女神兼破壊神が美ロリや美ショタに囲まれるおねーたまハーレムラブコメ

穏水

第一章 ラースベルク編

第1話 見た目と相反する駄女神

「あーなんか良いことないかなぁ」


 ハルミは極上のソファーに突っ伏しながらそう呟いた。


「……すごく、暇」


 灰色みがかったオレンジ色の髪をセミロングに、整った顔立ちをハルミはしていた。すらっとした長く細い脚に、白い肌。惹きつけられるような、透き通った声。


 誰もが彼女を見た瞬間息を呑み、この世にこれ程以上に美しいものがあろうかと思わせるほどの容姿をしている。いかにも、清楚系、美人なお姉さんという言葉が似あっているだろう。


 でも、それもそうだ。何故ならハルミは下界ラースベルクの女神なのだから。


 天界イメイシス。神達が住まう場所。その中の遠く離れた一軒家にハルミは住んでいる。


 皆は思うだろう。彼女を見たと同時に、この方のお部屋も綺麗なんだろうなぁ、と。


 だがどうだ。そんな現実は一ミリも存在していなかった。


 ハルミは部屋でだらだらと過ごし、あちらこちらに酒瓶を転がしている。見合わないのだ。容姿とその部屋が。あってはいけない現実に、ハルミは存在しているのだ。しかもそれだけではなく、部屋のあちこちに壊れた家具や、設備が異様な雰囲気を放ち設置されている。


 言おう、女神ハルミは、清楚系ではない。


 まあでも、四六時中机の上に置かれているみかんはポイントが高いだろう。


「んー! はぁ、久々に下界でも見てみるか」


 ハルミはソファーから起き上がって大きく伸びをし、立ち上がった。


 右手の人差し指をピッと上から下に振り、下界を映す大きなスクリーンが出現した。


「おーやはり随分と繁盛しておる……こんなの私がいなくても大丈夫じゃん」


 映ったのは、大きな城を中心として広がる王都ミジェリア。圧倒的な栄えっぷりに、ラースベルクでは一位の発展さを誇る王都となっている。


「良き良き! でも余計私の出番無くなったわ! どうしてくれるのよ……はぁ」


 ため息を吐き、右手の人差し指を下から上へと振ろうとしたが、途中で止めた。


「……え? あの子は……」


 と、ハルミはそのスクリーンの一点をじっくりと注意深く眺めだした。女神たる神聖力を眼に纏ってまで。そして、はっきりと視認した。


「ロリ……美ロリ……」


 そう。彼女が見たのは、ブロンズの髪をした少女。ハルミ程とまではいかないが、かなり顔も整っており可愛らしい。


 だが、状況が状況だった。


「てかなに? アイツら」


 少女は小汚い男に担がれて、薄暗い路地を走っていたのだ。身をよじりながら男に抵抗はしている者の、相手の体格の良さに歯も立たず意味をなしていなかった。


 誘拐か。何を目的に連れ去っているのかはわからないが、見捨てるわけにはいかない。


「はは、ついに私が天界を発つ時が来たか……。よかろう。あれでもバレていないつもりなんだろうけど、この私の神眼に見えないものなどない! ロリを虐めるやつはこの私が許さんッ」


 ハルミはその場をくるりと回転し、部屋の中央に立った。


 床に大きな白い神聖陣を、神聖術を用い顕現させる。すると、その神聖陣は白い光の線が走り出し、眩い光が部屋の中を一瞬にして覆った。


 後に残ったのは、転がった酒瓶と、みかんくらいだった。




   †††




「おい、急げ……!」


 エリックは、仲間のアンデス、ドレインに小さく叫んだ。


 なぜならこれは絶対に失敗出来ない任務なのだから。


「きゃ、やめて……降ろして……」


「静かにしろ!」


 腕の中の、ブロンズの髪をした少女が、力尽きそうなか弱い声で抵抗し、身をよじるもエリックは持ち前の腕力で押さえつける。


 正直、こんなか弱い少女に抵抗されるのは良い気持ちではない。この先のことなんて一切想像もしたくない。だが、自分の命には代えられないものだ。


 王都の中でもスラムと言われる所の、誰もいない路地をエリック達は走っていた。


 向かった先は、廃墟と化した酒場。しんと静まり返ったこの場所だと、いくら叫ぼうと誰にも気づかれないだろう。


 エリックは酒場に着くと、手近な柱に少女をロープで繋いだ。


「ふぅ、これでいったんは落着だな」


 少女の顔は今にも泣きそうな顔をしている。今ここで叫んでも誰も来ないことは理解しているらしい。


「アニキぃ、こいつ手ぇ出しちゃあだめっすか?」


 不意にアンデスが言ってきた。


「絶対にダメだ。お前は上の命令の重大さを知らないのか?」


「えー、ちょっとだけっす──」


 アンデスは言いかけた口を塞いだ。エリックの右手の手のひらが彼に向けられていたからだ。それだけではなく、手のひらには赤い魔法陣が描かれている。


 これ以上喋ると、殺される……。


「はぁ、ちょっとでもけがれると生贄に使えなくなるんだ。それに、上の命令を完遂しなかった奴が、生きて帰ってきたことをお前は見たことがあるのか?」


「あ、ありません……」


「ならこれ以上聞くな。ドレイン、アンデスと一緒に外で親方が来るまで見張っておけ」


「は! ほら、行くぞアンデス」


「ふわぁーい」


 エリックは仲間たちが外に出るのを見届けてから、少女の方に向いた。


 目に大粒の涙を浮かべ、こちらを睨んでいる。


 エリックはその姿を見て、何も言えなくなり目を逸らした。


 こんな小さな少女が、近いうちに死ぬなんて……。


「さてさて、どうし──」


 その瞬間、爆発音のような耳をつんざくくらいの大きな音が辺り一体に響き渡った。


 反射で閉じた目をゆっくりと開けると、足元に仲間のドレインとアンデスが転がっていた。


「ど、どうしたドレイン! アンデス!」


「ア、アニキぃ、気ィ付けてくれ……」


「気付いたら、ここに……」


「っ……襲撃か!? 一体誰が……」


 エリック達は周りを注意深く警戒しここまで来た。つけられている感覚も何もなかった。仮にもエリックは王都でも数少ないA級冒険者。そんなエリックが気付かないわけがない。


 ゆっくりと、音のなった方向──酒場の扉の方に目を向けると、そこには──。


「……女?」


 ──神々しい光を身体に纏った──太陽の光が逆光になっているだけ──超絶美女が佇んでいた。

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