第16話 すべてを取り上げられた白雪姫はプリンセス・ヴィランとなる

グロリオーサ城は盛大な愁嘆場と化していた。


「嘘よ、嘘、嘘! どうしてあたしの王子様が負けるの!? 捕虜なんて酷い!」



理のない戦争と止めたにも関わらず出撃し、まさかの敗北を喫した長男に対し国王の対応は冷ややかで、すべてを特別法廷と教会に委ねる構えだ。


「ちょっと国境を越えただけじゃない! どうして罪になるの!?」


顔色を失くし頼みの綱の王太子妃に縋って押しかけてきた王太子派の諸侯は、ここで初めてユーフォルビア姫の知性の程度を目の当たりにし全員が愕然とした。


初めはストレチアを擁護していた貴族たちも、これで即座に王子を切り捨てた。


部屋に取り残されたユーフォルビアはベッドに突っ伏して泣き暮らす。


お気に入りのドレスや宝石、ぬいぐるみの類は届けさせたが馴染みの侍女は義母の息がかかっているからと全員返してしまっていた。

周囲には「こういう姫だから」という特殊な事情を知って適切な対応をしてくれる人間は誰一人いない。


初めは良かった。


第一王子が、まだ誰にも見出されていなかったとびきり美しい王女を連れて帰ってきた。


グロリオーサの国民は熱狂し、新雪のような初々しい姫君を身分の上下を問わず白雪姫と呼んで褒め称えた。


しかし優れているのは容姿だけで、最低限の教養も身につけていないとバレるや周囲の態度は冷たくなり、召使いたちも見下してほとんど口もきかず適当に仕事をするだけとなった。


「あなたを独り占めにしたいのだ。誰にも見せたくない。あなたにも私だけを見ていてほしい」


甘くかき口説いてほぼ軟禁状態に置いていたのは、愚かな王女と露見するのを防ぐためだった。


野心のためにアメを与えてくれる王子と取り巻きがいない今、利用価値も血縁もない無能な王太子妃は誰にも顧みられない。

むしろ王子亡き後これを押しつけられてはたまったものではないと遠ざけられ、本当の一人ぼっちだった。

手駒にするならあまり賢くない方がいいが、我儘放題で言っていいことと悪いことの区別もつかないレベルの娘ではいくら美しくともリスクが高すぎたのだ。


「お義母様のせいよ……どこまであたしに嫌がらせすれば気が済むの!? あたしの大事なもの、みんなみんな取り上げて楽しいの!? 酷い! 酷いわ!」


ひねくれる暇もないほどちやほやに満たされた生活だった彼女に初めて心の隙間ができ、激しい憎悪が芽生えた。


「お義母様……いいえ、あいつのせいよ。……ママ、許して。ルビアはあいつだけは許せない。あいつが生きてる限り、あたしは幸せになれない」



----------------

読んでくれてありがとうございました!


溺愛系でしばしばある、「ヒロインを愛するあまりどこにも出さない」を悪者がやるとこうなるとです。


良かってん♥や★ばつけてくださると励みばなります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る