意気地無し

千春

第1話

僕は30日以内に死んでしまう人のことが分かるという不思議な力を持っている。その力は僕を大切にしてくれてよく構ってくれた大好きな叔母が病気で亡くなってからだ。初めはよく分からなくて頭がおかしくなったと思った。だがそれから少し時間が経ち叔母の死を受け入れられるようになった頃、両親の頭上に30と数字が現れた。日に日に30が29、28、27…15、14、13…3、2、1と数字が下がっていき、0になった日に両親が交通事故で死んだ。その時に数字が亡くなるまでの日数を表してることが分かった。それからたまに外を眺めると近所の人の頭上にも数字があって0になった日にその人も亡くなったことが騒ぎになっていたことが分かった。

その不思議な力を理解していくうちに僕は後悔した。それは今でもずっとだ。どうして、なんで、もっと早く力に気付くことが出来なかったのか。もっと早く理解していれば助けられたかもしれなかったのに。そんなことばかり考えている。もう過去を変えられるわけないのに。

ある日、僕は親戚の仲のいい人の頭上にもう数日で0になる人がいた。部屋にいても仲良く喋って笑っている声が聞こえ、死んでほしくないと助ける方法がないか考えた。0になった当日に僕は付きっきりで動いた。だが0になった日があと少しで終わるという時に偶然転んだ拍子に勢いよく角に頭をぶつけ死んでしまった。その時に僕は助けることなんてできないのだと分かり諦めた。

こんな不思議な力は見えるだけで誰も救えないなんて、人が死ぬのを傍観するだけで見殺しにした人間が生きていていいわけないとその日を堺に自暴自棄になっていった。食事も睡眠もあまり取ることはなく日が進んだ。何度か自殺をしようとしたが、少し様子がおかしいと毎度のようにバレて諦めた。それと同時に大切にされているんだと気付き、僕も挙動不審になってバレたのはまだ生きたいと思っていたからなのかもしれないと思った。


そんなこんなで17歳の誕生日を迎えた日。高校に入ってからようやく毎日学校に行くことに慣れた。両親が死んでからすぐ僕は親戚の家に住むことになり、親戚の人は僕を家族のように接してくれ受け入れてくれた。まだ僕が両親のことを受け入れられないことを知って、部屋に引き篭っていることを許して見守ってくれた。食事を持ってきてくれたりたまに声を掛けてくれたりと優しく接してくれた。そのおかげでずっと部屋に引き篭っていた僕はいつしか部屋の中を出ることができ、家の中なら安心して過ごすことができるようになった。高校に入ってすぐの頃は休みがちだったが少しずつ慣れて、進級する頃には休むことが少なくなった。それと同時に僕を笑わせてくれる頼りになる友達もできた。僕は過去のことを思い出し振り返りながらベンチに座り満開の桜を眺めていた。


「僕はこの綺麗な桜がいっぱいの時に生まれてきたんだ。こんなに綺麗なのに桜って散っちゃうんだよな…」


当たり前のことをしみじみ思いながら、独り言を口に出して話した。


「同じ桜でも僕はきっと散った桜だ。落ちた桜は地面に落ちて誰にも見られずに踏まれておしまい。あーあ、苦しいなあ」


そんな独り言を話していたら肩にポンと手を置かれて、ビクッとした。手の置かれた方向を向くと、僕の一番仲のいい友達がいた。そして僕に笑顔で話しかけてきた。


「なーにしてんの?お前、誕生日なのに元気ないなあ」


「え、なんで…なんで誕生日知ってんの!?」


誕生日なんて苦しいだけで同居している親戚以外には教えたことがなかったはずなのに。


「前に学生証拾って渡したときあっただろ?あん時に見たから覚えてたんだよ。俺はお前の一番の友達なんだろ?なら誕生日くらい覚えておかないとな!」


「そ、っかぁ…」


僕は両親を救えなくて、殺したも同然なのにおめでとうなんて綺麗な言葉をもらえないから。そんなことを思っていたら顔に出ていたのか、それとも口に出ていたのか分からないが彼は僕の頬をつねった。


「ばーか。誕生日おめでとう」


「…え」


「確かに、桜が散ったらその花びらを地面まで追いかける人は少ないかもな。でもこの花びらはこのあと土になってまた来年、またその次の年って繋がって希望の種になるんだよ」


「…」


「この桜があるのも綺麗な花びらが生まれるのも散った花びらのおかげ。この世に存在意味の無いものなんてないさ」


「…うん」


「生まれてきてくれてありがとう」


俺は彼に掛けられた言葉に涙が流れた。今まで苦しかった誕生日を今日、何年振りかに苦しみから解放されたように感じた。いつもなら休んで部屋に引き篭っていたが今日ちゃんと外に出てよかったと思った。


「…なっ、初めから聞いてたのかよ。…でも。あ、りがと…。」


僕は初めから独り言を全て聞かれていたのだと恥ずかしくなり動揺して照れ隠しでツンとしてしまったが、ちゃんとお礼を言った。この時から僕は一番の友達である彼に恋をした。


僕を救ってくれた彼を好きになってから日が経つにつれ、どんどん好きになっていった。でもこの恋は絶対に叶わない。それにバレてしまって距離を置かれたり関係が切れることを恐れた僕はこの恋を心のうちに秘め、一人叶わない恋をはじめた。彼以外にあまり仲のいい友達なんかはできず、誰にも相談出来ぬまま想いを募らせていった。

大学は偶然同じで彼とは仲がいいままだ。だが大学に入ると交友関係が広がり、彼に彼女ができたのだ。彼女が出来たと報告された時、僕は頭が真っ白になった。その時のことはよく覚えていないが上手く祝えなかったと思う。それから暫くして別れたり、また付き合ったりと繰り返しあったおかげで前よりは上手く祝えるようにはなっていた。ただそれと同時に想いを募らせる一方で心に秘めたままなのは苦しかった。だが恋人ができても僕との時間を作ってくれた。帰る方向が同じで一緒に帰ったり勉強したりと大学生活は彼以外に友達がなかなかできなくても充実していた。

そんなある日、彼に彼氏が出来たと言われた。その時に彼は同性もいけるのかと分かり、僕にもチャンスがあるのかもしれないと思った。だが付き合うということは別れがあるということだ。そんなの僕は耐えられないと少し諦めた。けれど僕は少しでもチャンスがあるということに、前よりも想いが強くなっていった。だが進展はなく彼とは仲のいい友達のまま変化はなく、いいことではあるが少し悲しく感じた。二人で飲みに出掛けたときは惚気を聞かされた。僕は笑顔がだんだんと消え、相槌をするのも苦しくなっていた。その変化に酒を飲んでいた彼は気付くことのないまま話した。僕もお酒で酔えたらいいのに、なんで強いんだろう。そんなことを毎度のように思いながら話を聞いていた。彼は言い終えると聞いてくれてありがとうと礼を言い、そして僕を親友だと言ってくれた。その言葉に僕は少し苦しかったのが良くなったように感じた。


きっと彼は僕の好意に気付くことのないまま時が経つのだろう。そして僕の恋は誰にも打ち明けることのないまま散っていくのだ。何度この恋を諦めようとしただろう。だが彼と話す度に改めて好きだと自覚し諦めきれないのだった。初恋は叶わないという言葉は本当なのだ。僕のこの恋は叶わない。そして諦めることもできない。ただ一途に想うことしかできないのだ。同性という壁はなかなか乗り越えることができず、友達や親友という関係性はより高い壁となり超えることが難しい。ただ勇気があれば…。初恋の彼以上に僕を救える人はもう出会えないと思う。彼よりもっといい人が見つかればなんて思うがそんな人がなかなかいないこの世界で交友関係の狭い僕には遠い遠い未来の話だ。


これから彼に当たって砕けるのが先か、それとも彼と彼の恋人を受け入れることができるのが先か。誰にも言えない秘密の恋はどちらに傾くのだろう。どちらも遠くない未来の話である。この苦しみから解放される日は来るのだろうか。

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意気地無し 千春 @Runcga

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