、僕だって彼にもっと生きてほしいと思ってるんだ。彼は貧乏だからって病気を治さないと、決めてるんだろうけど僕は助けたい。その気持ちを彼の両親に話した。


それから色々とあって彼自身が猛反対したが、周りの熱量に負けて手術を承諾した。退院してから彼は、家族思いで家族優先なくせに僕に一番に逢いに来たんだ。

「お前のおかげだって聞いた。ありがとな」

彼は笑顔で僕に向かって言った。

「僕だけじゃないさ。お前はもっと周りから愛されてることに自覚しろよ」

僕がそう言うと彼は困ったような笑顔を作って言った。

「特にお前には相当愛されてるみたいだな。心配されなくてもお前より元気だから、飯食っていつものお前に戻れよ」

そうだよ。僕はとても心配した。彼は意地を張って一ヶ月くらい承諾せずに拒否した。だから手術する前の説得も、手術に成功するかも、全てが不安だった僕は食欲がなくて食事することが減っていた。彼は僕が痩せていることに気付いたのだろう。誰にも言われなかったから、対して変わってないと思っていたが違ったみたいだ。冷たくするのに彼は僕を大切に思ってくれてるみたいだ。僕は心が暖かくなった。


やっぱり彼は最高の友人だと改めて思った。

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僕のヒーロー 千春 @Runcga

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