第4話 口裏


# 9

銀行は堅いというが。

聞き込みに行ったからと言って情報が必ず入るものでも無い。警察が調査した情報の内容を確認するに留まった。振込が確かにこの銀行から行われ、被害者との交渉を担当していた女の元へ送金された事だけが確認された。この送金者の名が偽名で戸籍及び住民票に同名の該当者が居ないことも既に調査済みだった。

銀行の映像記録も残っていたが、如何にも怪しそうな男女の別すら区別し難い中性的な体格の、誰か、が映っているだけだった。この人物の五分圏内の移動は確認されていたが五分以降の足取りは掴めなかった。

事件前二か月程度時間を遡及しなければならず、証言を集めるのは難しかった。


「"follow the money"か」

これ以上調査するには更に経費が掛かりそう。依頼人の許可がいるし、きっと暗中模索になるだろう。

銀行にはATM操作時に顔認証登録を進言しておいた。其れは復別の話。



# 10

「如何でした?」

「この方法で実際に商売してるみたいです」

偽装を疑って、一階の事務所で電話番をしてもらっている則香さんにサイトの検証を行ってもらった。

依頼は書き込みで。開始は入金を以て。伝達は書き込みのみ。結果は結果を以て。最近では珍しくない全ネット上対応。オペレーターも結局出てこない。情報的な秘密厳守は売り物になるかもしれない。しかし、初めから危うい業者の印象はぬぐえない。

付きまといの退治を依頼したら、さっそく電話がかかって来た。

諭された挙句、会って誓約書を書かされそうになった。

会うのを拒絶し、直ちに電話を解約した。電話は当社持ちの番号をプリフィックスで使い、ボイスチェンジャーで声を偽ったので、足は付かないはずだった。

見積もりと実行経費でかなりの額をとられた。当方の経費でおとせるかは疑問だった。

見積もった額が振り込まれ次第、依頼実行と言う業務形態。案外実際そういう企業として黒字なのかもしれない。何れにせよ危険絡みな企業には違いなかった。


「それでは、お先に」

則香さんの前一月分の情報偽装と後一月分の行動にも偽装情報を作って置いた。偽装情報に引っかかるようなら、此方もそれなりの対応が必要、と言う事になる。手荒い話になるのは業務上とは言えあまり好ましくなかった。

「御苦労様。」

則香さんが電話を切る。

十七時。今日の勤務はこれで終わりだった。

「次は男、か」



霧雨が降っている。梅雨でもないのによく降る雨だった。

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