第19話 王子様にとどめをくれてやります、でも……
季節が一つ過ぎて裁判が終わり、私とストレチア王子は教会の法務官と大陸連盟の紛争調停官立ち合いのもとに対面していた。
もちろん戦争の後始末のためである。
「キャノーラ地方は未来永劫ガルデニアの領土である。今回の賠償として三千万ハルクを支払う」
など、調停官が文書を読み上げ、サインをすれば終了の簡単なお仕事だ。
陛下の名代の私は上機嫌で、ストレチア王子は不貞腐れて調停書にサインをする。
「ここからはグロリオーサ帝国第一王子ストレチア殿下へ、勝者の権利を有するガルデニア王国マイクランサム将軍からの要求となります。なおマイクランサム将軍はグリムヒルド王妃殿下へすべての権利を譲渡する旨の委任状を出されていますので、実質的にはグリムヒルド王妃殿下からの申請となっておりますのでご了承を」
「何だと!?」
「静粛に」
形骸化されているが、捕らえた者は捕虜に対し生殺与奪の権利を有する。
言わば好きに刑罰を決められるのだ。ただし教会と大陸連盟が認めればだから、無茶な要求をすればこちらが非難に晒されるけれど。
「ユーフォルビア妃殿下を正妃として重んじ、離婚、また第二妃、愛妾を迎えることを禁ず。執行猶予は四年とし、執行猶予内に不貞行為、並びに妃殿下への肉体的精神的問わずの虐待、いじめ等の苦痛を与える行為があった場合は王侯貴族としての身分をはく奪、身分を平民に落とすものとする」
「有り得ない!」
粗野な王子は立ち上がってテーブルを叩いた。お顔が真っ赤でちゅよ。
愛妾側室の禁止は永遠にとなると内政干渉だが、ストレチア王子はまだ若い。四年後でも十分子供は作れるとみなされて認められたのだ。
「ふざけるな! あのバカ王女を正妃として重んじろだと!? あんなものの分かってないガキに公務をやらせてみろ、滅茶苦茶になるぞ!」
言いたいことはよく分かる。
今回のことで王太子は非常に微妙な立場となった。
王太子には同腹の弟がいる。まだ五歳にもならないから時期国王がストレチア王子なのはほぼ確定だったが、今度のことで野心を抱いた者がある。
ストレチア王子を廃して幼い弟君を王位につけ、摂政として政治を意のままにしようとする勢力は、既に宮廷内で動き始めている。
正妃が無能であれば、それもまた地位を追われるポイントとなり得る。
それが分からない王子ではないから、本気で焦っている。
時期国王となる以外の教育は受けていないのだ。頭上に王冠がない未来など想像もできないだろう。
「わたくしの娘を侮辱するつもりですか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……事実だろう?」
机を叩いたりの恫喝めいた行為はしないものの、今の私は娘を馬鹿にされ本気で怒っている母親。迫力は相当のものだったんだろう、血気盛んな王子が一瞬で口を慎んだ。
「攫うほど熱烈に、妃にと望んだのはあなたではありませんか。あなたが投獄されて動けない間に略奪婚無効の申し立てを通してしまっても良かったのですよ。でもあの子があなたといたいと言うから、陛下もわたくしも許したのです」
そのときに有能な家庭教師と護衛を殺されたのを私はちゃんと覚えていますからね。
「お前……っ! この機に乗じてあのバカ王女を厄介払いするつもりだな!? 継子はやっぱり邪魔なんだろ!」
ユーフォルビア姫が馬鹿ならあんたはクズじゃないの。
「継子と言えどあの子はわたくしたちの一人娘です。自分が少女時代に受けたような屈辱は絶対に味わわせたくありません。あなたがわたくしにどんな卑劣なことをしたのかは、全部言って聞かせました。それでもあの子はあなたがいいと! そういう兆候があればすぐに手紙を書きなさい、帰ってらっしゃいとも言ってあるのですよ!」
王子の顔色が赤から青へと変わった。
盤石と思っていた王太子の地位は揺らぎ始め、あの甘ったれた小娘がへそを曲げて母親に泣きつくだけで庶民落ちという破滅が待っている。
力が抜けたのかストレチア王子は椅子に沈み込んだ。
「ははっ……まんまとお荷物を押しつけられたってわけだ……政治も社会情勢も知ろうとしない、アイスクリームの味の区別ぐらいしか分からない小娘を正妃として尊重……? お前正気か! 浪費家のバカ王妃に好き勝手させてグロリオーサの国力を削ぐ腹か! ……陰険な仕返しをする」
「馬鹿だ馬鹿だと、相変わらず人が傷つく言葉を軽率に使うのですね。そうね、そろそろあなたは知るべきです。人の尊厳を踏みにじるのがどれだけ罪深いかを、どれだけ深く恨まれるかを」
「く……魔女め!」
「魔女は味方につけておいた方が得だとは思わなくて?」
「なん……だと?」
「あなたがユーフォルビア姫を大事にしてくれる限り、
----------------
読んでくれてありがとうございました!
諸般の事情により明日の更新ばお休みするとです。
良かってん♥や★ばつけてくださると励みばなります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます