第40話

 先日の騒動のお陰で延期につぐ延期、店のオープンが遅れていた。

 お客を招く準備は整っているが、ツバキが言うには村総出で来店するから、収拾がつかないことが予想される。

 村の中でも来店したことのある者と、ない者で格差が生まれるのも望ましくはない。

 ここで更に村の外にも情報が出回り始めたのもタイミングが悪い。

 ボタンとキキョウが村に帰って男に会ったと自慢してまわったらしい、また店の料理を大袈裟に褒めちぎったと。


 現在、ただの竜の溜まり場と化している紅葉屋。

 商売らしいことを何もしていないし、かといって生活が苦しい訳でもない。

 周りの人のご好意で食材は提供してもらってるし、ヘラ様が送ってくれている物資で悠々自適な生活をしている。

 ただ、俺が怠惰な生活を許せないのが問題だ。

 自慢にもならないが高校を中退してからというもの、働かなければ食い詰めるしかない生活を送ってきた身としては、現状がぬる過ぎる!

 ワーカーホリックな部分がありますね、とアドリアネは言うが。

 アドリアネはそもそもバカンスに来ているから目的は違うか、それでも大いに助けてもらっている。


「じゃから綾人殿は忙しいと言うておろうが、聞き分けのない奴らじゃのう。」


 すまないツバキ、そんなに忙しくはないのだ。

 てか他2人の竜は、自分の村を放っぽりだして遊んでいて良いのか?

 もう2、3日は竜宮館に泊まって、飯をたかりに来ているだけの存在となっている。

 モモに耳打ちすると、


「確かに2人とも今や穀潰しですね、蜂起している様子も他の村には見えませんし。

 人質の価値はないですね、帰らせましょう。」


 ポンと手を打ち2人の首根っこを掴んで席から立たせるモモ、小学生くらいの体型とはいえ片手ずつで持ち上げる腕力は常識離れしている。

 今や実力では敵わない2人だけれども、プライドが高そうなのもあってか抵抗している、しかし無情にもダメージは与えられていない。


「ちょっと待ってよ、まだツバキ姉さんが成竜になった秘密を教えてもらってない!」


「そうですよ!モモだって強くなっているんです、何か秘密があるでしょう。」


 店の柱にしがみ付いて最後の抵抗をみせる2人、店を壊す訳にはいかないのでモモもこれにはお手上げだ。

 

「ひ、秘密なんぞないぞ。

 姉としての威厳がそうさせたのかもしれぬがな…。」


 これは苦しい言い訳だ、現在は張れるほど胸が出てきているが、もともとのツルペタボディを知っていると目頭が熱くなる。

 すると、ぼんっと音がして懐かしのロリっ娘のツバキが、サイズの合ってない服に包まれ現れる。

 なぜじゃー!と絶望するツバキに、アドリアネが哀れなものを見るように目を細めて、


「借り物の力で本当に成長するものですか、せっかく健康になったんですから地道に精進しなさい。」


 バッサリ切り捨てるように告げる。

 すっかり師弟の関係になっているな。

 モモの方は体型に変化はないと思う、元々グラマラスな肢体だったから変化が分からん。

 落ち込み項垂れるツバキは、衣服が脱げてほとんど真っ裸だ、真っ白な褌一丁で畳に転がっている。

 まぁその、あれだ、また必要ならマッサージするから落ち込むなって。

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