第41話 この子と一緒に
模造紙を広げて、型紙を作る。
ぬいぐるみの厚みをどうするのか、古墳の後円部分のカーブをどうするか、前方部分の、裾の広がり方をどうするか。 古墳の写真や見取り図のようなものを参考に、なるべくそれに近いイメージで、作りたい。
「いや、そこまでこだわらんでも」
想子さんは、僕の計画にあっさり水を差す。
「せっかく作るんやったら、誰が見ても、『おお』ていう再現率にしたい」
「ん~。再現率、まあまあでええから。……抱っこしやすくて可愛かったらええねん」
「なるほど」
「でな、顔は、私につけさせて」
「もちろん」
僕の計画は、せっかく作るなら、顔もつけて、可愛い古墳のキャラクターぬいぐるみにしてしまおう、というものだ。 でも、形はそこそこしっかり、古墳らしさを追求しようと思っていたのだけれど。
想子さんの意見を取り入れて、リアル古墳の追求を半分変更して、『抱っこしやすさ&可愛い』を目指すことにする。
明るい若草色の布に、型紙をのせ、パーツを切り出す。 柔らかくてさらっとした手触りの布は、肌になじみ、気持ちいい。伸縮性もある。いい感じだ。色もいい。目にも良さそうだし、見ていると、気持ちが明るくなりそうな、爽やかな緑だ。
僕は、パーツをすべて切り終え、キッチンのテーブルに、ミシンを運んできてセットし、早速、縫い始める。
お店で見たときは、ベストチョイスだと思った布だけど、思っていたよりちょっと縫いにくい。
そばで、想子さんが、じ~っと僕の手元を見つめているせいもある。
……じ~っと。
(いや、めっちゃ、やりにくいねんけど)
「……できたら、呼ぶからさ」
「え、でも、気になる」
「おしごと、締め切り近いんでしょ」
「う」
「できたら、呼ぶから。そしたら、顔、つけてよ」
「……わかった」
しぶしぶ、という感じで、想子さんが、自分の部屋に戻っていく。
やっと、想子さんの視線から解放されて、僕は、作業を再開する。音楽をかけながら、楽しく縫おうと思ったけれど、気がつくと、音楽が耳に入らないくらい、集中して縫っていた。
集中すると、縫いにくいと思った布にも、だんだん慣れてきて、次第に形ができあがってくる。
ほんとは、一針一針手縫いのほうが、想いがこもるのかもしれない。でも、受験生の僕には、あまり時間はない。そこは、ミシンの力を借りて、なんとか、1個目が完成。さっそく、2個目に取りかかる。2個目は、1個目より、うまく縫えた。こっちを想子さんにあげよう。
縫い上がった古墳に、クッション用のビーズを、詰め込む。 口を縫って閉じる。
できあがりだ。そっと抱きかかえてみる。ふわふわと気持ちいい。
(想子さん……)
胸と目にこみ上げるものがある。 あかんあかん……。
僕は、急いで階段下に行き、2階に向かって呼びかける。
「想子さん、できたで~。 あと、これに顔つけて」
たちまち駆け下りてきた彼女が、
「わ、すごい。 ちゃんと古墳や! 顔はまかせて!」
そう言うと、嬉しそうに、フェルトの布を、目や口の形に切り抜いて、工作用ボンドで、前方後円墳の円形部分の真ん中に、貼り付ける。嬉しそうな笑顔ができあがっていく。
「想子さん。ちゃんと仕事してたん?」
「……してたよ。構想練ってた」
「……ふ~ん」
どうやら、仕事はせずに、僕の声がかかるのを待ってたらしい気配が濃厚だ。
そんなことなら、そばにいてもらえばよかったか。
「はい。つけたよ。可愛いなあ」
想子さんは、自分でつけた顔に満足そうだ。
彼女のつけた目や口を、僕は、取れないように、 チクチク縫い付ける。
完成した古墳のぬいぐるみは、2人とも、とても可愛らしい笑顔だ。
僕ら2人にそっくりだ。
「はい。 こっちは、ダイが持っててね」
想子さんは、自分に似た子を僕に渡し、自分は、くっきり眉の僕に似た子を嬉しそうに抱きしめる。自分が抱きしめられたみたいに、僕の胸はキュンとなる。
そして、ひとの気も知らないで、想子さんは笑って言った。
「イギリス、この子と一緒に行くよ」
彼女の腕の中のその子を見ながら、心の中で僕はつぶやく。
(……本物、連れてってや)
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