第14話 sink


#5

開戦当初、使用が噂されたB兵器群の名残りか此処ではマスクをするのが今でも通例となっている。複数の感染症蔓延で対人関係は間接的な接触が主だった。授業もHRもネットワークを介して為され、直接会うのは週に一度のHRになっていた。

戦争が終わり、感染症の爆発的感染も噂されなくなって、衛生体制は再び戦前の如く、軽微なものへと移行を要求されていた。

今日はその、週に一度のHRだった。

出席率は70%程度。予測通りと言えば予測どうりだった。

朝一で一時間弱のHRの後、自由時間とし、生徒間の学校における親睦を図る時間とした。他必要に応じて、生活、進路の個別相談にも応じた。


「一攫千金狙いか。」

希望進路未定の生徒の進路相談。面談は面談の為の専用個室で行われた。おとなしい面談になってはいるが、真剣に面談になっている感を受けない。ぶつかりが足りない気がした。

「終わりの見えた生活、したくなくて」

卒業して、就職して、結婚して、子供ができて……、定型的な進路を予測しているらしいが。

「先の見えない生活も困るものだぞ」

そんな定型的進路を無事にこなすのは、それだけでも一苦労だと言う事には、あまり目が行って居ないらしい。

凡人の目に見えるのは「今」だけ。後は先の見えない未来を想定するだけなのだから、一寸先は闇だった。

「モラトリアムで大学にも行きたいんですが」

卒業・就職、を延期して判断を引き延ばすというのは昔からある手法。社会の何処に嵌まるのか、それを決めきれず、「自分探しの旅」に出る者もいるにはいた。

「授業料か」

裕福なら親下でモラトリアムを選択するのもよくある話なのだろうが、在学には資金が必要で、それをどうするかは大きな課題だった。

「先生は何故生きてるんですか?」

「?」

「生きれる理由を教えてください」

「使命と役割があるから、生かされてる」

「生かされてる、ですか」

「独りではないのでね」

「人は人間でなければ生きてはならないですか?」

「――やはり進学が相応しいのかな?」

割り当てられた十分の面談時間が過ぎ生徒は退出した。

「次」



#6

「どうだった本法さん」

教室の戸を出てすぐの廊下で男子生徒と話し込んでいた。

「頼んでみたけど」

片腕を壁にドン突きの体制が嫌で正面から少し移動する。

「お支払い?」

「十万単位だけど大丈夫?」

高校生が支出するにはかなりな高額でも自信ありげに男子は言った。

「当ては有るから」



#7

「資料、送って置きましたから」

そう言って内線は切れた。

デスクトップに電子メイルが届いていた。添付ファイルに写真を含むプロファイル、失踪に至る経緯等が記載されていた。ファイルをメモリと同期してデスクトップのメールを削除する。一部だけプリントアウトし、三つ折りにして封筒に入れた。コートの胸ポケットにしまう。

「沈む前にどうにかしないと」

先ずは資料検索から。



中央指揮所へ向かうことにした。

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