第188話 お正月SS、軽トラたちのお正月。

「わーい、お正月にゃ」


「一年振りですね!」



 今年もお正月がやってきた。


 去年のお正月はたしか、鏡餅の格好になったスライムを倒しておせち料理の具材やらお年玉とかをゲットしたんだっけな。


 え? 作品中の時系列がおかしい?


 大丈夫だ。


 なんたって、ダンジョンには不思議が詰まっているのだから。



「と、いうことで今年はどうする? またいろいろお正月用の食品とかゲットしに行くか?」


「そうですね、去年の黒豆とかはおいしかったですからね。」


「にゃー! どうせなら、ひつじさんの所に行くのにゃ!」



◇ ◇ ◇ ◇


 と、いうことで。


 やってきました3階層。


 なんと、ひつじさん達はしっかりと着物で正装していた。


 え? その着物も羊毛で作ったの?


 ひつじさんはすごいなあ。



 そして、ひつじさん達はわざわざオレたちに挨拶するために正装してくれていたんだって。


 ひつじさんは礼儀正しいなあ。


 あ、オレたちの着物も作ってくれたの?


 すごいうれしい。


 ひつじさんはやさしいなあ。




 オレたちが着物に着替えると、ひつじさんたちは餅つきの準備をしてくれていた。


 え? オレが突くの? わかりました!



  

   ぺったんぺったん。



 オレが杵を持ち、美剣みけとマナミサンがあいどりを行う。


 見る見るうちにおいしそうなお餅が出来ていく。



 この杵と臼。


 やっぱりひつじさんの手作りなんだって。


 風魔法で木を切って、土魔法との合わせ技で削ったりしたんだって。



 あと、もち米も。


 この3階層の田んぼで作られたんだって。



 そしてさらに。


 出てきました、お正月と言えばお屠蘇とそ


 おとそとは、お正月に飲むお酒だ。


 なんと、ひつじさんたちはお酒まで造ってしまったようだ。



 こんなかんじで、


 ひつじさんたちが作ってくれたおせち料理をご馳走になった後は、


 真奈美と美剣の超ハイスピードの羽根つきを見て目を回したり、

 

 ダンジョン全体を使った壮大な双六をして遊びました。


◇ ◇ ◇ ◇


 ひつじさんたちとたくさん遊んだ後は。


 地上に戻って地元神社で初詣だ。


 もちろん、ひつじさんに作ってもらった着物を着て参拝だ。



 軽トラで神社の駐車場に乗り込むことで、美剣もめでたく人型のままお参りできた。


 そうか、美剣が人型で初詣に来るのは初めてなのか。



 今年も、近所のおばちゃんたちに若い嫁さんと早く結婚しなさいよとからかわれ。


 真奈美の妹という設定にしてある美剣のことを聞かれたり。


 賽銭箱に投げられて跳ね返る硬貨に猫の本能で美剣がじゃれて飛びついていったりなど。


 そして、3人(二人と一匹)で今年の無事と息災をお祈りした。





  「今年もよろしくお願いなのにゃ!」





――――――――――


 

 今日はお正月。


 世間一般の人たちはお仕事がお休みで、家族だんらんを過ごしていることだろう。


 だが、オレたちはそうはいかない。


 なんせ、オレたちは警察官なのだ。


 と、いうことで、今日も地元神社で雑踏警備のお仕事だ。






「はーい、押さないでくださ~い。ゆっくり、押さないで、前に進んで下さ~い」


 緒方巡査がメガホンマイクで参道を歩く人の誘導をしている。


 田舎の神社とはいえ結構な人出だ。



 昨年までは世界的な感染症の影響で外出もろくにできなかったことへの反動というのもあるんだろう。



「晴兄ちゃん?」


「どうした? ルン?」



「なんでみんな、あの箱に向かってお金を捨てているの?」


「ああ、あれはお賽銭と言って、神様にお願いをする対価としてだったり、お礼だったりの気持ちがこもっているんだよ」



「そうなんだ。投げ銭ってやつだね!」


「いや、それとは根本的に違う」


 うーん、日本文化が渋滞しているな。



「あ! 晴兄ちゃん! あそこの人から悪いこと考えている『気』が感じられるよ!」


 ルンが指さす方を見ると、たしかに怪しげな風体の男が、前を歩く人の後ろポケットに入っている財布に手をかけたところだった。


「よし、現行犯の場面を現認した! 確保だ!」



◇ ◇ ◇ ◇


「犯人さん! 大変です! 今すぐ反省してください!」


「ルン? どうした?」



「うん、ここ、神社だっけ? この場所って、なんか不思議なチカラを持っているの。で、そんなところで悪い気を持った人が悪いことをすると、良いチカラを与えてくれる存在の人に完全にそっぽ向かれちゃうみたいなの!」


「へえ、そんなことがあるのか」



「そうなんだよ! 今すぐ反省しないと、これからの人生、運とかツキとかまったくなくなっちゃうんだからね!」


 ルンのその言葉を聞いた犯人は、それはもう心を入れ替えるように反省した。


 なんでも、今の不況下で生活するお金にも困っていたらしい。


 それなのに運やらツキやらまで失ったらたまったものではないと思い直したらしい。


「全国のみんな! だから、賽銭泥棒なんてやめましょうね!」


「緒方巡査? 誰に言ってるんだ?」



「そして、初詣は敬虔な気持ちでね!」


「だから誰に……」



「そして、みんな幸せな世界でありますように!」


「……ああ、そうだな!」



「「「あけまして、おめでとうございます(なの)! 今年も皆さんお幸せに!」」」



――――――――――



「シンジ! お正月よ! 姫初めよ!」


「だからお前はまたそういうことを……」



「シンジ! ここは異世界よね?」


「ああ、そうだが?」



「わたしは日本のお正月を満喫したいのよーー! マンガ喫茶で満喫とか!」


「いや、正月にマンガ喫茶とかけっこう悲しいからな?!」



「ということで、日本に行くわよ!」


「ダメだ!」



「え、なんでよー?」


「クウちゃん、考えてみろ。ついこの前オレは日本に戻ってサンタさんをやったじゃないか?」



「ええ、そうね」


「今また日本に行ったら、異世界と地球の境界がガバガバになっちゃうじゃないか!」



「まあ、シンジったら。ガバガバなんていやらしい。」


「何の話だよ!」



「むうー、しょうがないわね! だったら、この異世界でお正月を満喫するしかないわね!」


「ああ、そうなるな。でも、いいのか?」



「え?」


「この異世界、アキン・ドーさんの影響でお祝いの料理はみんなタコヤキだぞ!」



「えー、なんだってー(棒)」


「わざとらしいなお前!」



「まあ、知ってたんだけどね!」


「やっぱりかい!」



「それはそうとシンジ? お正月って言うと、やっぱり幸せな気分になるのが肝要じゃない?」


「なんだ突然」



「『お正月』で『幸せ』と言ったら何かしら?」


「……お年玉?」



「そう! お年玉よ! お年玉をバラまいて、幸せの波動をこの異世界に満ち溢れさせるのよ!」


「バラまくとか言うな!」



「じゃあ、さっそく行くわよ! それー! 時空の女神さまからのお年玉よー!」


「人の話を聞け!」



 クウちゃんが空に向かって何やら唱えると、何やら丸い玉のようなものがゆっくりと空から降ってくるではないか。


「……玉を落とすからお年玉ってオチなのか?」


「惜しいわね! もうひとひねりしてあるわよ!」



 空から降ってきた丸いものを手に取って確かめてみる。


「これは……タコヤキだな」


「そうよ! この世界のお年玉にピッタリじゃない!」



 そんな馬鹿なという思いにとらわれつつも周りの反応を見ていると、なんとクウちゃんの言う通りみんな幸せな笑顔に包まれているではないか!


「おーほっほ! これで、この世界は幸せに包まれるわね!」


「……タコヤキ女神」



「その呼び方はやめて―!」



 この日以降、異世界の大きな街では慶事の時のタコヤキはいったん宙に放り投げてから口でキャッチするという、通称『女神い』という食べ方が作法になったのだとか……



「しょうもないな……」








◇ ◇ ◇ ◇



  あけましておめでとうございます。


  今年もよろしくお願い致します。

               

             桐島紀


 

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