第198話 嗚呼女神様?

 車庫ダンジョンの7階層鉱山フロアの中にある、鉱山博物館の中。



 そこには、『これもプレゼントなのよ! 有効に使うのよ! (時空の女神より愛をこめて)』というなぜかイラっと来るメッセージカードと共に、ヒヒイロカネで作られたと思われる日本刀と、手甲に爪が取り付けられた武器が鎮座していた。



「先輩! 刀ですよ! カタナぁ! ヒヒイロカネって確か日本の金属ですよね! そんな素材で打たれた刀ですよ! ああ かたなぁ!」


「真奈美、落ち着け。刃物の前で興奮してはいけない。」



 前回、自前の刀を折られてしまったのを気にかけていたのだろう。


 日本由来のファンタジー金属で造られた『刀』が手に入るという事でマナミサンのテンションは天元突破してしまったようだ。



「ご主人! ツメにゃ! 爪の武器にゃ! これさえつければ、美剣は爪のヒビや割れをケアしなくてもよくなるにゃ! ねいりすとにも塗ってもらえるにゃ!」


 美剣はなんか別の方向で興奮しているようだが、気持ちはわからんでもない。


 なんせ、今まで自前の爪(よく伸びる)で戦っていたからな。グールとか臭い敵相手に直接触れることになるから相手を選んでいたが、これで心置きなく敵でもやっつけられるな。



「先輩! この刀には銘が入っています! 『備前長田船(緋緋色金ヒヒイロカネ)』って書いてます!」


 備前長船のパクリかな?



「ご主人! このツメにも『妖猫の爪(緋緋色金ヒヒイロカネ)』って書いてあるのにゃ! 美剣は妖猫にゃ!」


 こっちはこっちで妖猫ってなんだろう。


 まあ、半人半猫だから妖猫というのは言い得て妙というところか。




 ところで。


 ところで。




 二人には専用武器がプレゼントされたのだが、オレの分はないんだろうか……。




◇ ◇ ◇ ◇




 その後、さっそく試し切りをしたいというお二人(一人+一匹)のご意向でミノタウロスさんやコカトリスさんらが多大な犠牲を強いられることとなり車庫ダンジョン8階層以降の探索は見送られることとなる。


 そして数日後。



「先輩! リベンジ行きましょう!」


「にゃー、美剣の爪が夜な夜なエイリアンを切り刻めと語り掛けてくるのにゃ」



 と、お二人は鷹爪ストーンダンジョンの再攻略に心がはやっておられるようだ。


 ところで美剣、お前の武器呪われてないよな?



 オレ達パーティーがファンタジー金属武器を手に入れた(佳樹を除く)この時期、世界にはとある変化があったらしい。


 『らしい』という言い方をするわけは、どうもこの変化には一部の者しか気づいていないようだからである。


 その変化というのはこうだ。


 たしか、ちょっと前まではダンジョンの発生とかの原因などは不明であるとされ、とあるフィーアシュタインという博士が唱えた、次元震と共に他の世界とつながったのではとされる推論があるのみであった。


 だが、オレ達が武器を手に入れて車庫ダンジョンから地上に戻ってみると、それらの『次元震』をはじめとする一連の出来事は高次の存在たる『時空の女神』によるもので、その目的は負の感情から生み出される闇の因子をダンジョンなどで収集して効率よく祓うためなのだという事になっていた。


 そう、『世界の常識』が改変されていたのだ。



 明らかに以前と異なる世間の風潮や報道を目にして驚いたオレたちは、ネットでここ数年の情報を集めてみた。


 

 それによると、『闇の因子』とやらが世界に蔓延すると魔王が生まれたりハルマゲドンが起こったりするらしく、世界各地で起きている戦争や紛争、重大犯罪や軽微な犯罪などもそれらが引き起こしているとのこと。


 それを阻止するために、約2年半ほど前の『夜明けの日』と呼ばれる日に日本の警察無線をはじめとする各官公庁の通信システムに『時空の女神』が降臨し、闇にとらわれた人間からの闇の祓い方やら、闇の因子のことやらそれがもたらす危険性やら、さらには世界各地で発生しているダンジョンはその闇を払うための『装置』の一環であることなどが世に明かされたとなっている。


 まあ、世界の常識が改変される前の状況を知っているオレ達からすれば、「ああ、そういうふうになったのね」という認識だ。


 それと合わせ、「あの時空の女神って、ウザくてイラっと来るけどちゃんと仕事しているんだな」という感想。


 まあ、オレ達のパーティーにすんげえ武器を用意してくれたり(佳樹を除く)と面倒見はいいのだろう。


 ただ、ネットのどこを見ても、『女神さまから武器を授かった』なんて書き込みが無いのでもしかしたらオレ達だけなのかもしれないのかなと思っていた。


 そして、その予想が正解であったことの知らせは突然もたらされる。



 マナミサンと美剣がいてもたってもいられず、件の鷹爪ストーンダンジョンの5階ボスに再挑戦。


 隊長ズ(自衛隊)に話を持ち掛けると、自衛隊は前回で弾薬をほぼ使い切り補給が追い付いていないとのことでオレ達のみで攻略を開始。


 マナミサンの刀と美剣の爪が5階層のボスエイリアンを一瞬でなます切りにした後に、突然軽トラのカーラジオから音声が流れ出す。


「よくやったわ! さすがはわたしがチカラを与えた軽トラに連なる者たちね! そのままそこの15階層のボスまで倒しちゃってね! それで、はずだから、そのあとは自宅で連絡を待っててね!」


 その声は、テレビやネットでさんざん聞いたことのある『時空の女神様』のお告げであった。 


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