Capricious Cats ~みにちゅあっ! ショート~
鞘野
第1話 あなたではない?
学校の敷地内、主な校舎群から離れにあった倉庫を改造して作られた部室。
ここ、第二軽音部で私たちは練習をしていた。
ドラムセットを前にして座る私は、千代崎祐理菜、二年生。
メンバー中で一番小柄でありながら、最も大きい音を出すドラムというパートを選んでもうすぐ二年目。
小柄なりにそれっぽいものを目指そうとロングヘアをツインテールにまとめて、よく中学生……ごく稀には小学生に間違われそうな時まである。
元々備え付けのセットに自分のスネアドラムとキックペダルを持ち込んで、今も部活を楽しんでいる最中だ。
今はライブに向けての課題曲を、何度も、時々曲を変えながら全員が上手く合うように試行錯誤している。
何度か演奏を終えて、各自の改善ポイントや上手く合わせたい場所の話をしているうちにチャイムの音が聞こえてくる。
「あ……チャイム鳴っちゃった」
音を聞いた皆がそろそろ帰り支度かという雰囲気になった中で、私が呟いた。
すると、チャイムにすら異議を唱え始める子が現れる。
「え!? 何でですかっ! まだまだ弾き足りません!」
整った顔立ちに長身でスレンダー、ストレートロングという見た目はお嬢様。
しかし背後の青く光っているアンプヘッドで果てしなく目立っている。
普通より少し尖ったデザインのギター……モッキンバードを抱えているのは、桑名聡美ちゃん、一年生。
「前々から思ってたんですよ、何でチャイムって勝手に鳴らすのかしら!」
「時間で鳴るモンやしなぁ……校門閉められたら怒られるのはウチらや」
そろそろ理不尽な方向性になりつつあるのを宥める姿。
笑いながらアンプのボリュームを下げつつ片付けを始めたのは、我らが第二軽音部の部長、弥富恵ちゃん。
聡美ちゃんより少し背が高くてグラマラス、髪質もこちらはウェーブロングと対称的。
ただ、ふたりが並ぶと圧巻で、男子生徒にも引けを取らない威圧感すら感じてしまう。
持っているベースは赤色のリッケンバッカーという玄人向け?のモデルらしい。
私は詳しく知らないけど、ネットでの販売価格を見てたまげた。
「むしろ私たちから怒りに行きましょう!」
しぶしぶ片付け始めた聡美ちゃんも、ボルテージだけは維持している。
「あの鐘を鳴らしていいのは……アキ子だけよ!」
片付けを始めていた恵ちゃんが吹き出す。
スネアドラムをスタンドから外していた私もワンテンポ遅れて笑いに気付いた。
「あれ? 鳴らしてるのアキ子じゃなくない?」
冷静にツッコミを入れたのは、ミキサーに近付いてフェーダーを全てオフにしていたボーカルの子、若松美奈ちゃん。
身長は私より10cmほど高いぐらいで、ぱっちりした瞳とショートの髪でさっぱりした明るい感じ。
入学早々は気合を入れすぎていたのかギャルっぽい感じの見た目だったけれども、どうも『デビュー』とやらに失敗したのか諦めたのか、比較的おとなしい感じになっている。
「『あなた』って名指ししてるし……」
「わー! やめやめ! 冷静なツッコミ禁止!」
ボケ殺しを喰らった聡美ちゃんが途中で遮った。
どうやら聡美ちゃん、教室ではお嬢様然とした所作らしいのだけれども既にメッキは剥がれきっているらしく、周囲は珍獣を見つめる視線なのだとか。
皆がその光景を見て苦笑いしつつ、それぞれの楽器を片付けていた。
「……あ」
ふと何かに気付いて、膝丈ほどの高さのアンプをぺしぺしと叩き始めた子がいた。
見た目は明らかに日本人とは違う金髪碧眼の子。
ただし先入観にありそうなワイルド感は無く、むしろ所作はおっとりした感じだ。
彼女はシェリー・マイヤーズ、通称シェリーちゃん。
「電源スイッチ……切ってないのに切れちゃいました」
塗装が壊滅的に剥げたテレキャスターを持ちながらアンプの様子を伺っている。
御覧の通り、生まれはアメリカだけども、物心つく前から日本で過ごしているおかげで実質私たちと大差ない。
「さっきまで元気だったのに、ご機嫌ナナメなんですかね?」
……いや、むしろ普通以上にゆっくりしている気がする。
「見下ろせば昏い表示……消える赤い焔尾……」
突然謎の言葉を発し始めたのは、既に全て片付け終わってソフトケースを背負っているキーボード担当の子、塩浜佳苗ちゃん。
ロングポニーテールで紫のリボンと可愛らしい感じだが、表情の変化はあまり分からない。
私より少し背が高いぐらいなんだけども、縮尺を変えた恵ちゃんと同じぐらいのシルエットをしていて私と随分対照的。
セリフからして単純にアンプの電源ランプが消えただけの事だと分かるけど、分かりにくい。
「今の瞬間からすると、直せるかもしれませんね」
「ホントに!? 部活の備品だから助かるよ~」
さらっと直せることに言及すると、シェリーちゃんは安堵する。
「直らなかったら……」
「……直らなかったら?」
佳苗ちゃんは部屋の中から両手で外の方角を指差すと、相変わらず無表情でさらっと言い放つ。
「第一軽音部に突撃です」
「oh...バイオレンス」
何をしたいのか瞬時に理解したシェリーちゃんが思わず感想を述べたのだった。
――翌日、直るかどうかは別として部活の時間になると第一軽音部へ突撃していく我ら部員の姿が目撃される事となった。
何だかんだで仲良しなのは良い事だけど……修理どうするんだろ?
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