第89話
「私の眼には、そのモノの本質を見極める能力がありますの。」
景気良くご飯のおかわりを要求する左手の茶碗とは相反して、トーラさんの語る口調は穏やかなものだ。
トーラさんがアドリアネの正体を看破したと聞いた時は驚いたが、どうやら初めて相対した時に既に理解していたらしい。
「世間からは『神眼』などと言われていますが、そんなに便利な物ではないんですの。
ただその人の能力が見えるだけで私は非力なエルフのまま、結局周りに助けられて成立していますの。」
そんな彼女の目には、人の顔の上にその人を表す言葉が浮かび上がるのだと。
そしてアドリアネの頭上には、しっかりと天使と現れていると言う。
「なるほどスキルですか、またヘラ様もミーハーなものを流入させましたね。
どうせ最近思いついたものですから、私たちにまで情報が回ってきていないのでしょう。」
そんなんで良いのか神様…。
それでもスキルというのは珍しいものらしく、トーラさんは生まれて50年数えるくらいにしか出会ったことがないと語る。
「そんな稀有な存在が、今私の眼の前にこんなにいるんですの!
なので私、この村に入ってから落ち着かないんですの。」
やけに落ち着きがなかったのはそれが原因なのか、けど天然人たらしな部分は素だろうな。
普段から面倒見は良いアドリアネだが、こんにも早く懐に入っているのは彼女が初だろう。
しかし食べる手を休めないなこの人、隣のメリダは初耳なんですけどって顔してるし。
因みに竜姫たちのことも最初から竜だと分かっていたようで、外の軍がまったく相手にならないのも知っているようだ。
そうなると、俺の頭上にはなんて書いてあるのだろう、気になるので聞いてみた。
「綾人様はですね、『世界に咲きし者』と出てますの。
意味は分からないんですが他にも出ていますね、まっさーじ?ですの?」
複数明記される場合もあるのか、それにしても最初の肩書きの意味ってなんだろうか、ヘラ様からしたら世界を救し者と表示されそうなものだが。
アドリアネも首を傾げている、何か他の心当たりでもあったのかな。
「さて、彼女たちは敵ではなさそうだと分かった所で、これからどうしましょうか。
招かざる客には帰ってもらわねばなりませんが、手荒な手段となるかは相手次第です。」
忘れかけていた本題に戻ってくる、のんびり食事をとっていたが村の外には軍が待ち構えていたのだった。
トーラさんの呼びかけで撤退してくれないだろうか。
「残念ながら教会内での地位は確かにありますが、それだけで動かせるほど万能ではないんですの。
特に王室が関わる派閥には効果が薄くなる傾向がありますの。」
同じ王国でも派閥があって、トップ同士なら話し合いで解決することも、直接下部組織に働きかけることは難しいと。
今回は師団長の独断で動いている、誤解とはいえ義憤に駆られる人間を易々と止めることはできないだろう。
「なら話は早いじゃろう、踏んだ尾が誰のものか知らせてやるべきじゃの。
彼奴等には竜の怖さというのを骨身に刻んでしんぜよう。」
結局そうなるのか、攻め込まれかけているから無理には止めれないな。
「そこで!私に策がありますの!」
お米一粒も残さず食べた茶碗を掲げ、トーラさんは大仰に作戦を説明する…。
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