第136話

sideダミアナ


 夜も更けても一向に綾人くんはペローナ様の部屋から出てこない。

 そしてメイドが昼間から部屋の模様替えか、大きなベッドを運び出しているのを見た。

 この2つが指し示す答えは! いや昼間っからなんてハレンチな! 


 けどよく考えるのよダミアナ、あの男とまったく縁がなかったペローナ様よ、出会って間もない男とそんな関係になるかしら。

 もしかして! あの凄腕のマッサージを買って呼び出したのかしら!

 だとすると全てに合点がいくわ、もともと寝つきも寝起きも悪いペローナ様ですもの。

 それの改善のために、マッサージ師を異世界から連れてくるくらいの事はしそうだ。


 つまり、今はマッサージ後でペローナ様は寝てしまっているはずだ。

 夕飯の準備ができたとメイドに急かされているから、呼び出しに出向いても情事にぶつかることはないでしょ。


 そう思って広間の扉を開け放つと、めちゃくちゃベッドインしている光景が目に入ってきた。

 可愛いリアクションなんて忘れて、がっつり観察していこうと決意して近づくが、ただ単に添い寝しているだけだった。

 ほっと安心した気持ち3割、残念さ3割、その場所変わってペローナ様って気持ち4割ってところですか。


「ペローナ様ー? 起きてくださーい?

 夕ご飯のお時間ですよー」


 寝起きが悪いことで定評のあるペローナ様でも、正当な理由があれば起こすことは認められている。

 前にイタズラで起こした天使が、地平の果てまで吹き飛ばされたのを見てから、冗談でもイタズラなんてする気はない。

 声をかけて最初に起きたのは綾人くん、気づいたら寝てしまったようで服装には乱れは見られない。


「えっ、もう夜になってる」


 ステンドグラスから漏れる明かりが、太陽ではなく月の光に変わっている事に驚いた表情。

 その声に反応してペローナ様がぐずりながら起き出す、こっちはバッチリ着崩れしてるから予想は当たったのか、それとも普通に寝相が悪かっただけか判断できない。


「入室許可は出してない……zzz」


 気を抜くと直ぐに寝こけ始めるんだから、普段の気勢が感じられないギャップ萌えだわ。

 そんなペローナ様の髪を手櫛で直してあげている綾人くん、いつの間に髪を触るほど親密になったんでしょう、そしてそれを当然のように受け入れるペローナ様!?

 まるで日常の一部みたいに自然な振る舞い、これまでの人生をずっと共に過ごしてきたかのような。


「ご飯の準備ができたんだってさ、行こ?」


「抱っこして、連れてって」


 子供のように両手を突き出してベタ甘な反応、ふぎぃぃ!! ペローナ様のこんな姿が見れるだなんて、これは映像に残さないと損ですって。


「もう、仕方ないなぁ」


 綾人くんも男らしさ全開のお姫様抱っこっっ!!

 けどその表情は子供をあやす父親のような慈悲深い顔。

 ええっ、本当にこの間何があったんです!?


 呆然と立ち尽くす私を他所に、完全に2人の世界に入っている。

 私の存在は部屋の観葉植物と同等です。

 この景色をいつまでも目に焼き付けておきたい、そして少しでもチャンスがあればおこぼれが欲しい……。

 そう思えて止まないシーンでした。

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