第9話 釣り餌



人も疎らな夜の歩道。

照明のカクテルライトが街を演出している。

午後九時で閉店のファーストフードを後にする。


「いつから働けますか?」

面接担当者の手短な面接は、既に判っているであろう事を口頭で確認する再質問で、最後になった新たな質問が、何時から働けますか、だった。

「必要なら今から働けます」

急な要求にどう対応するかが知りたいののだろうと判断し、積極的に回答してみた。実際今日今から働いても、スケジュール的には問題は何もなかった。

「……今日は面接だけで大丈夫ですから」



午後三時の繁華街。

面接を終えて探偵事務所から出る。

既に傾いた日が儚げな薄赤い日で街を照らしていた。

名探偵は特に居ないから、と言われた。

フィクションじゃないですしね、と笑った。


「採用なら連絡。」

面接担当者の言葉を繰り返してみる。

同じ展開で、既に六件不採用になっていた。


「如何しても、人前に出る?」

医者は渋い反応だった。

「ええ」

控えめに、しかしハッキリと意思表示した。

「あまり、詮索しない方がいいんだけどね」

はっきりと否定しつつ、強制はしなかった。

此処の診察室はあまり消毒液の匂いがしない。

続けて医者は言う。

「好奇心猫をも殺すっていうでしょ。」

説得はあまり得意じゃないらしい。

「欠落が嫌なんです。」

「埋まるとは限らないよ。傷つくだけで」


冬のせいで昼間が短い。

街中を歩いていたら、もう夕暮れ、黄昏時だった。

面接も終わったし、帰るのが順当だろうけど。

中央までで出てきたら、徘徊して帰るのが通例だった。


マナーモードにし忘れた携帯が大きな音で着信を告げる。

上空をUNの監視機が通り過ぎていく。

「――もしもし?――」



「当社では、採用を見合わせてもらいますが――」

代わりに就労条件の合う探偵事務所を紹介しましょう、という話だった。指定の住所地に向かった。



「諭明さん、一寸いいですか?」

下の電話応対事務所からTV電話がかかる。

42型テレビにミラーキャストされた則香。

則香は何か言いにくそうにしていた。

「仕事入った?」

「いいえ、残念ながらーーではなくて」

「何?」

「頼みごとがあるんですが」

給料の前借は基本的に応じていなかった。

「可能なら応じるけど」

ウェブカメの映りは悪くないが、音声のS/N比が今一つ。

感度の加減で室内音と外の車両の音が入りすぎだった。

「友達を一人、スタッフに加えたいんですが」

「年齢と性別を教えてもらえるかな」



夜の繁華街。

と言っても、繁盛しているのは僅かな店で最近は何処の店も二十四時を超えて営業していない。占領前は不夜城だった、と言う年配の人もいる。が、高校生には解り難い夜の繁華街事情だった。解るのは、コール系の人が結構居るぐらい、だった。

若干肌寒い。


”仕事が上がるのが二十二時過ぎだから”

と受付に言われて時間までFast Foodに居ることにした。

窓際に座っていたら隣に座った男に凝視された。


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