第33話
格子の隙間からお膳を差し出すと、奪い取られるように引き摺り込まれる。
そんなにお腹が減っていたのか、何日も食べていないといった風に掻き入れていく。
食事抜きなんて、ツバキがそこまで無碍なことをしているとは思えないが。
モモという名の龍は、かつてのローズの部下の娘らしい。
ツバキの妹分で、世話係もやっていた時期がある。
しかしローズの死後、村の分断によりモモとツバキは離れ離れになり200年が経過した。
今回の謀反計画は知っているが、争い自体には興味がない。
村に侵入したのは、ツバキに現状を知らせることが目的だったようだ。
料理を食べ尽くし、皿まで舐め出したのでお膳を下げる。
下げられるお膳の足を掴んで駄々をこねる様子に、見た目と裏腹に精神的な幼さを感じる。
やたら図体はデカいのに、畳の上で仰向けになり泣いている。
動作は子供なのに、やたらグラマラスな肢体でやるもんだからアンバランスだ。
「分かったから、明日もご飯持ってくるから。」
そう言って、ようやく落ち着きを取り戻したモモに料理の感想を求める。
「村の外部からの感想って言っても、ウチは元々この村に居たから。
懐かしいって印象だったけど、男の手作りだからな、味わって食べる余裕なんてなかったよ。」
テスターを間違えたかもしれない。
モモの住んでいる村では、主に山の幸を食べているらしい。
海が少し遠い場所らしく、他の村との縄張り争いに負けて、独自の食文化に落ち着いたとのこと。
稲作もやっていて、この村に卸している米はモモの村で作った物だ。
「話を聞く限りでは、閉鎖的なコミュニティで各村は生活しているな。
村の外からは誰か来ないの?」
「村の外って言っても、そもそも隠れ里だしね。
運良く見つけられたとしても、竜の統治する領地に好き好んで入る馬鹿はいないよ。」
それだけ言われると、この世界での竜は恐怖のモチーフになるほど恐れられているのか。
俺の出会った龍の印象と違いすぎて、呑み込めない。
たまに王都やら教会から偉い人が接触を試みに来村するらしいが、ほとんど竜の巫女の一族が対応するらしい。
護衛も怯えて竜には会いたがらない。
「それなら、明日はもっと違う料理を持ってくるよ。」
目のキラキラと畳を打ち付ける尻尾が期待を表している。
「それにしても、なんで料理をくれるんだ?
ウチが提供できる情報なんて、もう全部言ったつもりだが?」
「別に見返りは求めてないよ、まだ本格的に店もやってないし。
味見係くらいに思っておいてよ。
美味しそうに食べてくれるなら、作りがいもあるしさ。
そんで店ができたら贔屓にしてくれれば嬉しいね。」
誰かに料理を褒められると嬉しいものだ、妹にも食べさせていて褒められていたが、身内評は別枠だ。
我ながら少しクサいセリフだったかな、モモは返事もなく見つめてくる。
そんな黙られるくらい変なこと言ったかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます