神の社会も甘くない‼

ナイム

新神研修!編

第1話 神界研修

『※※※※※?』



 誰かの声が聞こえる気がする。しかし目が開けられない。

 いや、それ以前に自分が立っているのか、座っているのか、横になっているのかと言う事すら。今の俺には分からなかった。


『あ※※き※※※すか?』


 よく分からない感覚に戸惑いながらもどうしようかと悩んでいると、再度なにか声が聞こえて来た。その声も先ほどに比べれば言葉と認識できて、同時に何と言えば良いのか……体が馴染み始めたような感じがしてきたのだ。


 その感覚に従うように意識すると意識と体が急速に馴染んで行くのを感じる。


「あの、聞こえていますか?」


「え?」


 ようやく視界が開けたような感覚がすると目の前で、この世の物とは思えない美女が話しかけてきていた。


 その女性は綺麗なプラチナブロンドの髪を肩口に流すようにたらし、肌も白く美しくスタイルも出るところは出て、引くとは引いた完璧に整っていた。服装は何かの制服だろうか、基本は白だが襟や袖には金の装飾の施された豪華な物だった。ただそれ以上に目の前の女性からは何とも言えない不思議なオーラと言えるものを感じた。


 ついでに周囲も見回してみたが特に何もない空間が広がっていた。 


「…本当に大丈夫ですか?声聞こえてますよね」


「あ、すみません。ちゃんと聞こえています」


 俺が周囲の確認していたら反応が遅れて、女性から確認されてしまって慌てて答える。

 すると女性は表情には変化はなかったが何故か安心していると理解することができた。


「それなら良かったです。早速ですが、現状をどの程度認識できていますか?」


「現状ですか?」


「はい」


 あまりにも真剣な様子で話す目の前の女性に俺は困惑したが、次第に意識が覚醒して行くような感覚に襲われる。そうだ、問題としてここは何処だ?いやそもそもとして俺は誰だ?生活していた場所の街並みや、一般常識のような知識は思い出せるのだが俺に関する一切が思い出せなかった。そして一度不安や疑問は浮かぶと止めどなく湧き出て俺の頭の中は混乱だけに支配されていた。


 パンッ‼と何かが破裂したような音で強制的に俺の意識は引き戻される。


「っ⁉」


「今の反応だけで理解できました。記憶のほとんどが抜け落ちている、と言ったところでしょう」


「…どうして、わかったんだ?」


 ただ俺が混乱しているだけなのに俺の状況が分かったんだ。混乱していた俺は思った事をそのまま口に出していた。


 そんな無意識の質問にも目の前の女性は、ただ冷静に真剣な表情で答え始める。


「前例がないわけではありませんので、まぁよくある事です。それに悠長に気にしている余裕も、今のあなたにはないと思いますので…」


「それはどういう…?」


 最後を不自然に濁すような言い回しの女性に俺は首を傾げる。それを合図にしたかのように、今の状況に関する情報が頭に溢れ出す。


 その情報はあまりにも膨大で女性の言う通り他の事を考える余裕など欠片もなかった。


 どれほどの時間が経ったのかわからないが、ようやく溢れ出す情報を整理する事ができた俺は思わず息を吐き出す。


「ふぅ……頭が破裂するかと思った」


「終わったようですね」


「はい、つまり俺は元の世界で死んだのですね?」


 俺が状況を理解できたと判断した目の前の女性。これから俺の先輩になるだろう方が話しかけてきたので、いま理解できている限りでの考えを確認した。

 それを聞くと満足そうに小さく頷いて答えてくれる。


「そうです。詳しい死因は過労、人助けのために毎日走り回っていたようですね」


「みたいですね。自分の事の記憶はほとんど戻ってないので、なんとも実感がわかないですけど」


 死因などを言われても自分の記憶などないので思わず卑屈になってしまう。

 しかし目の前の女性はそんな俺にも、ただ冷静に事実だけを真面目に話す。


「それも仕方ないでしょう。死んだ人間はショックから記憶に欠損があるのは珍しくありませんから」


「分かっていても。やっぱりショックなのは変わらないですよ」


「そう言うものですか。ならそう言う事だと納得しておきましょう。それよりも本題に入っても大丈夫ですか?」


「はい、すでに時間を掛けてしまってますから。すでにある程度は知っていますけど、ちゃんと聞いておきたいです」


「では、改めて言わせていただきましょう」


 話が纏まるとそう言った女性は一拍開けて、そして次の瞬間には真剣な表情でゆっくりと口を開く。


「ようこそ神界へ、新たな神の誕生に私達は歓迎しましょう。しかも貴方は数百年ぶりに現れた、人間から神へと至る事の出来た稀有な魂!貴方の新たな神生に私達は全力で支援する事を約束します‼」


「こちらこそ、これからよろしくお願いします!」


「「……」」


 もの凄く神々しい感じの歓迎の挨拶に俺も反射的に笑顔で返してしまった。だが終わってみるとこう…場の空気に流されたと言うか、そのため俺も女性も何とも言えない空気で気まずくなってしまう。


 しかし時間が経つと逆になんだか面白くなってきて思わず、笑い出してしまう。


「はははっ!すみません。ちょっと、こんな空気慣れてないので、つい‼」


「っふふふ、別に謝らなくて大丈夫ですよ。それよりもまだ自己紹介していませんでしたね。私は貴方の案内兼教育係の『アルアリス』、これからしばらくよろしくね?」


「はい!俺は名前も忘れてるので自己紹介はできませんけど、元人間でこれから神になる。現在神見習いの名無しです。よろしくお願いします‼」


 これからお世話になるアルアリスさんの自己紹介に、お返しとして俺も名前は覚えてないが精一杯に元気に自己紹介をした。


 それと一緒に笑顔でお互いに握手を交わす。でも今更ながらに俺の自己紹介は変で思わず笑ってしまい、それに釣られるようにアルアリスさんまでが笑い出してしまった。


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